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第38話 見られる側へ
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第38話 見られる側へ
最初の兆しは、
一通の書簡だった。
差出人は、
南方交易連合。
王国の外に拠点を持つ、
複数の大商会が連なる組織だ。
> 「貴国で運用されている
孤児院制度について、
視察の許可を願いたい」
文面は、
礼儀正しい。
だが、
その裏にある意味は明確だった。
(……国内の話では、
なくなった)
---
「お嬢様」
執事が、
慎重に言う。
「王家を通さず、
直接来ています」
「ええ」
ノエリアは頷いた。
「様子見、
というより」
「測りに来ている」
---
返書は、
即日出した。
> 「視察は可能です。
ただし、
特別扱いは致しません」
それ以上も、
それ以下もない。
---
数日後。
王家からも、
連絡が入った。
「……外から、
注目されていますね」
王太子クラウスの声は、
どこか苦笑を含んでいた。
「ええ」
「止める理由が、
減りました」
「その代わり」
一拍。
「利用される可能性が、
増えた」
---
視察当日。
屋敷ではなく、
現場を指定した。
西方準伯領の分院。
畑。
工房。
教室。
すべて、
日常のまま。
---
迎えたのは、
三名。
商会代表。
記録係。
そして、
観察役。
質問は、
思った以上に具体的だった。
---
「教育期間は?」
「段階制です」
「成果の評価方法は?」
「数値と、
現場評価の併用です」
「離脱率は?」
「想定内です」
---
「……感情的な支援は?」
一瞬、
空気が止まる。
ノエリアは、
即答しなかった。
---
「最低限は、
あります」
「ですが」
「感情を、
制度に組み込みません」
「それは、
人に委ねる部分です」
視察団は、
小さく頷いた。
---
工房で。
一人の若者が、
視察団の質問に答える。
孤児院出身だ。
「怖くないですか?」
商会代表が尋ねる。
「失敗したら?」
若者は、
少し考えて答えた。
---
「……怖いです」
正直な声。
「でも」
「失敗しても、
戻る場所があります」
「だから、
やれます」
ノエリアは、
何も言わなかった。
それで、
十分だった。
---
視察の終わり。
商会代表が、
率直に言う。
「興味深い制度です」
「労働力の確保としても」
「社会安定策としても」
「……危うさも、
ありますが」
---
「分かっています」
ノエリアは答える。
「制御できなければ、
崩れます」
「それでも?」
「ええ」
「だから、
外に広げません」
---
「……自国だけで?」
「少なくとも」
「私が関与する限りは」
商会代表は、
それ以上踏み込まなかった。
---
帰路。
ノエリアは、
一つの事実を噛み締めていた。
(……評価され始めた)
だが、
それは祝福ではない。
選別の始まりだ。
---
屋敷に戻ると、
猫が迎えに来た。
子猫たちは、
相変わらず無秩序に転がっている。
「……見られる側に
なったわね」
猫は、
欠伸をする。
---
夜。
執事が、
静かに言った。
「国外からの視察は、
初めてです」
「ええ」
「これから、
増えるでしょう」
---
「不安は?」
少し考える。
「あります」
正直に答える。
「でも」
「怖いから止めるなら」
「最初から、
やっていません」
---
窓辺で、
夜風に当たる。
孤児院。
制度。
評価。
どれも、
もう彼女一人のものではない。
---
「……それでも」
独り言のように呟く。
「手放さない」
主導権だけは。
---
猫が、
足元で丸くなる。
子猫たちは、
眠っている。
制度は、
生きている。
そして今、
外から見られている。
---
ノエリアは、
灯りを落とした。
次は、
選ばれる話ではない。
選ばせる話が、
始まろうとしていた。
最初の兆しは、
一通の書簡だった。
差出人は、
南方交易連合。
王国の外に拠点を持つ、
複数の大商会が連なる組織だ。
> 「貴国で運用されている
孤児院制度について、
視察の許可を願いたい」
文面は、
礼儀正しい。
だが、
その裏にある意味は明確だった。
(……国内の話では、
なくなった)
---
「お嬢様」
執事が、
慎重に言う。
「王家を通さず、
直接来ています」
「ええ」
ノエリアは頷いた。
「様子見、
というより」
「測りに来ている」
---
返書は、
即日出した。
> 「視察は可能です。
ただし、
特別扱いは致しません」
それ以上も、
それ以下もない。
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数日後。
王家からも、
連絡が入った。
「……外から、
注目されていますね」
王太子クラウスの声は、
どこか苦笑を含んでいた。
「ええ」
「止める理由が、
減りました」
「その代わり」
一拍。
「利用される可能性が、
増えた」
---
視察当日。
屋敷ではなく、
現場を指定した。
西方準伯領の分院。
畑。
工房。
教室。
すべて、
日常のまま。
---
迎えたのは、
三名。
商会代表。
記録係。
そして、
観察役。
質問は、
思った以上に具体的だった。
---
「教育期間は?」
「段階制です」
「成果の評価方法は?」
「数値と、
現場評価の併用です」
「離脱率は?」
「想定内です」
---
「……感情的な支援は?」
一瞬、
空気が止まる。
ノエリアは、
即答しなかった。
---
「最低限は、
あります」
「ですが」
「感情を、
制度に組み込みません」
「それは、
人に委ねる部分です」
視察団は、
小さく頷いた。
---
工房で。
一人の若者が、
視察団の質問に答える。
孤児院出身だ。
「怖くないですか?」
商会代表が尋ねる。
「失敗したら?」
若者は、
少し考えて答えた。
---
「……怖いです」
正直な声。
「でも」
「失敗しても、
戻る場所があります」
「だから、
やれます」
ノエリアは、
何も言わなかった。
それで、
十分だった。
---
視察の終わり。
商会代表が、
率直に言う。
「興味深い制度です」
「労働力の確保としても」
「社会安定策としても」
「……危うさも、
ありますが」
---
「分かっています」
ノエリアは答える。
「制御できなければ、
崩れます」
「それでも?」
「ええ」
「だから、
外に広げません」
---
「……自国だけで?」
「少なくとも」
「私が関与する限りは」
商会代表は、
それ以上踏み込まなかった。
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帰路。
ノエリアは、
一つの事実を噛み締めていた。
(……評価され始めた)
だが、
それは祝福ではない。
選別の始まりだ。
---
屋敷に戻ると、
猫が迎えに来た。
子猫たちは、
相変わらず無秩序に転がっている。
「……見られる側に
なったわね」
猫は、
欠伸をする。
---
夜。
執事が、
静かに言った。
「国外からの視察は、
初めてです」
「ええ」
「これから、
増えるでしょう」
---
「不安は?」
少し考える。
「あります」
正直に答える。
「でも」
「怖いから止めるなら」
「最初から、
やっていません」
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窓辺で、
夜風に当たる。
孤児院。
制度。
評価。
どれも、
もう彼女一人のものではない。
---
「……それでも」
独り言のように呟く。
「手放さない」
主導権だけは。
---
猫が、
足元で丸くなる。
子猫たちは、
眠っている。
制度は、
生きている。
そして今、
外から見られている。
---
ノエリアは、
灯りを落とした。
次は、
選ばれる話ではない。
選ばせる話が、
始まろうとしていた。
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