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第7話 取り戻せると思っていたもの
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第7話 取り戻せると思っていたもの
翌朝、
アセルス・アウストラリスは、
珍しく早く目を覚ました。
昨夜の会合で感じた違和感が、
胸の奥に引っかかったまま、
完全には眠れなかったからだ。
(……考えすぎだ)
身支度を整えながら、
彼はそう結論づける。
貴族たちが距離を取るのも、
執務案件が減ったのも、
すべては“調整期間”に過ぎない。
(今は、
誰が次の王太子になるのか、
様子を見ているだけだ)
そうでなければ困る。
なぜなら――
それ以外の可能性を、
彼は想定していなかった。
「まずは、
話をすればいい」
アセルスは、
アルファルド派の重鎮の名を、
頭の中で思い浮かべた。
婚約破棄の場で不支持を表明されたとはいえ、
あれほど長く続いた関係が、
一度の出来事で断ち切れるはずがない。
(少し頭を冷やせば、
理屈は通じる)
そう考え、
彼は使いを出した。
だが、
戻ってきた返事は、
想定とはかけ離れていた。
「殿下……
“今はお会いする時期ではない”と……」
「今は?」
アセルスは、
思わず聞き返した。
「それは、
いつならいいのだ?」
使いは、
困ったように視線を落とす。
「……時期が来れば、
先方から連絡があると……」
それは、
丁重な拒絶だった。
アセルスは、
口元を引き結び、
一瞬だけ黙り込む。
(……まあいい)
一人に断られただけだ。
派閥は大きい。
他にも話せる相手はいる。
彼は、
次々と名前を挙げ、
同じように使いを走らせた。
だが、
返ってくる言葉は、
どれも似通っていた。
――不在。
――多忙。
――今は話せない。
誰も、
はっきりと拒絶しない。
だが、
誰も応じない。
(なぜだ)
胸の奥に、
小さな苛立ちが芽生える。
これまで、
“話せば通じる”立場にいた。
それが、
通じない。
その感覚が、
彼を落ち着かなくさせた。
昼前、
アセルスは執務室の椅子に深く座り、
指で机を叩いた。
「……取り戻せる」
ぽつりと、
声が漏れる。
「少し行き違っただけだ」
そうでなければ、
説明がつかない。
婚約相手が変わっただけで、
王太子候補から外れるなど、
あまりにも理不尽だ。
(私は、
何も間違っていない)
その思考は、
彼自身を守るためのものだった。
だが同時に、
現実から目を逸らすための
“盾”でもある。
同じ頃、
王宮の別の場所では、
すでに次の話題が動いていた。
「……第一王子の件ですが」
「ええ。
扱いは“保留”で」
「では、
今後は第二王子を軸に?」
「慎重に、
しかし着実に」
その会話に、
アセルスの名は出ない。
“第一王子”という立場だけが、
形式的に語られる。
夕刻、
彼は窓辺に立ち、
沈みゆく空を眺めた。
「私は、
まだ王太子だ」
そう呟いた言葉に、
確信はない。
それでも、
この段階では、
まだ“取り戻せる”と思っていた。
――失ったものが、
すでに戻らない位置まで
遠ざかっていることに、
気づかぬまま。
それが、
彼に残された、
最後の猶予だった。
翌朝、
アセルス・アウストラリスは、
珍しく早く目を覚ました。
昨夜の会合で感じた違和感が、
胸の奥に引っかかったまま、
完全には眠れなかったからだ。
(……考えすぎだ)
身支度を整えながら、
彼はそう結論づける。
貴族たちが距離を取るのも、
執務案件が減ったのも、
すべては“調整期間”に過ぎない。
(今は、
誰が次の王太子になるのか、
様子を見ているだけだ)
そうでなければ困る。
なぜなら――
それ以外の可能性を、
彼は想定していなかった。
「まずは、
話をすればいい」
アセルスは、
アルファルド派の重鎮の名を、
頭の中で思い浮かべた。
婚約破棄の場で不支持を表明されたとはいえ、
あれほど長く続いた関係が、
一度の出来事で断ち切れるはずがない。
(少し頭を冷やせば、
理屈は通じる)
そう考え、
彼は使いを出した。
だが、
戻ってきた返事は、
想定とはかけ離れていた。
「殿下……
“今はお会いする時期ではない”と……」
「今は?」
アセルスは、
思わず聞き返した。
「それは、
いつならいいのだ?」
使いは、
困ったように視線を落とす。
「……時期が来れば、
先方から連絡があると……」
それは、
丁重な拒絶だった。
アセルスは、
口元を引き結び、
一瞬だけ黙り込む。
(……まあいい)
一人に断られただけだ。
派閥は大きい。
他にも話せる相手はいる。
彼は、
次々と名前を挙げ、
同じように使いを走らせた。
だが、
返ってくる言葉は、
どれも似通っていた。
――不在。
――多忙。
――今は話せない。
誰も、
はっきりと拒絶しない。
だが、
誰も応じない。
(なぜだ)
胸の奥に、
小さな苛立ちが芽生える。
これまで、
“話せば通じる”立場にいた。
それが、
通じない。
その感覚が、
彼を落ち着かなくさせた。
昼前、
アセルスは執務室の椅子に深く座り、
指で机を叩いた。
「……取り戻せる」
ぽつりと、
声が漏れる。
「少し行き違っただけだ」
そうでなければ、
説明がつかない。
婚約相手が変わっただけで、
王太子候補から外れるなど、
あまりにも理不尽だ。
(私は、
何も間違っていない)
その思考は、
彼自身を守るためのものだった。
だが同時に、
現実から目を逸らすための
“盾”でもある。
同じ頃、
王宮の別の場所では、
すでに次の話題が動いていた。
「……第一王子の件ですが」
「ええ。
扱いは“保留”で」
「では、
今後は第二王子を軸に?」
「慎重に、
しかし着実に」
その会話に、
アセルスの名は出ない。
“第一王子”という立場だけが、
形式的に語られる。
夕刻、
彼は窓辺に立ち、
沈みゆく空を眺めた。
「私は、
まだ王太子だ」
そう呟いた言葉に、
確信はない。
それでも、
この段階では、
まだ“取り戻せる”と思っていた。
――失ったものが、
すでに戻らない位置まで
遠ざかっていることに、
気づかぬまま。
それが、
彼に残された、
最後の猶予だった。
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