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思いがけない告白
守りたい存在 side秦斗
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あの日以来、手伝ってくれた彼女……湖宮さんのことを考えることが増えた。
正直、自分が一番驚いている。
今まで他人に興味なんてなかったのに、ここまで湖宮さんのことを考えてしまうなんて。
あの後、資料を持っていき終えたと同時に、湖宮さんはすぐに立ち去った。
『手伝ってくれて本当にありがとう。』
『いえっ、氷堂君のお役に立てたならよかったです!』
普通ならここでお礼をせがむところなのに、湖宮さんはそうしなかった。
そう思う俺が変なのか、湖宮さんが謙遜しているのかは分からない。
そしてその出来事は、一か月以上経っても色あせることなく記憶に残り続けている。
……それともう一つ、驚いてしまう自分の変化があった。
「氷堂君おはよう~! 相変わらずかっこいいね!」
「やっぱリアル王子~っ! 氷堂君の周りだけキラキラ飛んでるように見える……!」
「朝から見れるなんて超ラッキー!」
騒がれるのは好きじゃないけど、こんな公の場所でポーカーフェイスを崩すわけにもいかずいつも通りに登校する。
その時、なんとなく校舎を見上げた。
あ……湖宮さんだ。
一番最初に視界に入ったのは湖宮さんで、それだけなのに嬉しくなっていた。
「……え!? めっちゃ微笑んでる!? 氷堂君がめっちゃ微笑んでるーっ!!」
「ていうか、いつもよりもほっぺたゆるゆるじゃない……!?」
「あんな風に笑う氷堂君、あたし初めて見たんだけど!」
……俺、笑ってた?
周りから聞こえた戸惑いの声で俺はやっと、自分が自然と笑っていることに気付いた。
……初めてだった。
いつも意識して口角を上げて、偽りの笑顔を作って。
誰からも受けがいい表情を頑張って作っていたはず、なのに……戸惑いを隠せない。
意図的じゃなく無意識に緩んだ頬はなかなか元に戻ってくれなくて、淡くも自分の心を理解した。
もしかして俺は湖宮さんのことを……なんて。
その日の体育の時間、俺に衝撃的だけど必然的な出来事が起こった。
体育が終わり、まだ片付け切れていなかった体育用具を倉庫まで運び入れる。
……早く出よう、こんなむさ苦しいところ。
でも、早々に出られなくなってしまった。
「あれ、湖宮さん? どうしたの?」
「……え、えっと、このボール片付けに来たの。片付け忘れたらしくて……。」
気付けば声をかけていた。
湖宮さんは驚いたように一瞬肩を揺らしたけど、すぐに微笑み返してくれた。
「そっか、ありがとう。」
……あぁ、ダメだ。
――可愛すぎるんだけど。
何に対して『ありがとう』と言ったのか、自分でも理解はできていない。
いや、それ以前に……何で“可愛い”って、すぐ出てきたんだろう……。
湖宮さんのふわっとした、まるで花が咲き誇るような笑顔に心臓がわしづかみされる感覚に陥る。
息が上手にできなくて、でもそれが心地いいって不思議な気持ちになって。
だけどそのすぐ後、心臓が止まりかけるような出来事が発生した。
「っ、わっ……!?」
危ない……っ!
