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複雑な心
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「そう、レニ。貴女はいいわね。自分のやりたいことが分かっている」
「エリシア?」
それに比べて、自分はどうだろうか。
ちょっと前までは太った己から逃げて、やけ食いする毎日。シンの助言もあり痩せたけれど、外見が変わってもエリシアの状況は好転はしていない。婚約者どころか、候補すらいない。貴族の娘らしくあろうと必死に相手を探している。本当はその人と結婚したいなんて微塵も思っていないのに、それが普通だからと。
周りがそうだから、とエリシアの気持ちはどこかに置いて行かれていた。
レニのように自分の意思がない。決められた道を探している。それが正しいはずだからと。
(これで本当にいいの?)
そんな思いが、エリシアの胸中にわだかまっていた。日増しに肥大している気がする。
エリシアが神妙な顔をしているので、レニは不思議に思ってしまう。名前を読んでみるが、エリシアは苦笑して首を横に振るだけだ。
「ううん、ちょっと羨ましかっただけ。婚約者探しも上手く行ってなくて、少し迷っていたのかも」
いつもと様子の違うエリシアに、シンたちも顔を見合わせる。敏いビャクヤは何かを感じたようだが、カミーユは全く分かっていなさそうだ。
「まあまあ。エリシアちゃん。そんで親父さんを煙に巻けそうなええ手紙を書けそうなん?」
さくっと話題転換をするビャクヤ。明るい声で、暗くなりかけた空気を吹き飛ばす。
ビャクヤの助け舟を察したのか、エリシアの表情も少し明るくなる。気遣ってくれたのだから、ぐだぐだと湿っぽいままではいられない。
「正直、神子様じゃないかって噂になっている生徒ってだけじゃ、パンチが足りないのよね」
「ダメなの?」
「加護の詐称って結構国内外で起こっているのよ。雇用の時とかで経歴を偽るような軽いノリでやっちゃう人も多いから」
「ダメじゃん」
色々な意味でダメである。そんな虚偽申告が横行したら、大問題だ。国や神殿は、その加護詐称を取り締まらないのだろうか。
シンが真顔で言うと、エリシアはくすくす笑った。
「私も加護があったら良かったのに。騎獣の神様っていたかしら?」
「獣神キマイラ様ならいるよ」
「知ってる! 今年の祭りで、神子様の前に降臨なさって神託をくださったのよね? ねえねえ、貴方たちって王宮にいたのよね? 見た? きっと、とても荘厳で神秘的なお姿なんでしょうね」
楽しげに話すエリシアに、シンはきゅっと口を真一文字に引き結んだ。
キマイラの姿を知らないエリシアはうっとりとしていた。目を閉じて頬を染め、両手を胸の前で組んで、知らぬ神への想像を膨らませている。
シンの知っている獣神キマイラは、伸び縮みする尻尾付きの毛玉である。黒い丸石のようなつぶらな瞳が顔らしき部分に付いている、シンプルを極めたご尊顔だ。
間延びした声に軽いノリ。キマイラという名前も、本当ではない。正式な名前は、人間の耳には聞き取れず、筆舌に尽くしがたい発音になっている。
「ウ、ウン、ソウダネ」
うら若い乙女の期待を木っ端微塵にするような真似、シンにはできなかった。
かの神が荘厳とは対極にいる、珍奇でユーモラスな毛玉であるなんて言えない。
ぎくしゃくとぎこちない返事をするシンに、キマイラの姿が残念なことを察するレニたちである。
「エリシア?」
それに比べて、自分はどうだろうか。
ちょっと前までは太った己から逃げて、やけ食いする毎日。シンの助言もあり痩せたけれど、外見が変わってもエリシアの状況は好転はしていない。婚約者どころか、候補すらいない。貴族の娘らしくあろうと必死に相手を探している。本当はその人と結婚したいなんて微塵も思っていないのに、それが普通だからと。
周りがそうだから、とエリシアの気持ちはどこかに置いて行かれていた。
レニのように自分の意思がない。決められた道を探している。それが正しいはずだからと。
(これで本当にいいの?)
そんな思いが、エリシアの胸中にわだかまっていた。日増しに肥大している気がする。
エリシアが神妙な顔をしているので、レニは不思議に思ってしまう。名前を読んでみるが、エリシアは苦笑して首を横に振るだけだ。
「ううん、ちょっと羨ましかっただけ。婚約者探しも上手く行ってなくて、少し迷っていたのかも」
いつもと様子の違うエリシアに、シンたちも顔を見合わせる。敏いビャクヤは何かを感じたようだが、カミーユは全く分かっていなさそうだ。
「まあまあ。エリシアちゃん。そんで親父さんを煙に巻けそうなええ手紙を書けそうなん?」
さくっと話題転換をするビャクヤ。明るい声で、暗くなりかけた空気を吹き飛ばす。
ビャクヤの助け舟を察したのか、エリシアの表情も少し明るくなる。気遣ってくれたのだから、ぐだぐだと湿っぽいままではいられない。
「正直、神子様じゃないかって噂になっている生徒ってだけじゃ、パンチが足りないのよね」
「ダメなの?」
「加護の詐称って結構国内外で起こっているのよ。雇用の時とかで経歴を偽るような軽いノリでやっちゃう人も多いから」
「ダメじゃん」
色々な意味でダメである。そんな虚偽申告が横行したら、大問題だ。国や神殿は、その加護詐称を取り締まらないのだろうか。
シンが真顔で言うと、エリシアはくすくす笑った。
「私も加護があったら良かったのに。騎獣の神様っていたかしら?」
「獣神キマイラ様ならいるよ」
「知ってる! 今年の祭りで、神子様の前に降臨なさって神託をくださったのよね? ねえねえ、貴方たちって王宮にいたのよね? 見た? きっと、とても荘厳で神秘的なお姿なんでしょうね」
楽しげに話すエリシアに、シンはきゅっと口を真一文字に引き結んだ。
キマイラの姿を知らないエリシアはうっとりとしていた。目を閉じて頬を染め、両手を胸の前で組んで、知らぬ神への想像を膨らませている。
シンの知っている獣神キマイラは、伸び縮みする尻尾付きの毛玉である。黒い丸石のようなつぶらな瞳が顔らしき部分に付いている、シンプルを極めたご尊顔だ。
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