余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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販路のお誘い

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「ええと、兄や父に話を通してからの返答で良いでしょうか?」

「了解。シン君が男子寮でこそこそ美味しそうなものを食べてたって聞いてね。内緒で探っていたのよ。ほら、米って安価だし主食として活用法が多そうなのよね。飼料っていう先入観なんて、美味しいの前では些細なことよ」

 領地の運営については、エリシアよりセブランたちの管轄だ。いくら家族でも、エリシアは口出ししにくいのだろう。ジーニーもその辺には理解があるので、急かすことはなかった。
 貴族の思考に馴染みはないが、それとは別に美味しいは正義というのはシンにも分かる。

「同感」

 静かにうなずくシンである。日本人は食への興味が強い。
 毒があっても、あらゆる調理法を試みて食べようとする国民性だ。
 シンも料理はするが、もっと身近に食べられるようになれば嬉しい。自炊も悪くないが、外食でも食べたい時がある。

「あ、ちなみにセブラン殿は乗り気だったよ」

 そっちに話が通っているなら、ほぼ確定ではないだろうか。そう思ったのはエリシアも同じらしく、微妙な顔だ。

「ただ、今回はうちが生産してしまった馬鹿の非礼を詫びたいからこその提案だよ。エリシア嬢にできる賠償なんてたかが知れている。マルチーズ家へという形のほうが、のちのちのためにもいいと思ってね。
 個人的に、あの愚か者の言動には辟易していてね。完全に我がマラミュート公爵家から切り離す、最高の口実だった。あの馬鹿を祭り上げて甘い汁を啜ろうとした連中もあぶり出せそうだし、こちらにメリットが多すぎるくらいだ」

 何でもないようにジーニーは語る。今日の天気でも話しているかのごとく、他愛のない口調で。
 眼鏡の奥の目が細くなり、唇は弧を描いている。でも笑っていない。その時、初めてジーニーの次期公爵としての顔が見えた気がした。
 こういった人間が未来の国を担うのは頼もしいが、少し恐ろしくも感じる。

「と、まあ。つまらない話はこのくらいにしておこう。何度も蒸し返して、エリシア嬢に不快な思いをさせたくない。あの男は人のイヤな部分をピンポイントに突いてくるから」

「ああ、分かる気がします」

 体形のことを言われたエリシアが、淀んだ目で同意した。
 誘拐された際、屋敷で怒鳴り合いになっていたのはシンも知っている。だが、その内容を一言一句聞き取れるまで近くにいなかった。多少漏れ聞こえた単語をいくつか拾った程度である。
 その時点で、ジャニスは言ってはならぬ乙女の禁句をぶちかましていた。
 エリシアの表情からして、二度と会いたくないのは明白である。誘拐されたことへの恐怖心というより、ジャニスそのものへの明確な嫌悪が出ている。

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