余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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貴族の事業

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「それとこれを。うちもそれなりに大きな家だからね。現在、コネや伝手を募集中と聞いたし、我が屋敷で開催されるお茶会や夜会への招待状だよ。
 貴族はもちろん、騎士や商家の名家も招待客にいるから大いに利用してくれたまえ!」

 カードを広げるように、封筒を手に持つジーニー。扇になるくらい、枚数がある。
 しばらく目を丸くして見ていたエリシアだが、だんだんと状況を理解して目を輝かせる。

「え……ええ!? よろしいですの?」

「君の兄君の取引探すもよし。エリシア嬢の婚約者探しなら、下級貴族や新興貴族くらいなら多少いるかな。年の差があっていいのなら、早くに妻に先立たれて後添いを探している……というパターンも」

 受け取ったエリシアは神妙な顔をしている。もっと喜ぶと思ったのに意外な反応だ。
 シンが不思議そうに見ていると、ジーニーと目が合った。ニヤリと悪戯っぽく笑う。

「まあ、君の隣より将来性の高い財力持ちはいないけれどね!」

 いきなりそんなことを言われ、驚いたのはシンである。隣にいたエリシアも固まっている。
 もしや、美容系のレシピでぼろ儲けしているのがばれているのだろうか。それらの関係は、信頼できるミリアとドーベルマン伯爵家の全面バックアップでやっているはず。ちょっとやそっとではバレないはずなのに。

「えーと、ジーニー先輩?」

 背中に汗をかきながら、シンはどう言い訳しようかと考える。
 にんまりと含みたっぷりの笑みを浮かべたジーニーは、ドスドスとシンの胸を指で突いてくる。

「広い分野に興味を持ち、新しい販路を得るのはいいことだ。だが、常連や昔馴染みを疎かにするのはいただけないなぁ」

「は、はぁ……」

 そんな不義理をした覚えはないのだが。
 シンは困惑しながら、どうしたものかと歯切れの悪い返事をする。
 分かっていないシンに、ずいっとジーニーが近づく。吐息がかかるほど顔が近い。ジーニーは眼鏡を怪しく光らせながら、ぼそりと言った。

「最近、冒険者ギルドに食材を卸してくれていないじゃないか。寂しいなぁ。君の用意する食材はどれも人気なのに」

 その言葉に、シンの中で疑問と答えのピースがカチリと嵌まった。
 そういえば、ここ最近は冒険者業を抑え気味であった。高級レストラン用の食材の納品もご無沙汰である。白マンドレイクは定期的に出していたが、それ以外となるとほとんど出していない。

「ええええ! あああ!?」

 思わず、素っ頓狂な声が出る。
 ジーニーの家は多方面に飲食業を展開している。
 平民から貴族まで、幅広い層に複数の店舗を経営しているのだ。その中に、シンの食材を愛顧している高級レストランも含まれているということだ。
 まさか、こんなに身近にオーナー(次期かもしれない)がいたなんて。
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