「湖宮さん!!」
何かにつまづいてしまったのか、湖宮さんの体が前のめりに倒れる。
こういう場面に出くわしたら、大抵俺は手だけを差し出す。
物事に巻き込まれるのは好まない、面倒事には関わりたくない。
なのにこの時ばかりは、そんなことどうでもいいと本気で思った。
意識して行動したのかは、あまり覚えていない。
「あ、れ……?」
温かい体温が、肌に触れる。
その途端、体中が一気に熱を持った。
っ、何なんだこの感覚は……。
初めての感覚に戸惑いつつも、俺の腕は湖宮さんを離そうとはしない。
むしろ、もっと近くに……なんて願望を抱いたくらいだ。
「あ、あの、氷堂君……そ、そろそろ離してもらえると、助かります……。」
「……ご、ごめんね湖宮さんっ。と、とっさに抱き留めちゃって。」
本当、湖宮さんが声をかけてくれたおかげで我に返ることができた。
小さく恥じらうような声が耳に届いて、急いで腕を解く。
……鼓動が、うるさい。
距離を取っているはずなのに、うるさい脈動が収まらない。
熱もこもったままだし、心臓も……すごく痛い。
だけど嫌な感覚じゃなくて、むしろ少し落ち着くような痛み。
これ以上湖宮さんのそばにいては、きっとダメだ。
本能的にそんな考えに至った俺は、急いで言葉を紡ごうとする。
でも湖宮さんはあろうことか、俺の怪我の処置をしてくれた。
自分でも気付かないくらいの小さなものだったけど、意識してみると少し痛む。
それが表に出ていたのかは分からないけど、湖宮さんは終始心配そうに表情を曇らせていた。
「よし、これでとりあえずは大丈……――って、か、勝手なことしてごめんなさい! 余計なお世話、だったよね……?」
あらかたの処置は終わったのか、顔を上げた湖宮さん。
その瞬間我に返ったかのように慌てだし、申し訳なさそうに眉の端を下げた。
……っ、はぁ。
それを間近でみた俺を襲ったのは、ぎゅっと心臓を揺さぶられたような感覚だった。
「謝らないでよ。俺のためを思ってしてくれたんでしょ、すごく嬉しいよ。」
「へっ? お、怒ってない、の……?」
何で湖宮さんのほうが謝るのかが、俺には分からないんだけど。
嬉しい。その言葉に嘘はない。
処置をしてくれたことはもちろんだけど、俺にはそれ以上のもう一つの理由があった。
……――俺と対等に、話してくれたこと。
俺と話す時、周りはいつもどこか遠慮している。それがとてつもなく、嫌だった。
どこか一線を引いているような、俺を過剰に持ち上げて対等ではない話し方をしてくる。
踏み込まれるのは好きじゃないけど、踏み込まれなさすぎて“完全な他人”と思われることは嫌だ。
『氷堂ってさ、何でもできすぎて同じ人間とは思えねーよな。』
『分かる。ちょっと遠慮しちゃうって言うかさ……あたしらが関わってもいいのかなって感じはあるよね。』
……そう距離を取られすぎるのが、一番嫌い。
何でもなんてできるわけない。俺はただの使い勝手のいい駒だ。
けどそんな俺に、湖宮さんは一生懸命に処置をしてくれた。同じ目線で話しかけてくれた。
多分、湖宮さんは誰に対してもそうなんだと思う。教師に対しても生徒に対しても、誰にでも分け隔てない優しさを持った子。
それは、違うクラスの俺でも分かることだった。
そう信じてやまないのは、度々教師から湖宮さんの話を聞くことがあったから。
成績優秀で欠点を探すほうが難しいくらいの、聖人のような生徒だと。
……気難しい教師たちをそこまで言わせるなんて、湖宮さんはどんな人物なのだろうか。
今までは疑問に思っていたけど、今ならはっきりと分かる。
「怒る? ……そんなわけないよ。湖宮さんの優しさだって分かってるから、そもそも怒る理由がないし。むしろ、もっとお礼言わせてほしいくらい。」
俺はきっと、何があったとしても湖宮さんには怒れない。
だって……俺はもうすでに、君に恋をしているんだから。
好きな人を怒るわけない。そもそも、怒ることでもないし。
そしてお礼を言えば、彼女はやっぱり優しい笑みを見せてくれた。
「えへへ、こっちこそありがとうっ。」
可愛い、愛おしい。そんな感情たちが溢れてやまない。
