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連載
これからどうする?
しおりを挟む「シンは冒険者なのね。よく温室で薬草を育てているから、どちらかといえば薬師や錬金術師のギルドに所属していると思っていたわ」
「僕はあくまで趣味の領域だよ。狩人だし、冒険者のほうが両立しやすいんだ。冒険者のギルドカードは、長く依頼をやっていないと失効しちゃうから気をつけておかないとな。低ランクの時より猶予期間が長くなっているけれど、油断していると忘れそう」
シンの作るポーションは、何故か苦みが少ない。スポーツドリンクのような飲みやすい味なのだ。塩と砂糖とクエン酸は使用していない。調合には魔力という、ファンタジー要素が絡んでいるのでその味に至る原理は不明である。
「オイオイオイ。そんなことになったら困るよ、シン君。新しい採取用の冒険者を探すのは結構大変なんだ。冒険者は知識不足や、大雑把なのが多いからね。その辺の扱いを心得ている人じゃなきゃ」
シンとエリシアの会話を聞いて、ジーニーは物申す。経営者としては、貴重な人材を失いたくない。
失効してしまった冒険者の中には、面倒になって別の職を探す者もいるのだ。ある程度ランクを得ると、証人や貴族からのスカウトも来る。そこで専属になってしまえば、おいそれと依頼なんてできない。
「とりあえずまあ、頼んだよ。君は冬になったら、例年通り故郷の村へと戻るんだろう?」
故郷の村とは、タニキ村のことだ。本当の故郷は日本だ。こちらでは異世界だし、戻れない。
シンは冬休みになると、雪で道が閉ざされる前にタニキ村に戻る。そして、春に戻ってくるのだ。今年もその予定である。
「そうですね、タニキ村に戻ります」
だが、その前に行きたいところがある。
エリシアの実家のある、マルチーズ領地。そこには芯の愛してやまない、米がある。
ジャニスが起こした騒動で、米の大半はダメになってしまった。ジャニスにとっては、米は値打ちのない飼料用の雑穀。セブランから奪った後、適当に荒れた庭に放置しており鳥や鼠につつかれ放題になっていた。
運悪く雨風にさらされ、衛生上の問題もあり断念したのだ。
本当にろくなことをしない男である。
シンは他人に強い憎悪を持たない性格だと思っていた。瞬間的な怒りはあっても、持続しない。だが、この事実を思い返すたびに鮮度抜群の怒りが何度でも込み上げる。毎朝、寝起きに机の脚や壁に足の小指をぶつけて欲しい。夜まで痛みを引きずるくらいに強く、だけど骨折はしない程度の強さで何度も痛い目を見てくれるとベストだ。
その後、それぞれ帰路に就く。
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