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第六話 回らない会議
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第六話 回らない会議
王城の会議室には、重苦しい空気が漂っていた。
楕円形の長机を囲む高官たちは、それぞれに書類を前にしながらも、視線を落ち着かせる場所を見つけられずにいる。
「……では、この件についての結論は?」
王太子の声が響く。
いつもなら、その問いが発せられる前に、答えはすでに用意されていた。
だが今日は違った。
財務官が咳払いをし、視線を泳がせる。
「現状では、判断材料が不足しておりまして……」
「不足? 先月の会議では問題ないと言っていたではないか」
「そ、それは……」
言葉が続かない。
彼の前にある書類は、数字の羅列だけで整理されておらず、要点も抜け落ちている。
外交官が助け舟を出すように口を開く。
「他国との交渉案件も、慎重に進めるべきかと。
拙速な決定は、後々の問題に……」
「慎重、慎重と、そればかりだな」
王太子は苛立ちを隠さなかった。
「では、どの程度まで待てばいい?
代替案は?」
沈黙。
誰も答えられない。
その光景に、王太子は言いようのない違和感を覚えた。
――こんな会議だっただろうか。
これまでは、誰かが整理した選択肢が示され、
自分はその中から最善と思うものを選べばよかった。
だが今は違う。
問いだけが宙に浮かび、誰もそれを掴めない。
「……議題を一つずつ整理しよう」
そう言ってから、王太子は気づく。
“整理”という言葉を、いつも誰が担っていたのかを。
思考の端に、冷静な横顔がよぎる。
だが、それを意識的に振り払った。
「次。北部貴族からの請願についてだ」
書類をめくる音が、ばらばらに響く。
誰も全体像を把握していないことが、すぐに分かった。
「この件は……確か、条件付きで認可すべきだったはずだが」
「条件、とは?」
「……それが、どこに書いてあったか……」
王太子は、言葉を失った。
会議は進まない。
決定は先送りされ、結論は曖昧なまま。
終わったころには、予定の倍以上の時間が過ぎていた。
「本日は、ここまでとする」
王太子の声には、疲労が滲んでいた。
高官たちが席を立つ中、誰かが小さく呟く。
「……以前は、こんなことはなかったのに」
その言葉に、周囲が一瞬だけ静まり返る。
だが、誰もそれ以上踏み込まなかった。
王太子は、一人執務室に戻り、椅子に深く腰を下ろす。
机の上には、未決裁の書類が積み上がっていた。
いつもなら、すでに目を通し、判断を終えている量だ。
「……なぜだ」
小さく呟く。
能力が足りないはずはない。
自分は王太子だ。
これまで、問題なく国政に関わってきた。
――そう、思っていた。
だが、今日の会議は否定していた。
自分は、考えるための土台を誰かに任せていたのだと。
その“誰か”の名が、再び脳裏をかすめる。
ネフェリア。
彼女がいないだけで、
これほどまでに歯車が噛み合わなくなるとは。
「……いや、偶然だ」
王太子は、そう自分に言い聞かせる。
引き継ぎ資料はある。
時間をかければ、元に戻る。
そう信じたかった。
一方、王城の外――
王都を離れた馬車の中で、ネフェリアは静かに揺られていた。
彼女は知らない。
今この瞬間、会議室で何が起きているのかを。
そして、知る必要もなかった。
ネフェリアのいない王国は、
まだ「異変」に気づいていない。
ただ、確実に一つだけ言えることがある。
――歯車は、もう元には戻らない。
その事実が、静かに、しかし確実に、
王国の内部へと染み込んでいくのだった。
王城の会議室には、重苦しい空気が漂っていた。
楕円形の長机を囲む高官たちは、それぞれに書類を前にしながらも、視線を落ち着かせる場所を見つけられずにいる。
「……では、この件についての結論は?」
王太子の声が響く。
いつもなら、その問いが発せられる前に、答えはすでに用意されていた。
だが今日は違った。
財務官が咳払いをし、視線を泳がせる。
「現状では、判断材料が不足しておりまして……」
「不足? 先月の会議では問題ないと言っていたではないか」
「そ、それは……」
言葉が続かない。
彼の前にある書類は、数字の羅列だけで整理されておらず、要点も抜け落ちている。
外交官が助け舟を出すように口を開く。
「他国との交渉案件も、慎重に進めるべきかと。
拙速な決定は、後々の問題に……」
「慎重、慎重と、そればかりだな」
王太子は苛立ちを隠さなかった。
「では、どの程度まで待てばいい?
代替案は?」
沈黙。
誰も答えられない。
その光景に、王太子は言いようのない違和感を覚えた。
――こんな会議だっただろうか。
これまでは、誰かが整理した選択肢が示され、
自分はその中から最善と思うものを選べばよかった。
だが今は違う。
問いだけが宙に浮かび、誰もそれを掴めない。
「……議題を一つずつ整理しよう」
そう言ってから、王太子は気づく。
“整理”という言葉を、いつも誰が担っていたのかを。
思考の端に、冷静な横顔がよぎる。
だが、それを意識的に振り払った。
「次。北部貴族からの請願についてだ」
書類をめくる音が、ばらばらに響く。
誰も全体像を把握していないことが、すぐに分かった。
「この件は……確か、条件付きで認可すべきだったはずだが」
「条件、とは?」
「……それが、どこに書いてあったか……」
王太子は、言葉を失った。
会議は進まない。
決定は先送りされ、結論は曖昧なまま。
終わったころには、予定の倍以上の時間が過ぎていた。
「本日は、ここまでとする」
王太子の声には、疲労が滲んでいた。
高官たちが席を立つ中、誰かが小さく呟く。
「……以前は、こんなことはなかったのに」
その言葉に、周囲が一瞬だけ静まり返る。
だが、誰もそれ以上踏み込まなかった。
王太子は、一人執務室に戻り、椅子に深く腰を下ろす。
机の上には、未決裁の書類が積み上がっていた。
いつもなら、すでに目を通し、判断を終えている量だ。
「……なぜだ」
小さく呟く。
能力が足りないはずはない。
自分は王太子だ。
これまで、問題なく国政に関わってきた。
――そう、思っていた。
だが、今日の会議は否定していた。
自分は、考えるための土台を誰かに任せていたのだと。
その“誰か”の名が、再び脳裏をかすめる。
ネフェリア。
彼女がいないだけで、
これほどまでに歯車が噛み合わなくなるとは。
「……いや、偶然だ」
王太子は、そう自分に言い聞かせる。
引き継ぎ資料はある。
時間をかければ、元に戻る。
そう信じたかった。
一方、王城の外――
王都を離れた馬車の中で、ネフェリアは静かに揺られていた。
彼女は知らない。
今この瞬間、会議室で何が起きているのかを。
そして、知る必要もなかった。
ネフェリアのいない王国は、
まだ「異変」に気づいていない。
ただ、確実に一つだけ言えることがある。
――歯車は、もう元には戻らない。
その事実が、静かに、しかし確実に、
王国の内部へと染み込んでいくのだった。
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