余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ

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一人部屋にて

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 シンの寮部屋は、一人で使っている。
 自分一人で使っていたから気にしていなかったが、建物の構造の都合により少し小さいそうだ。なので、新しい生徒が入っても同室になるのは後回しにされる。正直、他人と同室になると気を使うのでありがたい。
 ここ数日、二人の偽神子の正体が知れ渡り、噂の大半を占めている。エリシアが誘拐されたことは全く話題に出なかった。
 ミリアやジーニーが裏で動いてくれたのかもしれない。エリシアは貴族のお嬢様である。被害者でありながら、悪い風評が立っては今後に差し障える。未婚なので細心の注意が求められるのだ。
 だが、シンが気になっていることが一つ。

(気のせいか、なんか以前より熱が引いている気がするんだよな)

 今日も、ジーニーから社交場への招待状をもらっていたが落ち着いていた。喜んではいたが、以前のような張り詰めた気合いがないのだ。
 ドーベルマン伯爵家は別枠だ。エリシアがミリアの熱烈なファンなので、そちらに関心が寄っている。
 婚約者探しは継続しているようだけれど、前の飢餓感がない。

(もしかして、ミリア様から紹介があった? でもそんなこと聞いていないし、そうだったらミリア様の顔を立てるためにも八方美人な真似はしないと思うし)

 ドーベルマン伯爵家とマラミュート公爵家の両方に良い顔をして、双方の面目を潰したら本末転倒だ。エリシアはそこまで愚かではないし、不誠実でもない。
 欲をかいた失敗ではなく、むしろ気遣って状況をややこしくする方があり得た。
 エリシアは辺境伯令嬢だが、現役宰相がいる伯爵家や公爵家より勢力が劣ることもあり断るにも細心の注意が必要になる。相手が良くしてくれるのであればなおさら、強く出れない。
 同じような状況だったらシンも即決で断れないだろう。ドーベルマン伯爵夫妻には多くの恩がある。
 それは露骨なものではないが、端々に滲ませる気遣いが蓄積したものだ。ミリアとチェスターからの申し出なら信頼できるし、無下にしたくない。
 エリシアも同じはずだ。

(変な状況になっていたら、助けてあげよう)

 初めて会った時、彼女が泣いていたせいだろうか。シンは時折、エリシアの世話を焼いてしまう。
 中身がアラサーのオッサンゆえのお節介だろうか。
 
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