極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん

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王子様との関係

恐怖とドキドキ

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 私が変な話の終わらせ方をしてしまったから、このあとも気まずくなると思っていた。

 だけど全然そんな雰囲気にはならず、心の底から存分に楽しめた。

 ……それは、秦斗君がどこまでも配慮をしてくれたから。

 私を進んでリードしてくれて、いろんなところに連れて行ってくれたから……さっきの話も、一時的に気にしなくてよかった。

 その時私は、秦斗君のいろんな面を発見した。

 例えば、コーヒーカップは酔わないタイプらしく私がめちゃくちゃに回しても、すっごく楽しんでくれたり。

 急流すべりでは濡れやすい席になってしまったけど、濡れることに全然抵抗がなかったり。

 メリーゴーランドに乗ったことがなかったみたいで、まるで子供のように遊んでいたり。

 いろんな種類のジェットコースターがあったから、思う存分乗り比べもできた。

 ……初めて、年相応の秦斗君を見た気がする。

 秦斗君はいつでも大人っぽくて、どこか先を歩いてる感じで……だからこそ、今日の秦斗君はとても新鮮だった。

 聞くところによると秦斗君は学校の人と遊んだことがないらしく、私が初めてなんだそう。

 そう聞いた時、私は少し優越感に浸っていた。いろんな表情を見せてくれた秦斗君は、私だけしか知らないんだ……って。

 何でそう思っちゃうのかは自分でも分からないけど、その事実は私にとってすっごく嬉しいものだった。

「結衣さん、次はお化け屋敷……行かない?」

「お、お化け屋敷っ?」 

「そうっ。俺、お化け屋敷入ってみたくて……。」

 恥ずかしそうに頷いた秦斗君は、期待を膨らませているような表情を浮かべている。

 お化け屋敷、かぁ……。

 正直、すごく揺れる。

 私は絶叫系のアトラクションは大体いける。
 
 でもお化け屋敷は……絶対に無理だ。自分から心霊体験をしに行くなんて、怖すぎてまずできない。

 ……だけど秦斗君は、すっごく行きたそう。

 こんなに楽しみにしている秦斗君を見てしまえば、葛藤の一つや二つ出てきてしまうというもの。

 入るのは怖い。だけど今日ここに誘ってくれたのは秦斗君で、私ばっかり楽しませてもらってるなんてダメだ。

 大げさかもしれないけど、恩を仇で返すような真似はしたくない。

「うん、行こっか! 私もお化け屋敷入ってみたかったんだぁっ……!」

「本当? 嬉しいっ。」

 あからさまに語尾が上がった秦斗君は、わくわくを隠しきれていない。

 こんなに楽しみにしてるのに、そのわくわくを遮るわけにはいかないよね。

 ……多分大丈夫、頑張ればいけるはず!

 そんな根拠も何もない自信を抱いて、お化け屋敷へと向かう。

 そういえば……今日ずっと秦斗君と手を繋いでるような……。

 ふと気付いて、握られた手に変な力がこもる。

 ぎゅっと握られた手は、まるで離さないとでも言わんばかりに繋がれていて。

 ……そうやって考える私は、どこか変だ。

《注意:【イーヴォハウス】はびっくり要素が強いため、心臓が弱い方にはおすすめしません。》

 びっくり要素、そんなに強いの……?

