極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん

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王子様との関係

自分勝手な独占欲 side秦斗

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「よかったらなんだけど、土曜日一緒に遊園地行かない?」

 事の発端は家族のお節介だった。

 親戚がある遊園地のキャストらしく、母さんがチケットを五枚ほどもらったんだと。

『秦斗、彼女ちゃんと行ってきなさい。ほら、チケット二枚あげるから。』

 母さんには一応、結衣さんのことを伝えてあった。

 それ故の、母さんのお節介。

 “仮”だってことは母さんも知っている。それでも彼女と言ってチケットを渡してくれたのは、少なからず俺の気持ちを察しているからだろうな。

 結衣さんへの気持ちは紛れもなく本物。それを母さんは悟ったらしい。

 正直のところ誘うかは迷ったけど、母さんの気持ちを無下にするわけにもいかない。

 それにこの機会を逃したら、デートらしいデートもできないかもだし。だからダメ元で誘ってみたんだ。

 結衣さんが遊園地に興味があるかは、問題ではない。

 ……この誘いに、乗ってくれるか。

 仮交際が始まってちょっとしか月日が経っていないから、警戒されて断られるだろうと……心のどこかで考える。

 でも仕方のないことだ。結衣さんの気持ちを考えれば、警戒したっておかしくない。

 本当は承諾してほしいけど……それは俺のエゴで、押し付けたくはない。

 この手を利用しないわけにはいかなかった。

「え、それ……私でいいの?」

 だけども結衣さんは俺の心配を裏切り、拒否の色を見せることなく嬉しそうにしていた。

 その反面、不安がっているような、恐る恐るといった様子も見受けられる。

 ……何それ。

「結衣さんじゃなきゃダメ。」

 俺は、結衣さんとだから行きたいんだ。他の人には絶対こんな誘いしない。

 そうちゃんと、目を見てはっきり伝えると結衣さんはぱあっと顔を輝かせた。

「うん、私……秦斗君と一緒に遊園地行きたいっ!」

 ……やっぱり、可愛い。

 えへへと照れながら答えた結衣さんは、心の底から喜んでくれてるみたいで。

 ここまで喜んでくれるなら、誘いがいがあるってものだ。

 他の人だったら、めちゃくちゃ遠慮するかグイグイ来るかの二択だろうから。どちらに転んでも、こんなに嬉しそうにしないだろう。

 男子は俺を意図的に避けている部分もあるし、女子は俺の外見ばかり見ている。

 だからきっと、結衣さんのようにはならないだろう……って。

 ……まぁ、結衣さん以外を誘う気なんてサラサラないけど。

「ふふ、そう言ってくれてありがとう。」

 笑顔を浮かべて、結衣さんに返す。

 どうやら俺は、結衣さんに相当惚れ込んでいるらしい。

 だって……いつもは作って笑顔になるのに、結衣さんの前では自然と笑えたから。

 こうなるのは結衣さんの前でだけ。結衣さんだけが特別なんだって、やっと理解した。

 本当に、好きだ。

 けど同時に俺は、この選択が自分自身の理性を試すことになるんだと知らなかった。結衣さんと出かける当日に分かったくらい。

 それくらい、この時の俺は盲目になっていた。



 待ち合わせ場所の駅前で、結衣さんをじっと待つ。

 予想以上に浮かれてしまっていて待ち合わせ時間の三十分前には着いてしまい、駅の壁にもたれる。

 三十分前とか、あまりにも早いよな……どれだけ浮かれてるんだろう、俺。

 まぁ好きな子と出かけるってなったら、これくらい浮かれるのも無理ないか。

 ぼんやり考えつつ、スマホを開いて検索をかける。

 理由は単純。これから向かう遊園地の情報をもう一度確認しておくため。

 数日前に予習済みとはいえ、事前確認は怠れない。

 相手がどうでもいい相手ならここまでしないけど、好きな子となればそういうわけにもいかない。

 何が人気でどの辺りにあるのかなどを、可能な限り頭に入れていく。

 ……でも、視線が鬱陶しいな。

 さっきから痛いくらい、邪魔なくらいの視線を浴びていることに気付かないほど鈍くはない。

 いちいち気にしていたら精神がもたないから、気にしないふりを続ける。いい視線でも悪い視線でも気にするだけ無駄だ。

 話しかけさえされなければ、いいんだから。

「秦斗君、お待たせ……!」

 そろそろ時間になるな、と思いスマホをしまう。

 ちょうどそのタイミングで、前方から待っていた声が聞こえてきた。

 結衣さん、来たかな……なんて思いつつ、視線を上げる。

「ううん、全然待ってな……――」

 待ってないよ。そう言おうとしたけど、できなかった。

 言葉も息も詰まって、何も言えなくなる。

 それもそのはずで……結衣さんが、めちゃくちゃなほど可愛かったんだから。

 全体的にふんわりしたコーデに身を包み、普段はそのまま伸ばしている髪を巻いている。

 いつもよりも格段に大人っぽくなっている結衣さんに、思わず目を逸らしてしまった。

「か、秦斗君? 顔、真っ赤だけど大丈夫っ?」

 一方結衣さんは俺の気持ちに気付くことなく、心配そうに眉の端を下げている。

 それすらも可愛いと感じる俺は、おそらく末期だ。

 ……とりあえず、熱をなんとかしないと。

「……うん、大丈夫だよ。」

「そう……? 体調悪くなったら教えてね?」

「ありがとう、結衣さん。」

 一瞬だけ片手で顔を覆い、直後にいつもの俺に戻す。

 けど、熱は全く収まっていない。せめて表に出さないようにと、ギリギリで隠している状態だ。

 俺の言葉に、まだ不安そうにしているも安心したような表情を見せる結衣さん。

 その仕草にまたドキッと心臓が跳ね、バレないように深呼吸した。
 
 はぁ……冷静になれ、落ち着け俺。こんなところで取り乱すわけにはいかないだろう?

