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第8話 結束は、静かに
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第8話 結束は、静かに
アルファルド公爵邸では、
今日も変わらず馬車の出入りが続いていた。
門番に名を告げる声、
砂利を踏む車輪の音、
客を迎える使用人たちの足音。
それらはもはや日常の一部となりつつある。
シャウラ・アルファルドは、
サロンの窓際に座り、
紅茶の香りに小さく息をついた。
「今日は……
午前が伯爵令嬢様、
午後が子爵令嬢様でしたわね」
「はい。
どちらも、
アルファルド派のご令嬢でございます」
侍女の声は、
いつも通り落ち着いている。
「まあ……
本当に続きますのね」
シャウラは、
少しだけ苦笑した。
忙しい。
だが、不快ではない。
むしろ、
どの令嬢も自然体で、
無理に気を遣ってくる様子はなかった。
「先日はありがとうございました」
「またご一緒できて嬉しいですわ」
交わされる言葉は、
どれも穏やかで、
“慰め”の色を帯びていない。
それが、
シャウラには少し不思議だった。
(もっと、
腫れ物に触るような扱いをされると
思っていましたのに……)
だが実際は逆だ。
以前よりも、
距離が近い。
以前よりも、
遠慮がない。
午後のお茶会を終えた後、
シャウラは庭を散歩しながら、
ぽつりと漏らした。
「……案外、
婚約がなくなってからの方が、
人付き合いが増えましたわ」
「それは、
皆様が安心なさったからかと」
侍女は、
そう言って微笑む。
「安心?」
「はい。
シャウラ様が、
誰の立場にも縛られなくなった、と」
シャウラは、
足を止めた。
(……そういうものかしら)
自分では、
何も変えたつもりはない。
婚約がなくなったからといって、
態度を変えた覚えもない。
それでも、
周囲は確かに変わっている。
同じ頃、
屋敷の奥の会議室では、
アルファルド派の貴族たちが
静かに集まっていた。
「派閥の動揺は、
一切見られませんな」
「むしろ、
結束は強まっております」
「理由は明白でしょう」
誰かが、
控えめに言った。
「“中心”が、
揺れておられない」
その中心が、
政治的な指示を出しているわけではない。
命令しているわけでもない。
ただ、
いつも通りにお茶をし、
笑い、
予定をこなしているだけだ。
「何もしていないようで、
最も効果的ですな」
「ええ。
慌てないことほど、
安心を与えるものはない」
その評価を、
シャウラ本人が知ることはない。
夕方、
サロンに戻ったシャウラは、
少しだけ肩を回した。
「……さすがに、
少し疲れましたわね」
「ですが、
皆様とても楽しそうでした」
「それは……
良かったですわ」
彼女は、
それ以上深く考えなかった。
だがその“何も考えない姿勢”こそが、
アルファルド派にとって、
何よりの支柱になっている。
一方、
王宮では、
まったく逆の評価が下されていた。
「第一王子は、
動けば動くほど空回りしている」
「対して、
アルファルド家は、
驚くほど静かだ」
「……静かな方が、
怖いものですな」
その言葉は、
誰にも否定されなかった。
この日、
派閥内では、
誰一人として
「動揺」という言葉を口にしなかった。
結束は、
声高に宣言されるものではない。
――静かに、
当たり前のように続く日常の中で、
いつの間にか、
完成しているものなのだから。
アルファルド公爵邸では、
今日も変わらず馬車の出入りが続いていた。
門番に名を告げる声、
砂利を踏む車輪の音、
客を迎える使用人たちの足音。
それらはもはや日常の一部となりつつある。
シャウラ・アルファルドは、
サロンの窓際に座り、
紅茶の香りに小さく息をついた。
「今日は……
午前が伯爵令嬢様、
午後が子爵令嬢様でしたわね」
「はい。
どちらも、
アルファルド派のご令嬢でございます」
侍女の声は、
いつも通り落ち着いている。
「まあ……
本当に続きますのね」
シャウラは、
少しだけ苦笑した。
忙しい。
だが、不快ではない。
むしろ、
どの令嬢も自然体で、
無理に気を遣ってくる様子はなかった。
「先日はありがとうございました」
「またご一緒できて嬉しいですわ」
交わされる言葉は、
どれも穏やかで、
“慰め”の色を帯びていない。
それが、
シャウラには少し不思議だった。
(もっと、
腫れ物に触るような扱いをされると
思っていましたのに……)
だが実際は逆だ。
以前よりも、
距離が近い。
以前よりも、
遠慮がない。
午後のお茶会を終えた後、
シャウラは庭を散歩しながら、
ぽつりと漏らした。
「……案外、
婚約がなくなってからの方が、
人付き合いが増えましたわ」
「それは、
皆様が安心なさったからかと」
侍女は、
そう言って微笑む。
「安心?」
「はい。
シャウラ様が、
誰の立場にも縛られなくなった、と」
シャウラは、
足を止めた。
(……そういうものかしら)
自分では、
何も変えたつもりはない。
婚約がなくなったからといって、
態度を変えた覚えもない。
それでも、
周囲は確かに変わっている。
同じ頃、
屋敷の奥の会議室では、
アルファルド派の貴族たちが
静かに集まっていた。
「派閥の動揺は、
一切見られませんな」
「むしろ、
結束は強まっております」
「理由は明白でしょう」
誰かが、
控えめに言った。
「“中心”が、
揺れておられない」
その中心が、
政治的な指示を出しているわけではない。
命令しているわけでもない。
ただ、
いつも通りにお茶をし、
笑い、
予定をこなしているだけだ。
「何もしていないようで、
最も効果的ですな」
「ええ。
慌てないことほど、
安心を与えるものはない」
その評価を、
シャウラ本人が知ることはない。
夕方、
サロンに戻ったシャウラは、
少しだけ肩を回した。
「……さすがに、
少し疲れましたわね」
「ですが、
皆様とても楽しそうでした」
「それは……
良かったですわ」
彼女は、
それ以上深く考えなかった。
だがその“何も考えない姿勢”こそが、
アルファルド派にとって、
何よりの支柱になっている。
一方、
王宮では、
まったく逆の評価が下されていた。
「第一王子は、
動けば動くほど空回りしている」
「対して、
アルファルド家は、
驚くほど静かだ」
「……静かな方が、
怖いものですな」
その言葉は、
誰にも否定されなかった。
この日、
派閥内では、
誰一人として
「動揺」という言葉を口にしなかった。
結束は、
声高に宣言されるものではない。
――静かに、
当たり前のように続く日常の中で、
いつの間にか、
完成しているものなのだから。
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