 お化け屋敷に入る前、恐ろしいフォントで書かれた注意書きが目に入り、一瞬にしてゾッと背筋が凍る。

 私、本当に大丈夫かな……。

 一気に不安と緊張が押し寄せてきて、今すぐに回れ右をしたくなる。

「へぇ、どれくらい強いのかな……。」

「か、秦斗君はびっくりとか強いほう、なの?」

「一概には言えないけど、こういうので驚いたことはあんまりないかな。」

「そ、そうなんだ~……。」

 少しでも気を紛らわせようと質問してみたけど、嬉々とした言葉が返ってきていよいよ逃げ道がなくなる。

 が、頑張るしかない、よね……うん。

 それにメガネだって外せてるんだから、お化け屋敷くらいへっちゃら……だと思っておこう。

「それでは、足元に気を付けてゴーストたちのお屋敷を楽しんできてくださ~い!」

 お化け屋敷にには到底似合わないキャストさんの明るい声を聞きながら、握られていないほうの手でぎゅっと拳を作る。

 そして一瞬だけ目を瞑り、意を決して足を踏み入れた。

「……ま、真っ暗……。」

「思ってたよりも雰囲気あるね、これ。さすが、名が知れたお化け屋敷。」

 お化け屋敷の中は手を伸ばした先が見えなくて、どこに向かって歩けばいいのか分からなくなりそうなほどだ。

 かろうじてちらほら照明があるからまだ平気だけど……気を付けてなきゃこけてしまいそう。

 神経を尖らせて、ふぅ……と息を吐く。

 その瞬間。

「う~ら~め~し~や~~~っっっ!!!!!」

 目の前にいきなり、白いボロボロの服を着た女の人が現れた。

 その顔はまさに顔面蒼白で、恐怖から上ずった悲鳴を上げてしまう。

「ふひゃあっ……!」

「結衣さん大丈夫っ?」

 その声に気付いた秦斗君が、心配を含んだ声で尋ねてくれる。

 ……ま、まぁこれくらいならなんとか。

 心配をかけないよう急いで立て直し、大丈夫だよって伝えようと口を開きかけた……時だった。

「グワァァァァァッッッ!!!!!」

「きゃあぁっ!」

「お前を……呪ってやるぅぅぅぅぅっっっ!!!!!」

「ひゃうっ……う、っ……。」

 やっぱり無理だよ……っ、怖いっ、怖すぎるっ……。

「もしかしてお化け屋敷、苦手だった?」

「う……も、怖いっ……。かなと、くんっ……。」

「……、ごめんね。」

 大丈夫とか平気とか、そんなの言える状態じゃない。

 だからもう正直に伝えると、秦斗君は一言断って。

「少しだけ我慢してて。」

「っ……。」

 ふわり、と私を抱き上げた。

 これ、お姫様抱っこ……っ?

