余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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襲撃or待機?

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 馬車を停止し、静かに誘拐犯とエリシアがいる方角を観察する。食い入るように睨むのはレニだ。エリシアが心配なのだろう。

「どうしましょうか……応援を待ちますか?」

「そのほうがいい。相手の数は把握しているだけで、我々の倍はいる。それなりに広さがあるから、どれだけ潜んでいるか未知数だ。突入は危険すぎる」

 レニの問いに、リヒターがうなずいた。
 馬車の中にはリヒター以外は、対人の実戦経験の少なそうな若者ばかり。王族相当身分の神子もいるし、このメンバーで突入は問題がありすぎる。

「応援はどれくらいでくるん?」

「あと三十分後に来る。大所帯で堂々と来たらバレるから、小部隊を編成して周囲を包囲する予定だ」

 ついさっきシンたちもこの場所に到着したばかりだと言うのに、迅速な対応である。質問をしたビャクヤは、目を丸くする。
 しかし、馬車にシンがいることを思い出して、納得した。

「すぐ来るなら、待っていたほうが得策でござるな。確実に相手を仕留めるべきでご……誰かくるでござるよ!」

 カミーユは最初、のんきそうな口調だったが、後半は小声で鋭く警告をした。
 その言葉に馬車の中にも緊張が走った。規則的な馬蹄の音と、道を進む馬車の車輪と地面がぶつかる音がだんだんだんだん近づいてくる。
 それなりに大きいが、装飾や家紋などが一切あしらわれていないシンプルな馬車。それが、例の屋敷に入っていった。

「ねえ、まさかあの馬車でエリシアを連れて移動したりしないよね?」

「分からない。だが、尾行に気づかれていなくても警戒していたら十分考えられるな」

 心配するシンの声に、リヒターがボロボロの門扉を睨みつけながら言う。どんなに見ても、雑草で阻まれて屋敷内部を見ることはできない。それが分かっていても、何か情報がないかと視線を送ってしまう。
 そうでなくても例のロリコンがあの馬車に乗っていたら、エリシアは何をされるか分からない。

「……行こう。奇襲だったら、制圧できるかもしれない」

「ダメだ、シン君。危険すぎる」

「隠れながらの戦闘は得意です。幸い、屋敷は隠れるところが多いはず。あの草木の生い茂る庭だったら、狩人の僕のほうが有利です」

 馬車を出ようとするシンを引き留めるリヒター。そのやり方が、制服の首の後ろを掴みながらという物理的な拘束付きだった。小さな犬猫を運ぶときのような掴み方だが、言葉だけの制止だったら、シンは屋敷に向かってしまっていただろう。そういう意味では正しい判断である。
 互いの主張が衝突し、睨み合いになってしまったシンとリヒター。
 双方の意見が理解できるため、押し黙ってしまうレニとカミーユとビャクヤ。
 その膠着状態は、数秒で終わりを告げた。屋敷から、叫び声と物音が聞こえたのだ。屋敷から馬車までそれなりに距離がある。ここまで響いたということは、屋敷の中では大ごとになっていると考えられた。

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