余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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お詫びとして

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 話は戻り、エリシアである。彼女は誘拐されたが特にトラウマもなく、熱が下がった後はすこぶる元気だった。
 惜しむミリアを振り切り何とか寮に帰り、いつも通りに登校した。すると、ジーニーからお呼びがかかった。
 最初は驚愕と恐怖が半分だったが、シンも一緒だったので何とか平常心でいられた。
 人気のない教室まで行くと、ジーニーはへにゃりと眉を下げた。

「いやぁ~……申し訳ない! うちの永遠の生き恥が本当にごめんね。アイツはマラミュート公爵家から勘当されたのは伝わっているかな? 絶縁したし、今後は平民として裁判にかけられて鉱山送りになると思う。平民が貴族令嬢を誘拐したってのは、重罪だからね」

 鉱山は西の辺地で、寒くはないが巨大な虫型モンスターがわんさかいるそうだ。
 裁判後、ジャニスの送られる坑道にも少なからず住み着いており、年に何人も行方不明者が出ているという。過酷な労働だけでなく、いつ魔物に襲われるか分からない恐怖がまとわりつく。ティンパイン有数の、重犯罪者の流刑地の一つである。

「一応、ジャニスの手下にうちの私兵を潜り込ませていたけれど、シン君たちが奪還に来るほうが早かった。それも世話をかけたね」

「ごろつきたちが追いかけてこなかったのは、それでですか」

「うん、ジャニスが妙な真似をするようだったらちょん切ってこさせるつもりだった」

 どこをちょん切るんだろうか。
 シンは一瞬思ったが、首か一物だろうとざっくり判断した。にっこりとやけに深い笑みのジーニーを見ていると、そう思ったのだ。

「あの誘拐も、ちょーっとタイミングが悪かったのよね。ジャニスの手下が学園に来た時、ちょうど極秘の来客があったらしくって……守衛や門番も、そっちと思っちゃったみたい」

 極秘の来客と聞いて、何故か思い浮かんだのは紫色の変態だ。
 特殊な嗅覚を持つ、アイザック・カイデンスキー。シンの神の加護を真っ先に看破した、変態である。彼の嗅覚は、加護をとても良い匂いと感じる。
 初対面のシンを、猫吸いのごとく吸引してきた男である。

「時間と馬車の姿がモロ被り。あの生き恥、たまーに強運を発揮するから厄介なのよね。まあ、今後はちょっとやそっとじゃこっちに戻れないけど」

「戻ってこられたら困りますよ」

 冗談でもあって欲しくない。ジーニーの言葉に、シンも首肯する。
 あんな際物が王都をうろうろされて、また友人に目を付けてきたら嫌である。そういえば、エリシアが一言もしゃべっていない。

「エリシア?」

「シン、いくら部活の先輩だからって気安すぎるのではないかしら……?」

 シンは平民、ジーニーは公爵令嬢(次期当主)である。シンの言動が畏れ多すぎて、付いていけていなかったようだ。
 学園内は基本平等を掲げているが、身分や貴族社会の影響はやはりある。

「えーっ、堅苦しいほうがイヤなんですけどー」

 エリシアの言葉に、ジーニーはブーイングを入れる。彼女はフランクに接してほしいタイプだ。錬金術部にはこの手のタイプが多い。
 しがらみを遙か彼方にぶん投げて、己の食欲のままに暴走する。それが錬金術部の部員の在り方だ。
 部費で買う食材についてのディベートは戦争のようだが、基本は仲良しである。

「お詫びといっちゃなんだけど……君のところの米、うちに卸さない? 高級レストランから、下町のカフェや居酒屋まで手広くやってるからそれなりの取引になるよ」

「え、ええ! うちの飼料……じゃなくて、米を!?」

 シンに続き、新しい販路ができるかもしれない。
 だが、エリシアの一存では判断しかねるので即答できない。
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