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第26話 静かな即位
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第26話 静かな即位
王都の朝は、
驚くほど穏やかだった。
鐘が鳴り、
人々はいつも通りに店を開き、
通りには日常のざわめきが流れている。
――今日は、即位の日。
だが、
誰も騒がない。
誰も叫ばない。
それが、この国の選んだ形だった。
王宮の大聖堂では、
簡素ながらも格式を重んじた準備が進められていた。
豪奢な装飾は控えめに、
過剰な演出もない。
「女王陛下は、
これよりご入場なさいます」
宣言の声が響く。
マリー・アウストラリスは、
深い青の正装に身を包み、
ゆっくりと歩みを進めた。
表情は落ち着いている。
緊張はある。
だが、迷いはなかった。
玉座の前に立ち、
彼女は静かに膝を折る。
国王――
いや、前国王が、
短く頷いた。
「王国と民を守り、
公平と調和をもって
治める覚悟はあるか」
「ございます」
その声は、
よく通った。
「信仰を尊びながらも、
権力と混同せず、
国を分かつ火種としないと
誓えるか」
「誓います」
聖女の姿は、
この場にない。
それは、
意図的だった。
信仰は尊重する。
だが、
王権の中心には置かない。
その意思表示でもある。
冠が、
静かに捧げられる。
「ここに、
マリー・アウストラリスを
女王と認める」
その瞬間、
拍手は起こらなかった。
代わりに、
一斉の深い礼。
それこそが、
この即位のすべてだった。
---
同じ時刻。
アルファルド公爵邸。
シャウラ・アルファルドは、
いつもと変わらぬ時間を過ごしていた。
庭を眺めながら、
紅茶を一口。
「……今日は、
少し静かですわね」
「即位式でございますから」
侍女が答える。
「ああ……
そうでしたのね」
それだけだった。
政局が変わり、
国の形が変わっても、
彼女の日常は変わらない。
だが――
それを求めて、
人々はここに集う。
変わらない場所。
変わらない人。
それが、
どれほど貴重かを、
皆が理解していた。
---
王宮では、
即位後の最初の評議が行われていた。
女王マリーは、
玉座に腰掛けながら、
淡々と告げる。
「王太子は立てません」
ざわめきは、
起こらなかった。
「聖女との婚姻も、
考慮しません」
誰も反対しない。
「信仰は、
信仰の場に」
「政治は、
政治の場に」
その線引きは、
明確だった。
評議は、
驚くほど円滑に進んだ。
誰もが、
“この形なら壊れない”
と分かっていたからだ。
---
夕刻。
即位の報告を受け、
マリーは一通の手紙を書く。
宛名は、
アルファルド公爵邸。
内容は短い。
> 本日、
無事に即位いたしました。
変わらぬ場所があることに、
心より感謝いたします。
それだけで、
十分だった。
夜。
王都は、
何事もなかったかのように
眠りにつく。
王太子のいない国。
聖女に左右されない王権。
女王と、その友人。
派手な革命はない。
だが、
確かな安定が、
ここにあった。
この日、
王国は新しい時代へと
足を踏み出した。
音もなく、
静かに――
それが、
女王マリーの即位だった。
王都の朝は、
驚くほど穏やかだった。
鐘が鳴り、
人々はいつも通りに店を開き、
通りには日常のざわめきが流れている。
――今日は、即位の日。
だが、
誰も騒がない。
誰も叫ばない。
それが、この国の選んだ形だった。
王宮の大聖堂では、
簡素ながらも格式を重んじた準備が進められていた。
豪奢な装飾は控えめに、
過剰な演出もない。
「女王陛下は、
これよりご入場なさいます」
宣言の声が響く。
マリー・アウストラリスは、
深い青の正装に身を包み、
ゆっくりと歩みを進めた。
表情は落ち着いている。
緊張はある。
だが、迷いはなかった。
玉座の前に立ち、
彼女は静かに膝を折る。
国王――
いや、前国王が、
短く頷いた。
「王国と民を守り、
公平と調和をもって
治める覚悟はあるか」
「ございます」
その声は、
よく通った。
「信仰を尊びながらも、
権力と混同せず、
国を分かつ火種としないと
誓えるか」
「誓います」
聖女の姿は、
この場にない。
それは、
意図的だった。
信仰は尊重する。
だが、
王権の中心には置かない。
その意思表示でもある。
冠が、
静かに捧げられる。
「ここに、
マリー・アウストラリスを
女王と認める」
その瞬間、
拍手は起こらなかった。
代わりに、
一斉の深い礼。
それこそが、
この即位のすべてだった。
---
同じ時刻。
アルファルド公爵邸。
シャウラ・アルファルドは、
いつもと変わらぬ時間を過ごしていた。
庭を眺めながら、
紅茶を一口。
「……今日は、
少し静かですわね」
「即位式でございますから」
侍女が答える。
「ああ……
そうでしたのね」
それだけだった。
政局が変わり、
国の形が変わっても、
彼女の日常は変わらない。
だが――
それを求めて、
人々はここに集う。
変わらない場所。
変わらない人。
それが、
どれほど貴重かを、
皆が理解していた。
---
王宮では、
即位後の最初の評議が行われていた。
女王マリーは、
玉座に腰掛けながら、
淡々と告げる。
「王太子は立てません」
ざわめきは、
起こらなかった。
「聖女との婚姻も、
考慮しません」
誰も反対しない。
「信仰は、
信仰の場に」
「政治は、
政治の場に」
その線引きは、
明確だった。
評議は、
驚くほど円滑に進んだ。
誰もが、
“この形なら壊れない”
と分かっていたからだ。
---
夕刻。
即位の報告を受け、
マリーは一通の手紙を書く。
宛名は、
アルファルド公爵邸。
内容は短い。
> 本日、
無事に即位いたしました。
変わらぬ場所があることに、
心より感謝いたします。
それだけで、
十分だった。
夜。
王都は、
何事もなかったかのように
眠りにつく。
王太子のいない国。
聖女に左右されない王権。
女王と、その友人。
派手な革命はない。
だが、
確かな安定が、
ここにあった。
この日、
王国は新しい時代へと
足を踏み出した。
音もなく、
静かに――
それが、
女王マリーの即位だった。
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