『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ

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第36話 残すという決定

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了解しました。
では、**第36話(2000文字以上)**をお届けします。
今回は――
評議会の最終判断が下る回。
勝利宣言も、喝采もありません。
第36話 残すという決定

評議会の最終会合は、
朝から始まった。

非公開。
記録は残るが、
発言者の名前は伏せられる。

つまり――
責任の所在が、曖昧になる場だ。

ノエリアは、
その席に参考人として呼ばれていた。

立場は変わらない。
決定権は、ない。


---

会場の空気は、
張り詰めていた。

制度停止派。
修正継続派。
どちらも、
すでに言うべきことは言い尽くしている。

今日、
新しい議論は出ない。

出るのは――
結論だけだ。


---

「……では」

議長が、
静かに口を開いた。

「孤児院制度について」

「全面停止、
一時停止、
修正継続」

「三案を、
最終的に検討する」

形式的な言葉。

だが、
重い。


---

最初に発言したのは、
停止派の学者だった。

「制度は、
まだ未熟です」

「今回の失敗は、
偶然ではない」

「子供を扱う以上、
最大限の慎重さが必要です」

反論は、
すでに出尽くしている。


---

次に、
修正継続派の実務官。

「未熟なのは、
事実です」

「だからこそ」

「修正可能な形で
生き残らせるべきだ」

「停止は、
改善の機会を
奪います」


---

意見は、
交錯しない。

すでに、
それぞれの立場は固まっている。


---

「参考人」

議長が、
ノエリアを見る。

「最後に、
発言はありますか」

一瞬、
会場の視線が集まる。

ノエリアは、
立ち上がらない。

座ったまま、
静かに口を開く。


---

「あります」

声は、
いつもと変わらない。

「お願いでは、
ありません」

「確認です」


---

「この制度は」

「私個人のものではありません」

「孤児院出身者だけの
救済策でもない」

「すでに」

「現場で、
人の生活を
支えています」


---

「停止した場合」

「戻る場所は、
用意されていますか」

沈黙。


---

「再配置先は?」

「再教育の継続は?」

「生活費は?」

誰も、
具体的に答えない。


---

「停止とは」

ノエリアは、
淡々と続ける。

「制度を消すことではありません」

「責任を、
未来に先送りすることです」


---

「失敗は、
ありました」

「隠しません」

「だから」

「修正案を、
提出しました」

「それ以上でも、
以下でもない」


---

「私が、
続けたいのではありません」

「現場が、
続いている」

「それを」

「ここで止める理由が、
見当たりません」


---

それだけ言って、
口を閉じた。

説得もしない。
感情も見せない。


---

評議会は、
一時休会に入った。

ノエリアは、
別室で待たされる。

椅子に座り、
手を組む。

(……結果は、
読めない)

だが、
不安はなかった。


---

しばらくして、
呼び戻される。

議長が、
書面を手にしていた。


---

「評議会の結論を、
伝える」

会場が、
静まり返る。


---

「孤児院制度は」

一拍。

「修正継続とする」

空気が、
わずかに動いた。


---

「条件付きだ」

議長は続ける。

「未成年の管理職は禁止」

「監督責任の明確化」

「定期的な第三者監査」

「拡大は、
当面凍結」


---

「……妥当です」

ノエリアは、
短く答えた。

感情は、
表に出さない。


---

「なお」

議長は、
一言付け加える。

「制度設計者として」

「今後も、
意見を求める」

それは、
半ば宣告だった。


---

会は、
それで終わった。

拍手はない。
歓声もない。

ただ、
紙に記録が残る。


---

帰路。

王城の廊下を歩きながら、
ノエリアは思う。

(……勝った、
わけではない)

(残った、
だけ)

だが、
それで十分だった。


---

屋敷に戻ると、
猫が迎えに来た。

子猫たちが、
後ろから転がってくる。

「ただいま」

声をかけると、
猫は喉を鳴らした。


---

夜。

執事が、
静かに言う。

「制度は、
生き残りましたね」

「ええ」

ノエリアは頷く。

「でも」

「楽にはなりません」


---

「……それでも?」

「ええ」

「続ける価値が、
あるから」

それ以上の理由は、
必要なかった。


---

灯りを落とす。

明日から、
また調整だ。

制度は、
完全ではない。

だが――
生きている。

それが、
今日の結論だった。


---

第36話の到達点

評議会による最終判断

制度は「修正継続」で生存

勝利ではなく、現実的な決着

次話で「現場が、この決定をどう受け止めるか」へ
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