余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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持ちつ持たれつ

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「ちょっと、シン! どういうこと!?」

「ご贔屓の大客がジーニー先輩だったみたい」

 シンにつられてパニックを起こしているエリシアが、シンの胸ぐらをつかんでがくがく揺さぶる。エリシアの混乱ぶりが分かる、なかなかにダイナミックな訴えだ。
 シンだって今さっき知ったのだ。別に黙っていたわけではない。エリシアほどではないけれど、結構驚いている。意外と世間は狭いものである。

「客!? シンが貴族を相手にするような商売をしていたの?」

「冒険者としてだよ。食材を出していたんだよ。最近は外に出ることが少なくて、採集も狩りもしてなかったからなぁ……頑張ります」

揺さぶられながら答えたシンに、エリシアが納得した。そこでやっと、シンの襟がぐちゃぐちゃになるくらい乱暴に揺すっていたことに気づいて、気まずそうに手を離した。

「ああ、そういうこと……だったの」

 今は化粧水については黙っておこう。今度は首を絞められるかもしれない。ちょっと心配になって、思わず口が堅くなる。

「頼んだよぉ~。うちは季節ものや稀少食材を扱うのがウリなんだから」

 のんびりとした声で、きっちり催促するジーニー。
 襟を直しながらシンはうなずいた。見合った報酬は貰っていたし、期待されていたのは知っている。蔑ろにしたつもりはなかったが、学業や神子業が忙しくて納品が滞っていたのは事実だ。

「レアな食材……うーん」

 ボア系ならその辺にたくさんいるが、シンに求められているのは人気や一般的な食材じゃない。
 異次元バッグの中身を思い出そうとすると、ジーニーが声をかけてきた。

「あれは? 前、ウォーターマッシュルームを卸してくれたじゃん。あれでもう採り尽くしちゃった?」

「あるとは……思います。あ、あと大きな甲殻類は需要あります?」

「もちろん」

 ウォーターマッシュルームは滝の裏側の洞窟にあった。滝の周辺には魚類だけでなく、特大のエビや蟹の魔物がいたはずだ。
 あの時は雷撃を落として一気に乱獲してしまったが、だいぶ経った。魔物だし、だいぶ数も戻っていると思いたい。
 あの巨大レイクサーペントはもういないはず。あのような大蛇、二度も相手をしたくない。
 氷魔法の冷気ゴリ押しで何とか倒せた。冒険者ギルドに出したら、蛇皮が人気であったこともあり高値で売れたのは良い思い出。それとは別に、自分より何倍もでかい爬虫類は怖い。これは本能である。倒せても怖いし、嫌なのだ。

「ねえ、シン。食材をとってくるのって、そんなに儲かるものなの?」

「うーん、他の比較対象をしらないからなんとも。でも、高級レストランだから、並の店では比べようもないだろうね。確かに支払いが良かったよ」

 だが、将来有望と言わしめるほどではないと思う。
 やっぱり、ジーニーはレシピの収入を知っているのかもしれない。藪蛇になりそうだから深く追究できない。むやみやたらと真実を追い求めても、幸せになれるとは限らない。知らないほうが良いことなんて、この世にごまんとある。
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