婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

文字の大きさ
7 / 40

第7話 取り戻せると思っていたもの

しおりを挟む
第7話 取り戻せると思っていたもの

翌朝、
アセルス・アウストラリスは、
珍しく早く目を覚ました。

昨夜の会合で感じた違和感が、
胸の奥に引っかかったまま、
完全には眠れなかったからだ。

(……考えすぎだ)

身支度を整えながら、
彼はそう結論づける。

貴族たちが距離を取るのも、
執務案件が減ったのも、
すべては“調整期間”に過ぎない。

(今は、
 誰が次の王太子になるのか、
 様子を見ているだけだ)

そうでなければ困る。
なぜなら――
それ以外の可能性を、
彼は想定していなかった。

「まずは、
 話をすればいい」

アセルスは、
アルファルド派の重鎮の名を、
頭の中で思い浮かべた。

婚約破棄の場で不支持を表明されたとはいえ、
あれほど長く続いた関係が、
一度の出来事で断ち切れるはずがない。

(少し頭を冷やせば、
 理屈は通じる)

そう考え、
彼は使いを出した。

だが、
戻ってきた返事は、
想定とはかけ離れていた。

「殿下……
 “今はお会いする時期ではない”と……」

「今は?」

アセルスは、
思わず聞き返した。

「それは、
 いつならいいのだ?」

使いは、
困ったように視線を落とす。

「……時期が来れば、
 先方から連絡があると……」

それは、
丁重な拒絶だった。

アセルスは、
口元を引き結び、
一瞬だけ黙り込む。

(……まあいい)

一人に断られただけだ。
派閥は大きい。
他にも話せる相手はいる。

彼は、
次々と名前を挙げ、
同じように使いを走らせた。

だが、
返ってくる言葉は、
どれも似通っていた。

――不在。
――多忙。
――今は話せない。

誰も、
はっきりと拒絶しない。
だが、
誰も応じない。

(なぜだ)

胸の奥に、
小さな苛立ちが芽生える。

これまで、
“話せば通じる”立場にいた。
それが、
通じない。

その感覚が、
彼を落ち着かなくさせた。

昼前、
アセルスは執務室の椅子に深く座り、
指で机を叩いた。

「……取り戻せる」

ぽつりと、
声が漏れる。

「少し行き違っただけだ」

そうでなければ、
説明がつかない。

婚約相手が変わっただけで、
王太子候補から外れるなど、
あまりにも理不尽だ。

(私は、
 何も間違っていない)

その思考は、
彼自身を守るためのものだった。

だが同時に、
現実から目を逸らすための
“盾”でもある。

同じ頃、
王宮の別の場所では、
すでに次の話題が動いていた。

「……第一王子の件ですが」

「ええ。
 扱いは“保留”で」

「では、
 今後は第二王子を軸に?」

「慎重に、
 しかし着実に」

その会話に、
アセルスの名は出ない。

“第一王子”という立場だけが、
形式的に語られる。

夕刻、
彼は窓辺に立ち、
沈みゆく空を眺めた。

「私は、
 まだ王太子だ」

そう呟いた言葉に、
確信はない。

それでも、
この段階では、
まだ“取り戻せる”と思っていた。

――失ったものが、
すでに戻らない位置まで
遠ざかっていることに、
気づかぬまま。

それが、
彼に残された、
最後の猶予だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

知らぬはヒロインだけ

ネコフク
恋愛
「クエス様好きです!」婚約者が隣にいるのに告白する令嬢に唖然とするシスティアとクエスフィール。 告白してきた令嬢アリサは見目の良い高位貴族の子息ばかり粉をかけて回っていると有名な人物だった。 しかも「イベント」「システム」など訳が分からない事を言っているらしい。 そう、アリサは転生者。ここが乙女ゲームの世界で自分はヒロインだと思っている。 しかし彼女は知らない。他にも転生者がいることを。 ※不定期連載です。毎日投稿する時もあれば日が開く事もあります。

両親に溺愛されて育った妹の顛末

葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。 オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。 「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」 「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」 「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」 妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング2位、ありがとうございます。

処理中です...