187 / 222
連載
騎獣のためなら
しおりを挟む
学園に戻り、いつもの学生生活が始まった。
恒例の温室で、いつものメンバーが揃っていた。部活用や調合に使う香草を収穫して、シンたちはのんびりと休憩中。そんな中、一人必死に動いているのはエリシアである。
捕まえた白マンドレイクなら騎獣の餌にしていいとシンから許可を得たので、エリシアは先ほどから走り回っている。
手を伸ばしてもあっちこっちへ走り出す。しかもぬるぬる動くので、謎にくねった動きで回避するのだ。その時のポーズが、絶妙に苛立つ。
「捕まえたー!」
ようやく捕まえた一匹を掲げるエリシア。ロープでくくると吊るす。地面に置くと、動き回るので落とした時のためにも、きっちり縛っておかなくてはいけない。地面から距離が離れると、大人しくなるのが白マンドレイクの習性である。
「エリシア、あとどれくらい採るの?」
「あら、採り過ぎかしら? 一頭一つずつくらいは行き渡らせたいから、もっと必要ね」
「別にいくらでも取っていいけど、サイズにばらつきあるし、大きいのは切っちゃえば?」
シンの言葉に、エリシアはぴたりと止まる。今まで捕まえたマンドレイクを見る。人参サイズもあれば、規格外の聖護院ボディのマンドレイクもいる。
一頭に一つずつと思っても、あれでは差がありすぎて却って不公平だ。
「……今日はこれくらいにしておきましょう」
足りると判断し、エリシアはうなずいて手を止めた。
シンとしては雑草のようにいつの間にか増えるので間引いてくれるのは助かる。動く分、マンドレイクは他の雑草より面倒なのだ。
多少ウロチョロする態度ならいいが、増えすぎると自分のテリトリーを広げようと他の畝を侵食するのだ。夏休みの直後なんかは、完全に占領されていた。
(あれは半分グレゴリオ先生が悪いけれど……)
忘れがちだが、白マンドレイクは稀少な魔法植物。レア素材でレア食材なのだ。
ちなみに以前、堆肥エリアにいた白マンドレイクから派生した亜種、黒マンドレイクもゆっくりだが数を増やしている。
白マンドレイクより肥沃な土地を好むようで、堆肥の周辺ばかりに陣取っている。ちなみにプランター栽培は嫌いらしく、しょっちゅう脱走している。黒マンドレイクも動くのだ。近々、レア食材として冒険者ギルドに卸す予定である。
エリシアもやりたいことがひと段落したようだし、そろそろ声をかけて良さそうだ。シンはミリアからもらった手紙を持って、エリシアに近づいた。
「そうだ。エリシア。実はお誘いがあるんだけど」
「お誘い?」
「ミリア様……僕の後見人のドーベルマン伯爵夫人が、来週お茶会を開くんだ。急な話だけれど、よかったら来ない? 伯爵家の馬車が来るし、安全だよ」
シンが差し出したのは、ドーベルマン伯爵家の紋章を模した封蠟付き手紙。中身は当然招待状だ。
恒例の温室で、いつものメンバーが揃っていた。部活用や調合に使う香草を収穫して、シンたちはのんびりと休憩中。そんな中、一人必死に動いているのはエリシアである。
捕まえた白マンドレイクなら騎獣の餌にしていいとシンから許可を得たので、エリシアは先ほどから走り回っている。
手を伸ばしてもあっちこっちへ走り出す。しかもぬるぬる動くので、謎にくねった動きで回避するのだ。その時のポーズが、絶妙に苛立つ。
「捕まえたー!」
ようやく捕まえた一匹を掲げるエリシア。ロープでくくると吊るす。地面に置くと、動き回るので落とした時のためにも、きっちり縛っておかなくてはいけない。地面から距離が離れると、大人しくなるのが白マンドレイクの習性である。
「エリシア、あとどれくらい採るの?」
「あら、採り過ぎかしら? 一頭一つずつくらいは行き渡らせたいから、もっと必要ね」
「別にいくらでも取っていいけど、サイズにばらつきあるし、大きいのは切っちゃえば?」
シンの言葉に、エリシアはぴたりと止まる。今まで捕まえたマンドレイクを見る。人参サイズもあれば、規格外の聖護院ボディのマンドレイクもいる。
一頭に一つずつと思っても、あれでは差がありすぎて却って不公平だ。
「……今日はこれくらいにしておきましょう」
足りると判断し、エリシアはうなずいて手を止めた。
シンとしては雑草のようにいつの間にか増えるので間引いてくれるのは助かる。動く分、マンドレイクは他の雑草より面倒なのだ。
多少ウロチョロする態度ならいいが、増えすぎると自分のテリトリーを広げようと他の畝を侵食するのだ。夏休みの直後なんかは、完全に占領されていた。
(あれは半分グレゴリオ先生が悪いけれど……)
忘れがちだが、白マンドレイクは稀少な魔法植物。レア素材でレア食材なのだ。
ちなみに以前、堆肥エリアにいた白マンドレイクから派生した亜種、黒マンドレイクもゆっくりだが数を増やしている。
白マンドレイクより肥沃な土地を好むようで、堆肥の周辺ばかりに陣取っている。ちなみにプランター栽培は嫌いらしく、しょっちゅう脱走している。黒マンドレイクも動くのだ。近々、レア食材として冒険者ギルドに卸す予定である。
エリシアもやりたいことがひと段落したようだし、そろそろ声をかけて良さそうだ。シンはミリアからもらった手紙を持って、エリシアに近づいた。
「そうだ。エリシア。実はお誘いがあるんだけど」
「お誘い?」
「ミリア様……僕の後見人のドーベルマン伯爵夫人が、来週お茶会を開くんだ。急な話だけれど、よかったら来ない? 伯爵家の馬車が来るし、安全だよ」
シンが差し出したのは、ドーベルマン伯爵家の紋章を模した封蠟付き手紙。中身は当然招待状だ。
5,883
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
ありふれた聖女のざまぁ
雨野千潤
ファンタジー
突然勇者パーティを追い出された聖女アイリス。
異世界から送られた特別な愛し子聖女の方がふさわしいとのことですが…
「…あの、もう魔王は討伐し終わったんですが」
「何を言う。王都に帰還して陛下に報告するまでが魔王討伐だ」
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです
天宮有
恋愛
子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。
数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。
そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。
どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。
家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。