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連載
本日はお茶会日和なり
しおりを挟む日取り改め、ドーベルマン伯爵で主催されたサロンにシンとエリシアは招待された。
レニやカミーユ、ビャクヤも同席していたのだが三人は見目の良さも相まって、即座に妙齢のレディや出会いを求める若き紳士たちに囲まれた。
大半が羽振りの良い商家や、下級貴族の次男坊や三男坊などである。ミリアの知り合いにはマダムも多いので、そのご子息ご令嬢だ。
ミリアのすぐ隣にいたシンやエリシアは誘えなかったようだ。エリシアは行こうと思えば、あの輪に入ることもできただろう。
(やっぱり、なんか変わった?)
そう思いつつも、シンは黙っていた。カミーユほどデリカシーを喪失していないが、微妙な乙女心の機微は分かりにくい。
「そういえば、シン君。保湿できるクリームは用意してもらえるのかしら?」
「作っていますよ。蜜蝋があればもっとできますけれど」
「ならこちらで手配しましょう」
ミリアに話を振られ、特に考えずに返答したシン。その瞬間、周囲のマダムたちの目がギラァッと光った気がする。獲物を捕らえるような鋭い目つきだ。
「ド、ドーベルマン伯爵……それはもしや去年、ご婦人の間で噂になった例の?」
「ええ、この子が作っていますの。本当に腕がいいのよ。シン君が作ると、同じレシピでも効果が段違いで」
ミリアが半分抱き着くように、この子とシンを紹介する。
最初はシンを訝しげに見ていたが、ミリアの手前文句を言えなかった女性たちも一瞬態度が変わる。
場違いな子供から、歓待に値する人物にシフトチェンジした。
「まああああっ!」
「マリアベル王妃殿下にも贈られたという?」
「寒い季節は肌もかさついて、指先が割れてしまうことがあるのにあのクリームがあると艶々になると……!」
「ねえ、シン君? 今年はどれくらい作るのかしら?」
黄色い悲鳴どころか、パッションピンクとスパンコールやラメが飛び散りそうなほど熱気と好奇心に満ちている。
マダムたちが我先に迫ってくるが、さりげなくミリアが牽制してくれた。さすがにミリアを押しやることはできないので、マダムたちの足は止まる。
美の探究者たちの恐ろしさは、シンも良く知っている。変に期待をさせてはいけないが、バッサリと切ればいいってものではない。
「で、できる限りは。私の身は一つしかありませんし、去年よりは効率よく動けるとは思いますが……」
結果、シンは曖昧な返答をするしかない。
確かに以前よりは多くできる。レシピを公開して収入を得てはいるが、ミリアの分は作る予定だ。きっと、今年もマリアベルの分も求められるだろう。
加護の力か、シンの作った物は品質がよい。
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