極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん

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思いがけない告白

王子様の友達、兼“仮”恋人

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 こんなに言われてしまったら、反論なんてできない。

 ……氷堂君は優しすぎる、もう聖人だよ。

 声にこそ出さないけど、誰もがそう思うだろう。

「湖宮さんが傷ついてるのをほっておくなんて、できるはずがない。俺は本当に、湖宮さんをそばで支えたいって思ってる。……信じられなくても、今はいいよ。」

 より切なくて苦しそうな声色が返ってきて、心臓がぎゅっと締め付けられる。

 こんなに考えてくれている氷堂君を疑うなんて……ダメ、だよね。

 阿辺君と氷堂君は違うんだから、比べるなんていけない。

「俺は湖宮さんを守りたいし、大切にしたいよ。隣で守らせてほしいんだ。」

「……、恋人になるのは、できない。」

 広まった噂は収まってくれないだろうし、早々消えてくれないだろう。

 でも氷堂君の気持ちを利用するような真似だけは、したくない。

 元々は私の問題。氷堂君を巻き込んだのは、私だ。

 ……氷堂君がそれを分かっている上で、こう言ってくれているのだとしたら。

「だけど……お友達に、なってほしい。」

 その氷堂君の厚意を、無下にしたくない。

 で、でもその前に……!

「氷堂君っ、あの……そろそろ離してくれると、ありがたいかな……。」

 抱きしめられたままの体制は、我に返れば恥ずかしくなってきて。

 恥ずかしさをぐっと押し込んで伝えると、急いだかのようにパッとすぐ腕と体温が離れた。

「……っ、ご、ごめんね、急にこんな抱き着くようなことして……。あーもう、俺何やってんだろ……っ、ほ、本当にごめん! つい感情的になって、さっきみたいな……だ、抱きしめるようなことしちゃって……」

 ……私はつい、ぽかんとしてしまった。

 さっきまで凛としていて、私を懸命に落ち着かせてくれようとしていた氷堂君。

 だけど今、目の前の氷堂君は……自分の所作言動に頬染め慌てふためいている。

「……ふふっ。」

 そう考えると、無意識に笑みが零れた。

 頬が緩んでしまって、片手で口元を隠す。

「湖宮さん……どうして笑ってるの。」

「だって……氷堂君が可愛く見えたんだもんっ。ごめんね、笑っちゃって。」

 ふてくされている氷堂君に対して、私は微笑みを浮かべたまま答える。

 氷堂君は文武両道で“優しい”の具現化で、素敵な人だってことは知っている。

 けどそれだけ。私が知っている氷堂君は、そんなイメージだった。

 ……でも、今の氷堂君にそんなイメージはない。

 普段は大人びてて落ち着いていて、何もかもが秀でている氷堂君。

 だけど今は年相応……中学生らしい、幼くもかっこよくて可愛い表情を見せてくれている。

 これには、不覚にもキュンとしてしまう。

「……湖宮さん、本当に俺と友達になってくれるの?」

 なんて呑気にしていた時、おもむろに氷堂君の疑問が飛んできた。

 それ……どういう意味?

 なんだか言葉が引っかかってしまい、頭の中に再びはてなが浮かんでくる。

 氷堂君は、私の『恋人にはなれないけど、友達としてなら』発言の話をしているんだろう。

 ……その中に違和感を覚えたのは、口ぶりだった。

 “なってくれるの?”

 まるで、懇願するような言い方。

 まるで……誰も氷堂君の友達になってくれないって、言っているようだった。

 でももしそうだったとしても、今この状況が変わることはない。

 私は疑問を飲み込んで、大きく頷いてみせた。

「うんっ。だって氷堂君も言ったでしょ、私は氷堂君の彼女だって思われちゃう。けど、本当の恋人になることはできないから。」

 私と氷堂君じゃ、釣り合うはずがない。あまりにもミスマッチだと思う。

 でもきっと弁明したって、誰も聞く耳を持ってくれないだろう。ましてや私の話なんて。

 だからこそ……表向きだけは、氷堂君の恋人として振舞おう。

 けど、徹底できるわけじゃない。人目がないところでは、私は氷堂君と“友達”っていう関係でいたい。

「だけどね……私、氷堂君と友達になりたいの! 私をこうして元気づけてくれたの、男の子は氷堂君が初めてなんだもん。嬉しかったんだ、私。」

 氷堂君にとっては当たり前の優しさかもしれないけど、私にとっては当たり前じゃない。

 特別でその優しさが沁みて、すごく救われた。

『――湖宮さんは、ダメな人間じゃない。』

『湖宮さんが一人で抱え込むことじゃないんだよ、それは。』

『俺は湖宮さんを守りたいし、大切にしたいよ。隣で守らせてほしいんだ。』

 氷堂君に言われた言葉は、どれも優しくて思わず泣きそうになるほど温かかった。
 
 こんな私に優しくしてくれるなんて……って思ったんだ。

 氷堂君の優しさを、無下になんてできない。したくない。

「お友達じゃ、ダメ、かな……?」

 その結論が、友達という関係性。

 お付き合いはできないけど、友達としてなら仲良くできる。私の頭ではこれが一番の選択だ。

 本音を静かに零すと、瞬時に消えていく。

 でも氷堂君はちゃんと聞いてくれていて、いつもの優しい王子様スマイルを浮かべた。

「ううん、湖宮さんからそう言ってもらえてすごく嬉しいよ。湖宮さんに無理はさせたくないから、そう提案してくれて結構浮かれてたりする。」

 そうやって言う氷堂君の笑みは、噓を一切吐いていない。無邪気に頬を緩めている彼に、つられて私も微笑んだ。

 ウソコクをされたのは、災難だった。真に受けてしまったことが恥ずかしくて、同時にやっぱり私なんて……って自覚もした。

 それでも手を差し伸べて助けてくれた氷堂君と友達になれて、私も浮かれている。

「それじゃあ……これから俺たちは、表向きは恋人ってことでいいかな?」

「うん。……曖昧な関係にしちゃって、ごめんね。」

 申し訳なさ、罪悪感。この気持ちはそう簡単に拭えるものじゃない。

 私は氷堂君を利用している。そんなの、許されることじゃないって分かっているから。

 そんな意味も込めてもう一度謝ると、逆に申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

「いや、ほとんど俺のわがままだから気にしないで。だから謝るのは俺のほう、本当にごめんね。」

「……やっぱり優しいね、氷堂君は。」

 氷堂君に落ち度はないのに、謝ってくるなんて。

 それに対してもまた罪悪感が込み上げてきたけど、ここで止めないと無限ループになってしまう。

 『本当にごめんね。ありがとう、氷堂君。』

 だから口にはあえて出さず、心の中で呟いた。

「……俺が優しくするのは、湖宮さんにだけなのに。」

 気持ちに整理がついて浮かれていたからか、はたまた奇妙な関係が始まることに緊張を覚えていたのか。

 それははっきりとは分からないけど、ぽつりと零れた氷堂君の独り言には気が付かなかった。
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