婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

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第9話 返事が来ない理由

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第9話 返事が来ない理由

アセルス・アウストラリスは、
机の上に置かれた書簡を、
じっと見つめていた。

封は切られていない。
いや――
正確には、返事そのものが来ていない。

「……遅すぎる」

アルベルド商会に送った正式な連絡だ。
これまでなら、
どんなに遅くとも当日中、
遅くても翌朝には返答があった。

それが、
もう三日になる。

(忙しいだけだろう)

そう思おうとして、
ふと、
胸の奥に小さな不快感が生まれた。

忙しい?
あのアルベルド商会が?

王国最大の商会であり、
商業組合の頂点に立つ存在だ。
“忙しい”ことを理由に、
第一王子を後回しにするなど、
これまで一度もなかった。

「……使いは、どうした?」

呼び出された近臣が、
一瞬だけ言葉に詰まる。

「殿下。
 本日も、
 面会はかなわないとのことでした」

「理由は?」

「『現在、
 殿下と協議すべき案件は存在しない』と……」

その言葉を聞いた瞬間、
アセルスの眉が、
わずかに動いた。

(協議すべき案件が、ない?)

それは、
関係が続いていれば、
決して出てこない言葉だ。

「……分かった。
 下がれ」

近臣は、
深く一礼して部屋を出た。

一人になった執務室で、
アセルスは椅子にもたれ、
天井を仰ぐ。

(商会が慎重になるのは、
 当然だ)

婚約破棄の直後だ。
政治も経済も、
今は流動的な時期。

――だからこそ、
時間を置いてから話せばいい。

そう、
自分に言い聞かせる。

だが、
頭の片隅で、
別の考えがちらついた。

(……本当に、
 時間を置けば戻るのか?)

その疑念を、
彼は強引に押し込めた。

否定しなければ、
立っていられない。

同じ頃、
王宮の外では、
すでに“答え”が共有されていた。

「アルベルド商会は、
 完全に引きましたな」

「ええ。
 投資先としての価値が、
 消えた以上、当然でしょう」

「第一王子は、
 まだ気づいていないようですが」

「気づかせる必要も、
 ありません」

その判断は、
冷酷だが合理的だった。

王太子にならない者に、
未来は賭けられない。

夕方、
アセルスは窓辺に立ち、
王都を見下ろした。

市場は賑わい、
人々は変わらぬ日常を送っている。

(……皆、
 何事もなかったようだな)

それが、
彼には少し不思議だった。

自分ほどの立場の人間が、
政治的に大きな決断を下したのだ。
世界が、
もう少し騒がしくなってもいい。

だが現実は――
自分だけが取り残されている。

それでも、
アセルスは結論を変えない。

「アルベルド商会も、
 派閥も……
 戻ってくる」

そうでなければ、
自分の選択が
“誤り”になってしまうからだ。

彼はまだ知らない。

返事が来ないのは、
検討中だからではない。

――すでに、
 答えが出ているからだということを。
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