それと同時に、庇護欲と過保護さも加わって守らなきゃという使命感が現れた。
……けど、守れなかった。
「お前みたいな地味女、最初から興味ないっつーの。」
俺は、好きな子一人も守れない弱い存在だった。
その事件が起きた時、俺はたまたま担任に呼び出されていて帰るのがいつもより遅くなっていた。
急いで帰ろうと、ショートカットしつつ昇降口に向かっていた時にその声は聞こえた。
揉め事?と不思議に思って、ちょっと顔だけ覗かせたとほぼ同時だった。
……今にも泣きそうで、微かに震えている湖宮さんが見えたのは。
湖宮さんの近くにはムードメーカーで人気な阿辺君や男子生徒がいて、どこか嘲るような表情をしている。
阿辺君の言葉から推測するに、おそらく恋愛関係のごたごただろうか。
詳しいことはやっぱりよく分からないけど……阿辺君たちが湖宮さんを傷つけたのは、間違いない。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
口を突いて自然と出たのは、そんな言葉だった。
湖宮さんを守るように、自分の背後に隠れさせる。
でもそれが阿辺君たちには気に入らないようで、尖った声色が飛んできた。
「……氷堂、どういう意味だよ。」
どういう意味……だなんて、白々しいにもほどがある。
俺には何があったかは分からないけど、彼らが湖宮さんを悲しませたのは揺るぎない事実だ。
湖宮さんに対する罵詈雑言は……俺が許さない。
「どういう意味もないよ。俺の意思で、俺の気持ちで湖宮さんをもらっていいかって聞いたんだよ。いいでしょ、湖宮さんを俺のにしても。」
「ッ……でもそいつめっちゃ地味だぜ? すっげー根暗だぞ? 氷堂はそれでもいいのかよ?」
「君が思う湖宮さんの印象なんて、俺には関係ないことだよ。というか、湖宮さんへのひどい押しつけがましい偏見はやめてもらえないかな。」
一体彼は、湖宮さんのどこを見てそんなことを言っているのだろうか。
……湖宮さんは君が思っている以上に、素敵で可愛くてどうしようもないくらいに優しいのに。
「へ、偏見じゃねーし! 他の奴だって湖宮のことそう思ってる、そんなの正真正銘の陰キャーー」
「それを偏見って言うんだよ。……みんなに言っておいて、湖宮さんは今日から俺の、だって。」
そう言わずにはいられなかった。
湖宮さんの気持ちを無視するのはどうかと思ったけど、こうでもしないと守れない。
恋愛に疎い俺は、多少強引にでも現状を変えることでしか守れない未熟者。
それでも……湖宮さんを何からも守ってあげたい、という強い意志を誰よりも抱いている自信がある。
今度こそ、絶対に。ミスなんて許さない。
好きな人をもう悲しませることがないように。
そして……この先ずっと、守っていけるように。
正直、自分が一番驚いている。
今まで他人に興味なんてなかったのに、ここまで湖宮さんのことを考えてしまうなんて。
あの後、資料を持っていき終えたと同時に、湖宮さんはすぐに立ち去った。
『手伝ってくれて本当にありがとう。』
『いえっ、氷堂君のお役に立てたならよかったです!』
普通ならここでお礼をせがむところなのに、湖宮さんはそうしなかった。
そう思う俺が変なのか、湖宮さんが謙遜しているのかは分からない。
そしてその出来事は、一か月以上経っても色あせることなく記憶に残り続けている。
……それともう一つ、驚いてしまう自分の変化があった。
「氷堂君おはよう~! 相変わらずかっこいいね!」
「やっぱリアル王子~っ! 氷堂君の周りだけキラキラ飛んでるように見える……!」
「朝から見れるなんて超ラッキー!」
騒がれるのは好きじゃないけど、こんな公の場所でポーカーフェイスを崩すわけにもいかずいつも通りに登校する。
その時、なんとなく校舎を見上げた。
あ……湖宮さんだ。
一番最初に視界に入ったのは湖宮さんで、それだけなのに嬉しくなっていた。
「……え!? めっちゃ微笑んでる!? 氷堂君がめっちゃ微笑んでるーっ!!」
「ていうか、いつもよりもほっぺたゆるゆるじゃない……!?」
「あんな風に笑う氷堂君、あたし初めて見たんだけど!」
……俺、笑ってた?
