極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん

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勇気と優しさと甘い恋

二度目の告白

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 まさか謝られるとは思ってなくて、きょとんと呆気にとられる。

 そんな私に呆れてか、阿辺君はもう一度謝ってきた。

「だからな、ウソコクして悪かったって言ってんだよ。それくらい分かれ。」

「……謝らなくていいよっ? 私別に、謝ってほしいわけじゃ――」

「あーもー……めんどいな!!」

 っ……!?

 いきなり大声でそう言った阿辺君に、びっくりして肩を跳ねさせる。

 め、めんどい……?

 その言葉の意味が分からなくて、またもやキョトン。

 そうしていると今度は私を指さして、はっきりと言い切られた。

「湖宮があんまりにもお人好しすぎるから、俺がやったことが馬鹿らしく思ったんだよ。湖宮みたいなお人好し馬鹿にウソコクしたのがどうかしてた。」

「お、お人好し馬鹿……。」

 馬鹿じゃない……と言いたいけど、阿辺君が言うならそうなのかな。

 否定できない自分になんとも言えない悲しさがこみ上げてきて、しゅんとうなだれる。

 それと同時に阿辺君は何を思ったのか、突然こんな話を切り出してきた。

「……なぁ、本当は氷堂と付き合ってないだろ。」

「えっ……ど、どうして……っ?」

 急に突かれた図星に、意図しない疑問が零れる。

 だって、それを知ってるのは紗代ちゃんだけなのに……。紗代ちゃんが阿辺君に言ったなんて考えられないし、阿辺君の鋭すぎる勘……だよね。

 けどどうして今、その事を……?

 阿辺君からしたら私と氷堂君の関係なんてどうでもいいはず。わざわざ尋ねてくる意味が見当さえつかない。

 だからそのまま尋ね返すと、即こう返された。

「そんなの見りゃ分かる。お前ら付き合ってるはずなのに全然恋人らしくねーし。最初はどーでもよかったけど、あんまりにもお前らが恋人に見えね―から聞きたかっただけ。」

「……そ、そんなに分かりやすかった?」

「氷堂は分かりにくいけど、お前はあからさますぎ。だからお人好し馬鹿だって言われるんだろ。それにお前って嘘吐けね―タイプだろ。」

「う、うん……おっしゃる通りです。」

「やっぱりな。」

 面と向かってグサグサ言われることに耐性なんてないから、頷くので精いっぱい。

 でも阿辺君はいたって涼しい顔をしていて、再び深い息を吐き出す。

「……で、正直これは建前だ。おい湖宮。」

「は、はいっ!」

 一オクターブほど低くなった声に呼ばれ、体を強張らせながら返事する。

 た、建前ってどういう意味だろう……そう思ったけどいちいち聞くのもどうかと思い、大人しく口を閉ざしておく。改めて呼ぶってことは、大事な話をするってことだと思うけど……。

 そんな予想を勝手に作り上げ、ビリッと張り詰めている空気の中待つ。

 ……その瞬間、阿辺くんは私の腕を掴み上げると近くの壁に押し付けた。

 へっ……!?

 あまりにも急なことすぎて何も反応できずにいると、聞こえたのは阿辺君のまっすぐな声。

「湖宮、氷堂と付き合ってないんだろ。」

「そ、そう、だけど……」

「だったらさ……――俺と付き合わね?」

 …………はいっ!?

 あ、阿辺君と、つ、付き合うっ……?

 さっき阿辺君はウソコクをしたことを謝ってくれた。だからまたウソコクをしてくるとはさすがに考えにくい。

 だけど、信じられないよ。

 そんな言葉が頭に浮かんだ時、それを見透かしてか阿辺君は短い息を吐いた。

「分かってる、俺にこんなこと言える権利ねーって。だけど湖宮みたいなお人好し馬鹿と付き合えたら、幸せかもなって考えたんだ。……ま、ここまですぐほだされるとか、全然思ってなかったけど。」

 真剣な視線と声色で、うっと言葉に詰まる。

 この前よりもずっとまっすぐな態度で言われて思わず信じてしまうそうになった。

 ……阿辺君は悪い人じゃないって、分かった。きっといい人なんだってことも、優しいんだろうなってことも。

 でも……やっぱり無理だよ。

「ごめんね、阿辺君。……私は、その気持ちに応えられない。」

「俺が本気で言ってる、って分かってるのか?」

「……うん。分かってるけど、無理なんだ。」

 また裏切られるかもしれない、なんて考えたくないから。

 私はまだ阿辺君を心のどこかで怖がっている。メガネを外しても平気だとは言え、傷ついた心は急には癒えてくれない。

 そんな考えを抱いていた私の答えは、断るしかなかった。

 そうしたほうがきっと、阿辺君にとってもいいはずだから。

「……だったら、氷堂だったらいいのかよ。」

「か、秦斗君?」

「あぁ。あいつとだったら本気で付き合えんのか? つーか、あいつのこと好きなのかよ。」

 秦斗君とだったら、付き合えるか……。

 不意に告げられた秦斗君の名前に、あからさまに鼓動が早くなっていく。

 秦斗君とは今まで、仲がいい友達だって思ってた。

 だけど、あの遊園地に行った日、告白をされた日。実はその時からもう……お友達とは思えなくなっていた。

 私……――秦斗君が好きなんだ。

 そう自覚しても、あんまり驚きはない。

 多分……前々から秦斗君が好きだって思っていたから、なのかもしれない。

 今まで自覚がなかっただけで、もしかしたらずっと前から……恋してたのかも。

「……うん、秦斗君なら、大丈夫……っ。」

 こんなこと、告白してくれた人に言うべきじゃない。

 そう分かっていたけど、自然と口から言葉が出てきてしまったんだ。

 私のそんな言葉に、阿辺君は少しだけ諦めたような切ない表情を浮かべたあと。

「まぁ別に、分かってたからいいけど。どーせ俺なんかクズ野郎だよ。」

 そ、そこまでは思ってないけどっ……。

 あっけらかんとして言う阿辺君に、思わず苦笑いが零れる。

 ……けどまさか、このタイミングで自覚することになるとは。

 薄々は思っていたことでも、気付かないようにしていた。気付いてしまえば、もう近くにはいられなくなるかもしれない。

 私が告白してしまうことで、秦斗君との関係が壊れてしまう……と思ったから。

 けど両思いだと分かった今、それに怯える必要なんてない。

 ……かと言って、告白する勇気もないんだけど。

 自嘲するように考えて、足元に視線を落とす。

 その時聞こえたのは、大きな叫びともとれる紗代ちゃんの言葉だった。

「ゆーいーっ!!! 大丈夫っ!? というか何でこんなとこに……って、もしかして阿辺になんかされたの!?!? 怪我とかしてない……っ!?」

「さ、紗代ちゃん……!」

「あたしめっちゃ心配したのよーっ! 教室に帰ったら結衣いないし、片っ端から聞いたらこっちのほうに行ったって聞いたし……マジで大丈夫!?」

 すごく慌てた様子の紗代ちゃんに半ば強引に腕を引かれ、強制的に教室から退出する。

 その直前、一瞬だけだけど私は阿辺君のほうを見た。

 そこにはこれまでとは変わりない、少し呆れたような阿辺君が。

 けどどこか切ない表情でいて、「分かっていた」という事実を認めたくないと言ってるみたいだった。
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