 恐怖の中でもぼんやり、そう考えられる。

 だけど私の中には恐怖のほうが強くあって、無我夢中で秦斗君にしがみついた。

「ねぇ……こっちにおいで……?」

「きゃっ……も、もうやめてっ……!」

 近くから聞こえてくる恐ろしい声に、震えながら懸命に目を瞑る。

 それでも完全に怖さを遮断できるわけじゃなくて、秦斗君の服を強く握りしめた。

「大丈夫だよ、俺がいるから。」

「……っ、う、うんっ。」

 それに応えるように、秦斗君の優しい声が聞こえてきてちょっとだけ安心する。

 ……それと同時に私の心臓は、これ以上ないほどドキドキしていた。



「結衣さんごめん。お化け屋敷、無理だったでしょ……?」

「謝らないで! それに私が行くって決めたんだから、秦斗君は悪くないよっ。」

 お化け屋敷を出てから、私と秦斗君は並んで木陰が当たるベンチに座っていた。

 秦斗君はお化け屋敷を出るまでお姫様抱っこをしてくれていて、出てすぐここまで連れてきてくれた。

 申し訳なさそうに謝ってきた秦斗君に、すぐに首を左右に振る。

 秦斗君のせいじゃない。私が行きたいって思ったんだから、私のせいだ。

 ……それに、秦斗君は守ってくれた。

「秦斗君は私のことを気遣って守ってくれたから、そんな顔しないでほしいな……? 私のほうこそ、ちゃんと言っておけばよかったよね……ごめんね。」

「結衣さん……。」

「秦斗君はこんなにも私を楽しませてくれてるんだから……だから、秦斗君には笑っててほしいんだ!」

 正直に言葉に表していく。

 すると一瞬瞳を揺らした秦斗君は、おもむろに手を伸ばしてきた――。

「あれ、氷堂じゃない?」

「お? ほんとだーっ! おーい氷堂ー!」
 
 瞬間、遠くから秦斗君を呼ぶ声が飛んできた。

 だからついそっちのほうに視線を向けると、そこには知っていた顔が。

 確か……別のクラスの女の子で、愛澤あいざわさんと沢海そうみさんだったような……。

 二人は綺麗と可愛いがいい感じに混ざっている美少女で、私たちを捉えると迷わず駆け寄ってきた。

 そして沢海さんは、結構な近距離から私を見つめると。

「ねぇ氷堂! このどちゃくそ可愛い女の子、どこで見つけてきたのよ!!」

 一目をはばからず大きな声でそう言い、四方八方から観察するように私を見つめてきた。

 愛澤さんも何も喋らないものの、私と氷堂君を交互に見てはなにやら頷いている。

 ええっと……この場合、私はどうすればいいんだろうか。

 メガネをかけていないから私だと認識されていなくて、氷堂君も何を言おうか焦ったように口ごもっている。

 多分だけど、氷堂君も私のことをどうやって説明すればいいのか分からないんだろう。

 この状況を打破できるのは私しかいない……!

 そんな正義感に似た何かに駆られつつ、私は自分を指さした。

「私、湖宮です! 湖宮結衣です……!」

「……うぇぇぇっっ!?!? 湖宮さんんんっっ!?」

「はい! この通りです!」

 メガネケースからメガネを取り出し、かけて再び二人を見る。

 そうしたら分かったらしく、二人ともさらに驚いた様子を見せた。

「ほんとに湖宮さんだ……え、ガチ可愛いんだけど。」

「それな~っ! というか氷堂と湖宮さんが付き合ってるのってほんとの話だったんだ……! お似合いすぎるんだけど~!」

 さっきよりも注目され、若干いたたまれなくなる。

 お、お二人とも何を言って……可愛いなんて似合わない言葉だし、お似合いだなんてお世辞だよね。

 完全に盛り上がっている二人の空気を壊すわけにもいかないし、どうしようかな……。

 そう途方に暮れてしまった時、割り込んできたのは氷堂君だった。

「ねぇ二人とも、そろそろ結衣さんのこと返してくれないかな。……俺の、なんだけど。」

 拗ねたような、不満に思うような声が頭上から降ってくる。

 それと同時にぐいっと引き寄せられ、ふわりとシトラスの香りが分かった。

 へっ……!?

「氷堂ってこんな独占欲やばかったかな……いや、仕方ないか。湖宮さん超可愛いもんねぇ。」

「うんうんっ。氷堂が過保護チックになるのも無理ないよね~。」

「……どうやらあたしたちはお邪魔みたいね。」

「それ同意~、そろそろ行こっか! そんじゃお二人さん、引き続き楽しんでね~!」

 にこにこ意味深に笑う愛澤さんと沢海さんはそう言うと、手を振ってアトラクションのほうへと行ってしまった。

 その背中を見ながらも、今の状況をやっと理解して心臓が暴れ出す。

 これ、間違ってなければ抱きしめられてるよね……っ?

 いざ考えてみると余計に熱が集まってしまい、みるみる内に顔が熱くなっていく。

「あ、あの秦斗君……離してくれたりは……」

「……ダメ、もう少しだけ。」

 えぇっ……もう少しって、具体的にいつまでっ……!?

 まさかのお願いに耳を疑ってしまい、目を瞠ってしまう。

「さっきので少しだけ……嫉妬しちゃったから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」

「ひゃ……っ。」

 耳元でとんでもないことを言われ、ぐんぐん体温が上がっていく。

 な、なんだか秦斗君が甘い気がするっ……。

 直感的にそう思うも、何もできない私は抵抗もままならず丸め込まれてしまった。
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