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連載
立場と学科の選び方
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「エリシア? おーい、何をうなっているの?」
「え、ああ。ちょっと物思いに耽っていただけ」
シンに声をかけられ、エリシアは色々と思考が迷走していたことに気づく。
「ねえ、シンは神子様の騎士たちの話を知っている?」
「護衛? いっぱいいるんじゃない?」
エリシアに聞かれたが、シンの中で名前と顔が一致する護衛のほうが少ない。
王宮では扉や廊下を仕切るごとに十人ずつ増えそうな勢いだった。立っている常駐タイプもいれば、移動しながら巡回警護もしていた。
「これも噂なんだけど、貴族の中でその護衛の聖騎士様たちがレニたちに似てるって言われていて。ほとんどが遠目でしか見ていないから、確証はないんでしょうけどね」
何気なく言ったであろう、エリシアの発言に一瞬空気が凍り付いた。
シンはばっちり顔を隠してたが、レニたちは視界を遮らないためにも顔を覆っている時といない時があった。
どうしようとシンが振り返ると、レニが微笑んだ。覚悟を決めた笑みである。内心の焦りなど微塵も感じさせない様子で、照れくさそうな表情を作る。
「私たちもチェスター様……ドーベルマン伯爵様に援助を受けているので、王宮に上がる時があるんです。あの時もバイトとして王宮にいましたから間違えたんじゃないでしょうか?
祭りの時は王宮の一部も一般公開されるので、説明役や案内役として斡旋されるんです。本職の騎士は護衛に専念できるようにとの配慮もあるでしょうけれど」
「なるほど。貴方たちの後見人は宰相様ですものね。王宮の人事にも口添えできそう」
エリシアは納得した。
レニは嘘をついていないが、絶妙に現実と齟齬もある。
聖騎士やその見習いになるに伴い、三人ともチェスターの庇護を受けているのは事実だ。その裏には王家の指示がある。三人は正真正銘、神子専属の聖騎士(&見習い)だが、使いっ走りの役目をすることもある。
普段は学園に通いながら、シンの学友をしつつ護衛もしている。本命は、影に隠れている本職の精鋭兵たちだろうけれど、堂々と学内を歩きながら、シンのフォローをできる重要な立場だ。
「レニは頭が良いものね。将来女官を目指しているの? それとも王宮魔術師とか?」
他の学科に転科してもやっていけそうなくらい、レニは優秀だ。
シンも優秀だけれど、レニの魔力量や魔法の技量、知識は放置するのがもったいないくらいだと教師も話していた。
エリシアにもそんな突出した才能があれば、結婚に左右されない将来を考えられたかもしれない。
誰かに目をかけられてもらえるし、別の生き方もできるだろう。
「そうですね……魔法を学びたいと思っています。私はカミーユほど剣が使えるわけでも、ビャクヤのように鋭い五感を持っているわけでもありません」
「学科は普通科のままでいいの?」
「魔法を専攻するとそれだけしか学べないので。他のやりたいことも考えると、意外と効率悪いんですよね」
レニはメリットとデメリットを考え、普通科を選んだのだ。エリシアは貴族の娘だから、当然だと考えて貴族科にした。
なんだろうか。このままで良いのだろうか。エリシアは漠然とした不安を感じた。
シンはいつだって自分のやりたいことに邁進している。カミーユは特技を生かし、ビャクヤもより堅実に自分の将来を考えて騎士科にしたのだろう。
貴族の娘だから、そうするべきだから。それが普通だから。エリシアの漠然とした思い込みで、将来を決めてはいないだろうか。
同じ年ごろの女の子であるレニと、自分を比べて悲しくなってきた。
「え、ああ。ちょっと物思いに耽っていただけ」
シンに声をかけられ、エリシアは色々と思考が迷走していたことに気づく。
「ねえ、シンは神子様の騎士たちの話を知っている?」
「護衛? いっぱいいるんじゃない?」
エリシアに聞かれたが、シンの中で名前と顔が一致する護衛のほうが少ない。
王宮では扉や廊下を仕切るごとに十人ずつ増えそうな勢いだった。立っている常駐タイプもいれば、移動しながら巡回警護もしていた。
「これも噂なんだけど、貴族の中でその護衛の聖騎士様たちがレニたちに似てるって言われていて。ほとんどが遠目でしか見ていないから、確証はないんでしょうけどね」
何気なく言ったであろう、エリシアの発言に一瞬空気が凍り付いた。
シンはばっちり顔を隠してたが、レニたちは視界を遮らないためにも顔を覆っている時といない時があった。
どうしようとシンが振り返ると、レニが微笑んだ。覚悟を決めた笑みである。内心の焦りなど微塵も感じさせない様子で、照れくさそうな表情を作る。
「私たちもチェスター様……ドーベルマン伯爵様に援助を受けているので、王宮に上がる時があるんです。あの時もバイトとして王宮にいましたから間違えたんじゃないでしょうか?
祭りの時は王宮の一部も一般公開されるので、説明役や案内役として斡旋されるんです。本職の騎士は護衛に専念できるようにとの配慮もあるでしょうけれど」
「なるほど。貴方たちの後見人は宰相様ですものね。王宮の人事にも口添えできそう」
エリシアは納得した。
レニは嘘をついていないが、絶妙に現実と齟齬もある。
聖騎士やその見習いになるに伴い、三人ともチェスターの庇護を受けているのは事実だ。その裏には王家の指示がある。三人は正真正銘、神子専属の聖騎士(&見習い)だが、使いっ走りの役目をすることもある。
普段は学園に通いながら、シンの学友をしつつ護衛もしている。本命は、影に隠れている本職の精鋭兵たちだろうけれど、堂々と学内を歩きながら、シンのフォローをできる重要な立場だ。
「レニは頭が良いものね。将来女官を目指しているの? それとも王宮魔術師とか?」
他の学科に転科してもやっていけそうなくらい、レニは優秀だ。
シンも優秀だけれど、レニの魔力量や魔法の技量、知識は放置するのがもったいないくらいだと教師も話していた。
エリシアにもそんな突出した才能があれば、結婚に左右されない将来を考えられたかもしれない。
誰かに目をかけられてもらえるし、別の生き方もできるだろう。
「そうですね……魔法を学びたいと思っています。私はカミーユほど剣が使えるわけでも、ビャクヤのように鋭い五感を持っているわけでもありません」
「学科は普通科のままでいいの?」
「魔法を専攻するとそれだけしか学べないので。他のやりたいことも考えると、意外と効率悪いんですよね」
レニはメリットとデメリットを考え、普通科を選んだのだ。エリシアは貴族の娘だから、当然だと考えて貴族科にした。
なんだろうか。このままで良いのだろうか。エリシアは漠然とした不安を感じた。
シンはいつだって自分のやりたいことに邁進している。カミーユは特技を生かし、ビャクヤもより堅実に自分の将来を考えて騎士科にしたのだろう。
貴族の娘だから、そうするべきだから。それが普通だから。エリシアの漠然とした思い込みで、将来を決めてはいないだろうか。
同じ年ごろの女の子であるレニと、自分を比べて悲しくなってきた。
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