周りから聞こえた戸惑いの声で俺はやっと、自分が自然と笑っていることに気付いた。
……初めてだった。
いつも意識して口角を上げて、偽りの笑顔を作って。
誰からも受けがいい表情を頑張って作っていたはず、なのに……戸惑いを隠せない。
意図的じゃなく無意識に緩んだ頬はなかなか元に戻ってくれなくて、淡くも自分の心を理解した。
もしかして俺は湖宮さんのことを……なんて。
その日の体育の時間、俺に衝撃的だけど必然的な出来事が起こった。
体育が終わり、まだ片付け切れていなかった体育用具を倉庫まで運び入れる。
……早く出よう、こんなむさ苦しいところ。
でも、早々に出られなくなってしまった。
「あれ、湖宮さん? どうしたの?」
「……え、えっと、このボール片付けに来たの。片付け忘れたらしくて……。」
気付けば声をかけていた。
湖宮さんは驚いたように一瞬肩を揺らしたけど、すぐに微笑み返してくれた。
「そっか、ありがとう。」
……あぁ、ダメだ。
――可愛すぎるんだけど。
何に対して『ありがとう』と言ったのか、自分でも理解はできていない。
いや、それ以前に……何で“可愛い”って、すぐ出てきたんだろう……。
湖宮さんのふわっとした、まるで花が咲き誇るような笑顔に心臓がわしづかみされる感覚に陥る。
息が上手にできなくて、でもそれが心地いいって不思議な気持ちになって。
だけどそのすぐ後、心臓が止まりかけるような出来事が発生した。
「っ、わっ……!?」
危ない……っ!
「湖宮さん!!」
何かにつまづいてしまったのか、湖宮さんの体が前のめりに倒れる。
こういう場面に出くわしたら、大抵俺は手だけを差し出す。
物事に巻き込まれるのは好まない、面倒事には関わりたくない。
なのにこの時ばかりは、そんなことどうでもいいと本気で思った。
意識して行動したのかは、あまり覚えていない。
「あ、れ……?」
温かい体温が、肌に触れる。
その途端、体中が一気に熱を持った。
っ、何なんだこの感覚は……。
初めての感覚に戸惑いつつも、俺の腕は湖宮さんを離そうとはしない。
むしろ、もっと近くに……なんて願望を抱いたくらいだ。
「あ、あの、氷堂君……そ、そろそろ離してもらえると、助かります……。」
「……ご、ごめんね湖宮さんっ。と、とっさに抱き留めちゃって。」
本当、湖宮さんが声をかけてくれたおかげで我に返ることができた。
小さく恥じらうような声が耳に届いて、急いで腕を解く。
……鼓動が、うるさい。
距離を取っているはずなのに、うるさい脈動が収まらない。
熱もこもったままだし、心臓も……すごく痛い。
だけど嫌な感覚じゃなくて、むしろ少し落ち着くような痛み。
これ以上湖宮さんのそばにいては、きっとダメだ。
本能的にそんな考えに至った俺は、急いで言葉を紡ごうとする。
でも湖宮さんはあろうことか、俺の怪我の処置をしてくれた。
自分でも気付かないくらいの小さなものだったけど、意識してみると少し痛む。
それが表に出ていたのかは分からないけど、湖宮さんは終始心配そうに表情を曇らせていた。
「よし、これでとりあえずは大丈……――って、か、勝手なことしてごめんなさい! 余計なお世話、だったよね……?」
あらかたの処置は終わったのか、顔を上げた湖宮さん。
その瞬間我に返ったかのように慌てだし、申し訳なさそうに眉の端を下げた。
……っ、はぁ。
それを間近でみた俺を襲ったのは、ぎゅっと心臓を揺さぶられたような感覚だった。
「謝らないでよ。俺のためを思ってしてくれたんでしょ、すごく嬉しいよ。」
「へっ? お、怒ってない、の……?」
何で湖宮さんのほうが謝るのかが、俺には分からないんだけど。
嬉しい。その言葉に嘘はない。
処置をしてくれたことはもちろんだけど、俺にはそれ以上のもう一つの理由があった。
……――俺と対等に、話してくれたこと。
俺と話す時、周りはいつもどこか遠慮している。それがとてつもなく、嫌だった。
どこか一線を引いているような、俺を過剰に持ち上げて対等ではない話し方をしてくる。
踏み込まれるのは好きじゃないけど、踏み込まれなさすぎて“完全な他人”と思われることは嫌だ。
『氷堂ってさ、何でもできすぎて同じ人間とは思えねーよな。』
『分かる。ちょっと遠慮しちゃうって言うかさ……あたしらが関わってもいいのかなって感じはあるよね。』
