余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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屋敷内では

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 エリシアと同じ考えにごろつきもなったらしい。ジャニスを忌々しそうに見ている。

「公爵家の私があんな低レベルな家に婿入りさせられて……! やたらとでかい態度の妻と、それに似た可愛くない息子! あのような気の強い女ではなく。もっと私好みの従順で若い嫁が良かったのだ!」

 潔いくらいわがままな理由である。わずかに生まれたかもしれない同情が蒸発した。
 雇われたはずのごろつきですら、心底蔑んだ目でジャニスを見ている。いい年して、甘ったれたボンボンの精神をしている。

「ふん!」

 ムカついたので、エリシアは手近な椅子を再び投げつけてやった。思ったより重くて、やっぱり届かなかった。当たらなかったことが非常に残念である。
 どんくさそうなジャニスだが、意外とちょこまかと動いて避けてくる。

「なんちゅー乱暴な! 家具を投げるな! 家具を!」

「ほぼ廃材じゃない」

 喚くジャニスに、冷たくエリシアは吐き捨てた。
 つかんだだけでギシギシと音がしていた。あの程度で軋む椅子なら、ジャニスが座れば壊れるだろう。






(ど、どうしたものか)

 エリシアが誘拐犯と同じ部屋にいるらしい。
 二人して大声でケンカをするから、廊下の角で隠れていたシンたちまで筒抜けだった。
 ジャニスはエリシアを誘拐し、金に換えるためにごろつきを雇ったようだ。しかし、所詮金で雇われたごろつきに忠誠心はない。真面目に仕事をする気もないらしい。
 監視対象が少女一人ということもあってか、ほとんどが酒を飲んで寝こけていた。残る数人で、警備をしても穴だらけだ。やる気ゼロで警備を本職にしてもいないので、思い出したように見回りをするだけだ。

(ジャニスだけならともかく、同じ部屋にごろつきがいる。エリシアを人質にされたらおしまいだ)

 エリシアが暴れて投げた椅子が、いい具合に扉に当たって全開になっている。蝶番が外れて、廊下に扉が倒れていた。
 二人が騒いでいる限り雇われごろつきはこちらに意識を向ける可能性は低い。
 屋敷に侵入してしまったからには、長居はできない。増援の見込みはあるが、その顔ぶれをシンは知らない。リヒターなら分かるだろうけれど、来る前に対処したい。
 カミーユとビャクヤは、少し離れたところでこちらに人が来ないか警戒している。

「騒いでいるうちにジャニスを捕まえよう。あの部屋には戦力になるのはごろつき一人だけだ」

「……なら、私が魔法で目くらましをします。リヒター様が切り込んで、シン君は援護を」

「僕も接近戦できるけど?」

 基本はロングレンジ派だが、ナイフでも多少の戦闘はできる。タニキ村では狩人生活だ。油断していると、獣や魔物に肉薄されることがある。

「ダメに決まっているでしょう。シン君がもし怪我をしたらミリア様とドーベルマン邸で療養という名の軟禁生活、もしくは王城の神子用の離宮で生活することになりますよ」

「あ、ごめんなさい。すみません」

 ぴしゃりとレニが釘を刺す。思ったより強めのレスポンスに、シンが思わず謝ってしまう。シンの楽しい学生生活は、ちょっとしたことで消える可能性があるのだ。
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