『婚約破棄された公爵令嬢は、王と交わらない道を選ぶ』

ふわふわ

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第38話 守り続けるための条件

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第38話 守り続けるための条件

 余力を削り、戻し、回復の作法を共有したあとに残る問いは、ひとつだった。
 どうすれば、次は削らずに済むのか。

 アルベルトは朝の回覧を閉じ、珍しく窓を開けた。
 風は穏やかで、王都はいつも通りに動いている。

(平時の設計が、足りない)

 危機の対処は整った。
 回復の手順も整った。
 だが、危機が来るたびに余力を削るなら、長期では摩耗する。

 老侯爵が静かに言う。

「陛下。余力を“使わずに済む”仕組みは、ございますか」

「条件を、前に出す」

 アルベルトは、三つの事前条件を掲げた。

「観測があること」
「分散していること」
「代替があること」

 説明は簡潔だ。

「兆しを観測できれば、余力は小さくて済む」
「負担が分散されていれば、一点が折れない」
「代替があれば、止めずに切り替えられる」

 余力は、最後の手段。
 その前に、条件を満たす。

 午前中、各部署は自分たちの業務を三条件で点検した。
 不足は赤、十分は青。
 色が、静かに浮かび上がる。

「観測が弱い」
「代替が一系統しかない」

 課題は、はっきりした。

 一方、領地。
 エレノアは同じ三条件を、別の言葉で置き換えた。

「早めに気づく」
「一人に背負わせない」
「別の道を残す」

 彼女は現場を歩き、問いかける。

「壊れる前に、分かる?」
「代わりは、いる?」
「切り替え先は、ある?」

 答えが曖昧なところに、印をつける。
 責めない。
 設計の話に戻す。

 昼、王宮では観測の強化が決まった。
 数字の頻度を上げ、報告を短くする。
 長文は禁止。兆しだけを拾う。

 同じ昼、領地では分散が進む。
 作業は二系統に。
 鍵は複数。
 知識は共有。

 午後、アルベルトは一件の提案を退けた。
 効果は大きいが、代替がない。

「今は、やらない。条件が足りない」

 評価は下げない。
 条件が整うまで、待つ。

 同じ午後、エレノアは小さな投資を決めた。
 地味だが、代替を生む。

「派手ではないですね」

「派手は、余力を食べます」

 夕刻、王宮で老侯爵が言った。

「余力を守るために、仕事が増えましたな」

「増えたのではない。前に移した」

 夜。
 王宮の灯りは静かで、会議は短い。
 領地の屋敷でも、帳簿は薄い。

 アルベルトは、三条件の紙を引き出しにしまう。
 エレノアは、印をつけた箇所に小さく丸をつける。

(これで、次は削らずに済む)

 守り続けるための条件は、英雄を生まない。
 だが、破綻も生まない。

 王は、条件を前に出し、
 公爵令嬢は、別の道を残す。

 交わらぬ道でも、同じ予防線が張られる。
 余力は、使うものではなく、使わずに済ませるものへ。

 そして、次に問われるのは――
 この条件を、誰が見張るのか。
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