……そう距離を取られすぎるのが、一番嫌い。
何でもなんてできるわけない。俺はただの使い勝手のいい駒だ。
けどそんな俺に、湖宮さんは一生懸命に処置をしてくれた。同じ目線で話しかけてくれた。
多分、湖宮さんは誰に対してもそうなんだと思う。教師に対しても生徒に対しても、誰にでも分け隔てない優しさを持った子。
それは、違うクラスの俺でも分かることだった。
そう信じてやまないのは、度々教師から湖宮さんの話を聞くことがあったから。
成績優秀で欠点を探すほうが難しいくらいの、聖人のような生徒だと。
……気難しい教師たちをそこまで言わせるなんて、湖宮さんはどんな人物なのだろうか。
今までは疑問に思っていたけど、今ならはっきりと分かる。
「怒る? ……そんなわけないよ。湖宮さんの優しさだって分かってるから、そもそも怒る理由がないし。むしろ、もっとお礼言わせてほしいくらい。」
俺はきっと、何があったとしても湖宮さんには怒れない。
だって……俺はもうすでに、君に恋をしているんだから。
好きな人を怒るわけない。そもそも、怒ることでもないし。
そしてお礼を言えば、彼女はやっぱり優しい笑みを見せてくれた。
「えへへ、こっちこそありがとうっ。」
可愛い、愛おしい。そんな感情たちが溢れてやまない。
それと同時に、庇護欲と過保護さも加わって守らなきゃという使命感が現れた。
……けど、守れなかった。
「お前みたいな地味女、最初から興味ないっつーの。」
俺は、好きな子一人も守れない弱い存在だった。
その事件が起きた時、俺はたまたま担任に呼び出されていて帰るのがいつもより遅くなっていた。
急いで帰ろうと、ショートカットしつつ昇降口に向かっていた時にその声は聞こえた。
揉め事?と不思議に思って、ちょっと顔だけ覗かせたとほぼ同時だった。
……今にも泣きそうで、微かに震えている湖宮さんが見えたのは。
湖宮さんの近くにはムードメーカーで人気な阿辺君や男子生徒がいて、どこか嘲るような表情をしている。
阿辺君の言葉から推測するに、おそらく恋愛関係のごたごただろうか。
詳しいことはやっぱりよく分からないけど……阿辺君たちが湖宮さんを傷つけたのは、間違いない。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
口を突いて自然と出たのは、そんな言葉だった。
湖宮さんを守るように、自分の背後に隠れさせる。
でもそれが阿辺君たちには気に入らないようで、尖った声色が飛んできた。
「……氷堂、どういう意味だよ。」
どういう意味……だなんて、白々しいにもほどがある。
俺には何があったかは分からないけど、彼らが湖宮さんを悲しませたのは揺るぎない事実だ。
湖宮さんに対する罵詈雑言は……俺が許さない。
「どういう意味もないよ。俺の意思で、俺の気持ちで湖宮さんをもらっていいかって聞いたんだよ。いいでしょ、湖宮さんを俺のにしても。」
「ッ……でもそいつめっちゃ地味だぜ? すっげー根暗だぞ? 氷堂はそれでもいいのかよ?」
「君が思う湖宮さんの印象なんて、俺には関係ないことだよ。というか、湖宮さんへのひどい押しつけがましい偏見はやめてもらえないかな。」
一体彼は、湖宮さんのどこを見てそんなことを言っているのだろうか。
……湖宮さんは君が思っている以上に、素敵で可愛くてどうしようもないくらいに優しいのに。
「へ、偏見じゃねーし! 他の奴だって湖宮のことそう思ってる、そんなの正真正銘の陰キャーー」
「それを偏見って言うんだよ。……みんなに言っておいて、湖宮さんは今日から俺の、だって。」
そう言わずにはいられなかった。
湖宮さんの気持ちを無視するのはどうかと思ったけど、こうでもしないと守れない。
恋愛に疎い俺は、多少強引にでも現状を変えることでしか守れない未熟者。
それでも……湖宮さんを何からも守ってあげたい、という強い意志を誰よりも抱いている自信がある。
今度こそ、絶対に。ミスなんて許さない。
好きな人をもう悲しませることがないように。
そして……この先ずっと、守っていけるように。
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