極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん

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王子様との関係

周りの反応

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「ねぇっ、昨日聞いたんだけど氷堂と湖宮さん、付き合いだしたんだって……っ!!」

「嘘っ……あたしたちの氷堂君なのに~~っっ!!」

「ミスマッチだよね、やっぱり。」

 ……うん、思ってた通りだ。

 私は今、とても肩身の狭い思いをしている。

 分かってはいたけど、まさかここまで注目されちゃうなんて……っ。

 見られてはヒソヒソ言われているこの状況に、うっと息が詰まりそうになる。

 氷堂君の言ってたことは間違ってなかった……ううん、それ以上に影響がありすぎる。

 ここから弁解したとしても、逆に誰も信じてくれないよね……。

「結衣さん、また放課後にね。迎えに行くから教室で待ってて。」

「う、うん……送ってくれてありがとうっ。」

 ビクビク怯えている私とは裏腹に、秦斗君はいつもと同じで落ち着いている。

 いつも騒がれてたりするから、耐性がついてるのかな……なんて。

 ぼーっとそう思っていたら、今度は浴びるようなマシンガントークが降ってきた。

「ちょっと結衣! さっきの何!! 何で氷堂と登校しちゃってんの!? そもそも氷堂と付き合ってるって嘘だよね? 嘘って言ってくれ結衣ーっ!!」

「あっ、わっ……さ、紗代ちゃんちょっと待ってっ!」

「無理待てないー! はい結衣連行!」

「えぇっ……!?」

 ほとんど強引に、紗代ちゃんに引かれて教室を出る。

 その間も私は、妙に注目を集めてしまっていた。

 ……理由は分かりきっている。氷堂君とのことだろう。

 私だって不可抗力だった……なんて、ただの言い訳に過ぎないよね。だってこれは私が選んだ道でもあるのだから。

 そんな私に紗代ちゃんは気を遣ってくれたのか、人気のない教室近くで腕を離す。

 そしてすぐ振り返ったかと思うと、苦い笑みで詰め寄ってきた。

「結衣、何があったか教えてもらうよ? 氷堂と今まで接点がなかった結衣が、何であいつといるの? あたし何も聞いてないよ?」

「……えっと、それは……」

『……そういや、金森にはこのこと言うなよ。』

 阿辺君の言葉が、ふっと頭に浮かんでくる。

 それに秦斗君との発端を話してしまえば、阿辺君とのウソコクのことも話さなくちゃならなくなる。

 だから口ごもってしまうと、紗代ちゃんは見逃すまいと言うように鋭い眼差しで見つめてきた。

「……どうして教えてくれないの? あたし、そんな頼りない?」

「そ、そういうわけじゃっ……」

「でも結衣は、あたしが頼りないから言ってくれないんだよね……。うん、嫌なら無理に言わなくていいしさ……はは。」

 さっきまでの勢いがなくなり、急にしおらしく俯いてしまった紗代ちゃん。

 ……私ってば、ダメだ。親友にこんな顔させちゃうなんて、ダメすぎる。

「さ、紗代ちゃんっ!」

 まっすぐ紗代ちゃんを捉えて、はっきり名前を呼ぶ。

 紗代ちゃんは頼りなくなんかない。むしろ頼りがいがあるんだよ。

 その気持ちが伝わるように、私は紗代ちゃんの手を両手でとった。

「私は紗代ちゃんのこと誰よりも頼りにしてるし信じてる! でも、だからこそ言えないっていうか……」

「それは、あたしが聞いたらダメなこと……?」

「……分かん、ない。」

 そう聞かれれば、私にはそうやって言うことしかできない。

 私は阿辺君に騙されていた。嘘を吐かれていた。

 だからあの、紗代ちゃんに言わないって約束はもう無効なのかもしれない。

 ……気にしなくても、いいのかな。

「私……ちゃんと、言ったほうがいいよね?」

 恐る恐る、ほんの少し震える唇で呟く。

 紗代ちゃんはそんな言葉に、真剣な眼差しでぽつりと零した。

「うん。あたし的には言ってくれたほうが、結衣に何かあった時とかすぐ助けられるもん。」

「……分かった。紗代ちゃん、私言う、言うよ。」

「え、でも無理してない?」

「してないっ。紗代ちゃんだから言えるの、だから……聞いて、くれる?」

 人がいないせいか、いつもよりも声が反響しやすい。

 私の言葉が辺りに響き渡り、ゆっくり紗代ちゃんを見上げる。

 すると紗代ちゃんは、さっきまでの悲しそうな表情とは打って変わり、にこーっと嬉しそうに口角を上げていた。

「んふふ、もちろん当たり前! 結衣が話してくれる気になったんだもんっ、早く教えて!」

「……うん!」

 紗代ちゃんに隠しごとするなんて、私にはやっぱりできそうにない。紗代ちゃんにだから、嘘も吐ききれなかった。

 言うならきっと、今しかない。

 一つ、大きな深呼吸をする。

 そのあとすぐ、私は紗代ちゃんに全てを告白した。



「……――ってことが、あったんだよね。」

 全部、時間をかけて全部言い切った。

 阿辺君にウソコクされたこと、氷堂君がそんな私を助けてくれたこと、そして氷堂君と仮のお付き合いをしていること。

 それらを話し終えたと同時に紗代ちゃんは、ぐいっと制服を腕まくりして拳を作った。

「結衣、あたしちょっと阿辺ぶっ飛ばしてくるねっ!」

「えっ!? い、いいよそんなことっ……!」

「大丈夫、騒ぎにならないくらいにするからっ。」

「そういう問題じゃないよ!」

 紗代ちゃんは人一倍正義感が強い。その紗代ちゃんの気持ちは、すっごくありがたい。

 でも私のせいで、紗代ちゃんが傷つくのは見たくないっ……!

「私は大丈夫だからっ。紗代ちゃんの気持ちはもちろん嬉しいけどね、そこまでしなくても平気だからっ! ねっ?」

「……まぁ、氷堂がいるから大丈夫か。」

 とにかく紗代ちゃんを安心させたくて、笑顔を浮かべて念を押す。

 紗代ちゃんはそれに意味深な言葉を返すも、私も心の中で同意した。

 秦斗君のことはほんのちょっとしか分からない。全部知ってるわけじゃない。

 けど私は、秦斗君に絶大な信頼を寄せていた。

 それはきっと、彼の人間性。

 昨日から始まった歪で曖昧な関係だけど、秦斗君は信用しても大丈夫な人。

 元から分かっていたけど、ちゃんとこうして再確認できた。ここまできたら疑うほうが失礼だ。

「それにしてもあの氷堂がね……案外やるじゃん、あいつ。」

 うんうんと一人で頷いていたかたわら、紗代ちゃんがそうぽつりと呟く。

 ……でもいろんな不安から解放された私には、全然届いていなかった。
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