 我慢しろ、自制しろ。

 心の中で何度も言い聞かせ、俺は誤魔化すように笑顔を貼り付けた。

「じゃあ早速行こうか。」

 そう言いながら、結衣さんに手を差し出す。

 結衣さんは俺のその行動に一瞬戸惑ったけど、恐る恐る手を重ねてくれた。

 ……やっぱり結衣さんって、何しても可愛いな。

 こうやって俺の期待に応えてくれるところも、さっきみたいに優しく気遣ってくれるところも。

 他の人ならこうも行かない。だからこそ、結衣さんだけが好き。結衣さんだけが特別だし、結衣さんだけにしか優しくしたくない。

 俺はそんな、独占欲だらけなことを考えながら結衣さんの手を握った。



 目的の遊園地はさほど遠いところにあるわけじゃなくて、少し電車に揺られたら着くところだった。

 最近できたばかりだからか、無駄な汚れ一つなく綺麗だ。

「わぁっ、初めて来たけどすごく綺麗な遊園地……!」

 結衣さんも全く同じことを考えていたらしく、目をキラキラ輝かせている。

 それがまた可愛くて、息の仕方を忘れそうになってしまった。

 その後入場手続きを済ませ、手首にバーコードのついたバンドをつけて入場する。このバンドがアトラクションに乗る時のチケットとなるらしい。

 だけど……あの言葉は恥ずかしかったな。

『可愛らしいカップルさん、楽しんできてくださいねっ。』

 悪意はきっとないであろうキャストさんに、入場手続きをしていた時に言われた言葉。

 ……でも俺は、恥ずかしいという感情よりも嬉しさのほうが勝っていた。

 傍から見れば俺たち、ちゃんとカップルって見られてるんだな……。

 それがすごく嬉しくて、終始にやついてしまう。

 だけども結衣さんは恥ずかしかったのか、未だに頬が赤く染まっている。

「結衣さん、顔赤いよ? 大丈夫?」

「あ、うんっ……! ちょっと、さっきキャストさんに言われたことにびっくりしちゃって……。」

 耳に髪をかけながら、照れ隠しをするように俯く結衣さん。

 ……そんないじらしい反応されちゃ、いじわるしたくなってしまう。

「俺は、カップルって言われて嬉しかったよ。」

「え……?」

「結衣さんは嬉しくなかった?」

 ちょっとだけ、いじわるな質問を投げる。

 俺は、結衣さんのことを真剣に想ってるからもちろん嬉しい。

 でも結衣さんはどうだろう。そんな疑問も込めて、尋ねてみる。

 そんな結衣さんはというと、一瞬驚いたように目を見開いたけど、すぐに小さく言葉にしてくれた。

「……秦斗君とは仮だから、ちょっとだけ複雑な気持ちかな。だけど、嫌って気持ちはなくて……! えっと、なんて言えばいいのかな……。」

 結衣さんは乾いたような笑みで、必死に言葉を紡いでくれる。

 ……まぁ、そうだよな。

 俺と結衣さんの関係は“仮”。どこまでいっても偽り。

 それでも俺は、今が幸せだからそんなのどうでもいい。

 今俺の隣には、可愛くて愛おしい結衣さんがいるんだから。

「ごめんね結衣さん。結衣さんが可愛くて、ついいじわるな質問しちゃった。」

「へ……っ?」

「今日の格好、とっても似合ってる。すごく可愛い。」

 そういえば言いそびれてたな、と思い口にする。

 本当はすぐに言いたかったけど、言葉が出てこなかったものだから仕方ない。

 素直な気持ちを結衣さんに伝えると、何故かそっぽを向かれてしまった。

「……結衣さん?」

「か、秦斗君……そういうことは、あの、えっと……」

