婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

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第6話 静かに消える居場所

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第6話 静かに消える居場所

その日、
アセルス・アウストラリスは、
久しぶりに「会合」に顔を出すつもりでいた。

婚約破棄から数日。
王宮の空気は相変わらず落ち着かないが、
そろそろ潮目が変わる頃だ――
彼はそう踏んでいた。

(いつまでも距離を置くわけがない。
 皆、私が王太子になると分かっているのだから)

場所は、
王宮内の小広間。
派閥を問わず、
有力貴族が集まる非公式の情報交換の場だ。

以前なら、
アセルスが現れただけで、
自然と輪ができていた。

だが――
扉を開けた瞬間、
彼は違和感を覚えた。

話し声はある。
人もいる。
だが、
誰一人として、彼を中心に動かない。

「あ……殿下」

気づいた貴族が、
遅れて一礼する。

「ごきげんよう」

アセルスは、
いつも通り応じ、
歩み寄った。

だが、
会話は続かない。

一瞬の沈黙。
そして――
さりげなく、話題が変えられる。

(……?)

彼は、
別の集まりへ向かう。

「その件だが――」

話しかけた途端、
相手は困ったように笑った。

「申し訳ありません、殿下。
 その件は、
 すでに別口で話が進んでおりまして」

「別口?」

「はい……」

それ以上は、
何も語られない。

以前なら、
「殿下のご意向次第で」
と言われていた話だ。

アセルスは、
胸の奥に小さな棘を感じた。

(偶然だ。
 今日は、たまたま流れが悪いだけだ)

そう思おうとしたが、
同じことが、
何度も続く。

誰も逆らわない。
だが、
誰も従わない。

――それは、
最も厄介な拒絶だった。

会合を終え、
廊下を歩くアセルスの背後で、
低い声が交わされる。

「……殿下、
 まだ分かっていないようだな」

「無理もない。
 あの立場に長くいれば、
 地盤を“自分の力”だと思ってしまう」

「だが、
 もう地盤はない」

その言葉は、
彼の耳には届かない。

夕刻、
執務室に戻ったアセルスは、
机の上の書類を見下ろした。

承認を求める案件が、
明らかに減っている。

「……これは?」

近臣に尋ねると、
一瞬、言葉を選ぶような間があった。

「殿下、
 最近は、
 陛下経由で処理される案件が増えておりまして……」

「なぜだ」

「……大事を取って、
 とのことです」

大事を取る。
それは、
任せられないという意味だ。

アセルスは、
それでも笑った。

「そうか。
 では、問題あるまい」

近臣は、
何も言わなかった。

夜。
自室に戻ったアセルスは、
グラスを傾けながら、
独りごちる。

「皆、慎重になっているだけだ」

「私は、第一王子だ。
 王太子になる存在だ」

何度も、
同じ言葉を繰り返す。

まるで、
自分に言い聞かせるように。

だが、
現実はすでに動いていた。

彼の「席」は、
まだ名前こそ残っているが、
誰も座らない席になりつつある。

そして、
最も残酷な事実は――
その空席に、
 彼自身だけが気づいていない
ということだった。

静かに、
確実に。

アセルス・アウストラリスの居場所は、
王宮から消え始めていた。
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