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第22話 並ばない未来
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第22話 並ばない未来
王都から届く報せは、以前よりも断片的になっていた。
評議会の正式な文書は来ない。
商会からの抗議も、いつの間にか数を減らしている。
教会は沈黙を守り、使者も送ってこない。
――動けない。
それが、王都の現状だった。
一方、アルツハイム辺境伯領では、春の準備が着実に進んでいた。
「この地域の開墾、予定より早く始められそうです」
会議室で、農務担当が報告する。
「街道が整ったおかげで、資材の搬入が楽になりました」
ミディア・バイエルンは、資料に目を通しながら頷いた。
「無理はしないでください。
今年は“成功”より、“定着”を優先します」
その言葉に、担当者たちは安堵したように息を吐く。
短期的な成果を誇るより、
来年も同じことができる体制を作る。
それが、彼女の一貫した方針だった。
「……王都なら、どうなっていたでしょうね」
誰かが、ぽつりと漏らす。
「数字を飾って、無理を重ねて……」
「途中で誰かが責任を取らされる」
苦笑が、広がる。
「ここでは、そうしません」
ミディアは、静かに言った。
「失敗は、共有します。
成功も、共有します」
会議室の空気が、少し柔らいだ。
昼過ぎ、アイロス・アルツハイムが、視察から戻ってきた。
「南側の集落、反応は?」
「落ち着いています」
彼は、簡潔に答える。
「王都の話題も、ほとんど出ません」
ミディアは、小さく微笑んだ。
「それでいいのです」
王都を気にしなくなった時点で、
ここは、もう王都の影響圏ではない。
「……あなたは、最初からここに残るつもりでしたか」
不意に、アイロスが尋ねる。
ミディアは、少し考えた。
「いいえ」
「では、いつ決めた?」
「“並ばなくていい”と気づいた時です」
彼女は、窓の外を見た。
「王都では、常に誰かと並び、比べられ、順位を付けられていました」
「王太子の隣、という席ですね」
「はい」
ミディアは、否定しなかった。
「でも、ここでは」
視線を戻す。
「隣に座る必要がありません」
アイロスは、言葉を失ったように黙り込んだ。
「私は、誰かの“選択肢”でいるより、
仕事の中にいる方が、ずっと楽です」
それは、強がりではなかった。
事実だった。
夕方、開墾予定地を視察する。
まだ手付かずの土地に、杭が打たれている。
「ここが、畑になります」
若い農夫が、期待に満ちた声で言う。
「子どもたちが、ここで働けるように」
ミディアは、ゆっくりと頷いた。
「そうなるよう、整えましょう」
それは、約束ではない。
方針だ。
夜、宿舎に戻ると、静かな時間が流れていた。
机の上には、次の季節に向けた計画書。
王都からの手紙は、もう置かれていない。
――並ばない未来。
それは、王太子妃でも、王都の象徴でもない。
だが、確かに、人の暮らしに触れている。
「……悪くないですね」
小さく呟く。
王都では、アルトゥールが、焦燥の中で席を探している。
だが、ミディアは、もうその列にいない。
彼女は、列の外で、別の未来を歩いていた。
それは、誰かに選ばれる未来ではない。
自分で、選び続ける未来だった。
王都から届く報せは、以前よりも断片的になっていた。
評議会の正式な文書は来ない。
商会からの抗議も、いつの間にか数を減らしている。
教会は沈黙を守り、使者も送ってこない。
――動けない。
それが、王都の現状だった。
一方、アルツハイム辺境伯領では、春の準備が着実に進んでいた。
「この地域の開墾、予定より早く始められそうです」
会議室で、農務担当が報告する。
「街道が整ったおかげで、資材の搬入が楽になりました」
ミディア・バイエルンは、資料に目を通しながら頷いた。
「無理はしないでください。
今年は“成功”より、“定着”を優先します」
その言葉に、担当者たちは安堵したように息を吐く。
短期的な成果を誇るより、
来年も同じことができる体制を作る。
それが、彼女の一貫した方針だった。
「……王都なら、どうなっていたでしょうね」
誰かが、ぽつりと漏らす。
「数字を飾って、無理を重ねて……」
「途中で誰かが責任を取らされる」
苦笑が、広がる。
「ここでは、そうしません」
ミディアは、静かに言った。
「失敗は、共有します。
成功も、共有します」
会議室の空気が、少し柔らいだ。
昼過ぎ、アイロス・アルツハイムが、視察から戻ってきた。
「南側の集落、反応は?」
「落ち着いています」
彼は、簡潔に答える。
「王都の話題も、ほとんど出ません」
ミディアは、小さく微笑んだ。
「それでいいのです」
王都を気にしなくなった時点で、
ここは、もう王都の影響圏ではない。
「……あなたは、最初からここに残るつもりでしたか」
不意に、アイロスが尋ねる。
ミディアは、少し考えた。
「いいえ」
「では、いつ決めた?」
「“並ばなくていい”と気づいた時です」
彼女は、窓の外を見た。
「王都では、常に誰かと並び、比べられ、順位を付けられていました」
「王太子の隣、という席ですね」
「はい」
ミディアは、否定しなかった。
「でも、ここでは」
視線を戻す。
「隣に座る必要がありません」
アイロスは、言葉を失ったように黙り込んだ。
「私は、誰かの“選択肢”でいるより、
仕事の中にいる方が、ずっと楽です」
それは、強がりではなかった。
事実だった。
夕方、開墾予定地を視察する。
まだ手付かずの土地に、杭が打たれている。
「ここが、畑になります」
若い農夫が、期待に満ちた声で言う。
「子どもたちが、ここで働けるように」
ミディアは、ゆっくりと頷いた。
「そうなるよう、整えましょう」
それは、約束ではない。
方針だ。
夜、宿舎に戻ると、静かな時間が流れていた。
机の上には、次の季節に向けた計画書。
王都からの手紙は、もう置かれていない。
――並ばない未来。
それは、王太子妃でも、王都の象徴でもない。
だが、確かに、人の暮らしに触れている。
「……悪くないですね」
小さく呟く。
王都では、アルトゥールが、焦燥の中で席を探している。
だが、ミディアは、もうその列にいない。
彼女は、列の外で、別の未来を歩いていた。
それは、誰かに選ばれる未来ではない。
自分で、選び続ける未来だった。
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