『働いたら負けだと思ったので、何もしなかったら勝手に勝ちました』

ふわふわ

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第19話 責任の置き場

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第19話 責任の置き場


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 ファワーリス・シグナスからの返答が伝えられて以降、
 王宮では奇妙な沈黙が続いていた。

 怒号もない。
 混乱もない。
 ただ、次に何をすべきか分からない空白だけが残っている。

「……では、どうする?」

 宰相の問いに、誰も即答できなかった。

 呼び戻しは失敗した。
 だがそれ以上に問題なのは、
 “彼女がいない前提”で何も準備されていなかったことだ。


---

「相談役を断られた、というより……」

 若い官僚が慎重に言葉を選ぶ。

「責任を引き受けない仕事を、
 最初から拒否されたのだと思います」

 その言葉に、空気が微かに動いた。

「責任……」

 誰かが呟く。

「では、これまで責任はどこにあった?」

 問いは宙に浮く。

 決定は王太子。
 だが、判断材料は誰が整えたのか。
 その整備不良の責任は、誰が負うのか。

 これまで、それは
 誰のものでもないように扱われてきた。


---

 王太子レオンハルトは、
 執務室で一人、古い記録を読み返していた。

 決裁書。
 会議議事録。
 その隅に残る、小さな補足や確認の痕跡。

(……ここにも、ここにも)

 彼女の名前は書かれていない。
 だが、
 彼女がいなければ成立しなかった形跡だけが残っている。

「俺は……」

 王太子は、額に手を当てる。

「責任を、
 置く場所を決めていなかった」

 それは、怠慢ではない。
 だが、無責任ではあった。


---

 その日の午後、
 王宮では新たな通達が出された。

> 「各案件について、
決定者・補助者・確認者を明記すること」



 それだけの内容だ。
 だが、その一文は、
 王宮の仕事のやり方を根底から変えるものだった。

「……これでは、逃げられませんね」

 誰かが苦笑する。

「ええ。
 ですが、これが本来の形です」

 宰相の声は、どこか疲れていた。


---

 一方、シグナス公爵家。

 ファワーリスは、温室の管理報告書に目を通していた。
 専門家が書いた、簡潔で分かりやすい内容だ。

「お嬢様」

 マリエが言う。

「王宮で、
 “責任の所在を明確にする”動きが始まったそうです」

「そう」

 特に驚きはなかった。

「では、
 ようやく私がいなくても回る準備を始めたのですね」

「……少し、遅いようにも思えますが」

「遅くても、やらないよりは良いですわ」

 淡々とした評価だった。


---

 その夜、
 ファワーリスは日記を開き、短く書き記した。

『責任は、
 押し付けるものではなく、
 置く場所を決めるもの』

 それだけ書いて、ペンを置く。

(……私がやらなかったからこそ)

 その“置き場”が、
 ようやく可視化された。

 それなら、
 もう十分だ。


---

 王宮では、
 責任を明記された書類が山積みになり、
 誰もが以前より慎重に、
 しかし確実に仕事を進め始めていた。

 楽ではない。
 だが、逃げ場もない。

 それこそが、
 本来あるべき重さだった。


---

 ファワーリスは、窓辺で夜風を感じながら、静かに思う。

(責任の置き場が決まったなら)

 もう、私の出番はありませんわ。

 何もしない。
 それでいい。

 何もしなかったからこそ、
 世界は勝手に、
 自分たちの重さを思い出したのだから。
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