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第23話 無自覚な中心
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第23話 無自覚な中心
アルファルド公爵邸の朝は、
いつもと変わらず穏やかだった。
庭では冬支度の剪定が進み、
サロンには、
いつもの紅茶の香りが満ちている。
「本日は、
午前にベイル侯爵令嬢様、
午後にノルト辺境伯夫人がお見えになります」
侍女の報告に、
シャウラ・アルファルドは
少しだけ目を丸くした。
「……随分と、
続きますのね」
「皆さま、
ぜひシャウラ様と
お話ししたいと」
「そう……」
特に意味もなく頷き、
シャウラは窓際の席につく。
彼女にとって、
それは単なる社交だ。
だが――
訪れる側にとっては、
違った。
午前。
ベイル侯爵令嬢は、
丁寧な挨拶のあと、
慎重に切り出した。
「最近の王宮の動き……
ご不安ではありませんか?」
「いいえ?」
即答だった。
「不安になる理由が、
思い当たりませんの」
その言葉に、
侯爵令嬢は一瞬言葉を失う。
「……ですが、
派閥としての方針など」
「父が決めることでしょう?」
シャウラは、
不思議そうに首を傾げる。
「わたくしは、
お茶をご一緒するくらいしか
できませんもの」
その“お茶”こそが、
派閥を繋ぎ止めているのだと、
侯爵令嬢は口にしなかった。
午後。
ノルト辺境伯夫人は、
もっと率直だった。
「シャウラ様」
「はい」
「殿下方の動きが
どう転んでも……
アルファルド派は、
動じませんね」
「そうでしょうか?」
シャウラは、
いつも通り穏やかに微笑む。
「皆さまが、
冷静なだけですわ」
「……中心が、
揺れていないからです」
夫人は、
はっきりと言った。
その言葉に、
シャウラは一瞬だけ
考え込む。
「中心……?」
「ええ」
夫人は、
言葉を選びながら続ける。
「誰が王太子になろうと、
誰が即位しようと……
ここが変わらない限り、
派閥は割れません」
「ここ、とは?」
シャウラは、
自分の胸元を指されたことに
ようやく気づいた。
「……わたくし?」
「はい」
沈黙。
シャウラは、
困ったように笑った。
「買いかぶりですわ」
「わたくしは、
何もしていません」
「“何もしていない”からこそ、
なのです」
夫人は、
静かに答えた。
「誰にも命じず、
誰にも期待せず、
誰にも従わせない」
「それでいて、
皆が安心して
ここに集まれる」
「それは、
才能です」
シャウラは、
それ以上、
言葉を返せなかった。
夕刻。
その話を聞いたマリーは、
小さく息を吐いた。
「……やはり」
「無自覚、
というのは恐ろしいものですわね」
シャウラは、
苦笑する。
「本当に、
わたくしには
何の自覚もありませんのよ?」
「ええ。
だからこそ、
価値があるのです」
マリーは、
きっぱりと言った。
「王妃より、
女王の友人」
「その位置に、
シャウラ様ほど
相応しい方は
いませんわ」
シャウラは、
少し考え、
それから肩をすくめた。
「……難しいことは、
分かりません」
「ただ」
彼女は、
穏やかな笑みを浮かべる。
「皆さまが、
落ち着いて
お茶を飲めるなら」
「それで、
十分ではありませんか?」
その一言で、
マリーは確信した。
この人は、
王にならなくても、
国を安定させてしまう。
この日、
派閥の中で
誰かが宣言したわけではない。
だが、
確かな合意が
静かに生まれていた。
――アルファルド派は、
女王マリーを支持する。
そしてその背後には、
何もしていないはずの
シャウラ・アルファルドが
確かに立っていた。
アルファルド公爵邸の朝は、
いつもと変わらず穏やかだった。
庭では冬支度の剪定が進み、
サロンには、
いつもの紅茶の香りが満ちている。
「本日は、
午前にベイル侯爵令嬢様、
午後にノルト辺境伯夫人がお見えになります」
侍女の報告に、
シャウラ・アルファルドは
少しだけ目を丸くした。
「……随分と、
続きますのね」
「皆さま、
ぜひシャウラ様と
お話ししたいと」
「そう……」
特に意味もなく頷き、
シャウラは窓際の席につく。
彼女にとって、
それは単なる社交だ。
だが――
訪れる側にとっては、
違った。
午前。
ベイル侯爵令嬢は、
丁寧な挨拶のあと、
慎重に切り出した。
「最近の王宮の動き……
ご不安ではありませんか?」
「いいえ?」
即答だった。
「不安になる理由が、
思い当たりませんの」
その言葉に、
侯爵令嬢は一瞬言葉を失う。
「……ですが、
派閥としての方針など」
「父が決めることでしょう?」
シャウラは、
不思議そうに首を傾げる。
「わたくしは、
お茶をご一緒するくらいしか
できませんもの」
その“お茶”こそが、
派閥を繋ぎ止めているのだと、
侯爵令嬢は口にしなかった。
午後。
ノルト辺境伯夫人は、
もっと率直だった。
「シャウラ様」
「はい」
「殿下方の動きが
どう転んでも……
アルファルド派は、
動じませんね」
「そうでしょうか?」
シャウラは、
いつも通り穏やかに微笑む。
「皆さまが、
冷静なだけですわ」
「……中心が、
揺れていないからです」
夫人は、
はっきりと言った。
その言葉に、
シャウラは一瞬だけ
考え込む。
「中心……?」
「ええ」
夫人は、
言葉を選びながら続ける。
「誰が王太子になろうと、
誰が即位しようと……
ここが変わらない限り、
派閥は割れません」
「ここ、とは?」
シャウラは、
自分の胸元を指されたことに
ようやく気づいた。
「……わたくし?」
「はい」
沈黙。
シャウラは、
困ったように笑った。
「買いかぶりですわ」
「わたくしは、
何もしていません」
「“何もしていない”からこそ、
なのです」
夫人は、
静かに答えた。
「誰にも命じず、
誰にも期待せず、
誰にも従わせない」
「それでいて、
皆が安心して
ここに集まれる」
「それは、
才能です」
シャウラは、
それ以上、
言葉を返せなかった。
夕刻。
その話を聞いたマリーは、
小さく息を吐いた。
「……やはり」
「無自覚、
というのは恐ろしいものですわね」
シャウラは、
苦笑する。
「本当に、
わたくしには
何の自覚もありませんのよ?」
「ええ。
だからこそ、
価値があるのです」
マリーは、
きっぱりと言った。
「王妃より、
女王の友人」
「その位置に、
シャウラ様ほど
相応しい方は
いませんわ」
シャウラは、
少し考え、
それから肩をすくめた。
「……難しいことは、
分かりません」
「ただ」
彼女は、
穏やかな笑みを浮かべる。
「皆さまが、
落ち着いて
お茶を飲めるなら」
「それで、
十分ではありませんか?」
その一言で、
マリーは確信した。
この人は、
王にならなくても、
国を安定させてしまう。
この日、
派閥の中で
誰かが宣言したわけではない。
だが、
確かな合意が
静かに生まれていた。
――アルファルド派は、
女王マリーを支持する。
そしてその背後には、
何もしていないはずの
シャウラ・アルファルドが
確かに立っていた。
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