「もしかして、照れてる?」

「……う、ん。可愛いって、似合ってるって言ってくれる人、あんまりいなかったから……嬉しくって。」

 おぼつかない言葉でも、結衣さんははっきりと教えてくれる。

 その言動がどうしようもなく愛らしくて、手を伸ばして触れたくなった。

 ……このままじゃヤバい。

 そう感じた俺は、結衣さんを近くのベンチに座らせてこう言った。

「ちょっとだけここで待ってて。すぐ戻るから。」

「あっ、わ、分かった……!」

 何が起こっているか分からないと言いたそうな結衣さんに、少しの申し訳なさを覚える。

 けどあのままのほうが変に行動を起こしてしまいそうで、俺は火照った頬を冷ましながらある場所へと向かった。



「結衣さんお待たせ。……早速で悪いんだけど、これもらってくれないかな?」

「え……? わっ、すっごく可愛い……!」

 俺は頭を冷やすため、結衣さんへの気持ちを一旦抑えるため、そして……周りに牽制するため、結衣さんにあるものを渡した。

 その手の中には、一つの指輪が。

 まぁ指輪と言っても豪勢なものじゃなく、この遊園地のキャラクターを模したもの。

 ……実はこの遊園地には、いくつかのジンクスが存在しているらしい。

 その一つに【この遊園地のアクセサリーを贈ると仲が深まる】というものがある。

 アクセサリーは結構、愛が重たいと思われがちだ。それを狙ってかのジンクスかは知らないけど、おそらく遊園地側が売り上げを狙う策略なんだろう。

 なんて可愛くないことを思ったものの、実際口コミを見てみるとあながち間違いではないのかもと思わされた。

《ここのネックレスプレゼントしたら、片思いだった人と無事付き合えた!》

《この遊園地で買ったピアスを渡したら、思っていたよりも仲が深まりびっくりしている》

 他にも似たようなレビューが多く、やってみる価値はあるのかも……と考えた結果がこれだ。

 どうやら結衣さんはジンクスを知らないらしく、きょとんとしながらも慌てている。

 ……やっぱりもう少し、段階を踏んだほうがよかっただろうか。

 一時はそう考えてしまったけど、これはもらってほしい。

「今日結衣さんと、一緒に来れた記念。俺もつけてるから、一緒につけてほしいな。」

 「ほら。」と言いながら、自分の左手を見せた。

 俺の薬指には、結衣さんとは色違いの指輪がはまっている。俺は水色で、結衣さんは以前好きだと言っていた色の紫。

 だから、結衣さんにつけてほしい。

 卑怯かもな……なんて思うも、わざとらしく強くお願いしてみる。

 そうしたら結衣さんは、俺の押しに折れたのかゆっくり指輪を受け取ってくれた。

「……ありがとう。大切にするねっ。」

 紫色の指輪をはめて、満面の笑みでお礼を言ってくれる。

 その笑顔にまた、心臓が撃ち抜かれそうになった。

 ……結衣さんって本当、破壊力高いよなぁ。

 単に俺の耐性がなさすぎるだけだと思うけど、きっと結衣さんが可愛らしいという原因のほうが大きいだろう。

「そろそろアトラクション、乗りに行く?」

「うんっ。ふふっ、アトラクション楽しみ……!」

 気をなんとか紛らわせ、そう声をかける。

 そんな言葉に結衣さんはまた、可愛い元気な微笑みを返してくれた。

 ……今日、心臓持つかな。

 アトラクションに向かう前に抱いたのは、一抹の心配だった。
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