婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

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第27話 波風が立たないという異常

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第27話 波風が立たないという異常

即位から三日。

王都は、
驚くほど平穏だった。

祝祭の喧噪も、
反対派の騒ぎもない。
あるのは、
いつもと変わらぬ朝と、
同じ速度で進む日常だけだ。

それが、
かえって人々を戸惑わせていた。

「……本当に、
 女王になったんだよな?」

市場で荷を下ろす商人が、
隣の男に小声で聞く。

「らしいな。
 でも、
 何も変わらない」

「税も、
 通行証も、
 昨日と同じだ」

二人は顔を見合わせ、
それ以上は何も言わなかった。

“何も変わらない”――
それは、
この国では最大の安心だった。


---

王宮では、
各国からの使節が
次々と到着していた。

女王マリー・アウストラリスは、
玉座に腰掛け、
一人一人に同じ言葉を告げる。

「これまで通り、
 条約は有効です」

「約束は、
 守られます」

それだけだ。

過度な主張も、
新体制の誇示もない。

それゆえに、
使節たちは困惑する。

(……隙が、
 ない)

強気でも、
弱気でもない。

ただ、
安定している。

それは、
外交において
最も崩しにくい形だった。


---

評議室。

宰相が、
報告書を閉じながら言った。

「反対運動は、
 確認されておりません」

「旧王太子派も、
 自然に解体しています」

「……自然に、ですか」

マリーは、
確認するように尋ねる。

「はい。
 誰かが潰したわけではなく、
 集まる理由が
 なくなっただけです」

「それで良いのですわ」

マリーは、
淡く頷いた。

「無理に締め付ければ、
 歪みが生まれます」

「理由がなければ、
 人は散ります」

その判断に、
誰も異を唱えなかった。


---

一方、
神殿では小さな変化が起きていた。

聖女ジャネットは、
これまでのように
政に呼ばれない。

それを、
誰も問題にしない。

「……最近、
 静かですね」

侍女が言うと、
ジャネットは穏やかに微笑んだ。

「それでいいのです」

「聖女は、
 国を動かす存在ではありません」

「癒し、
 祈り、
 それだけで十分」

その言葉に、
神官たちは
安堵の表情を浮かべる。

権力から
距離を置くことは、
信仰を弱めることではない。

むしろ――
守ることなのだと、
皆が理解し始めていた。


---

アルファルド公爵邸では、
今日も茶会が開かれていた。

「即位後なのに、
 本当に何も起きませんわね」

客人の一人が言う。

「そうですか?」

シャウラ・アルファルドは、
穏やかに返す。

「皆さまが、
 落ち着いているだけでは?」

その言葉に、
周囲が小さく笑った。

落ち着いている理由を、
誰も口にしない。

――ここが変わらないからだ。


---

夜。
マリーは、
執務室で一人、
報告書を読み終えた。

反乱なし。
経済の動揺なし。
外交摩擦なし。

(……静かすぎる)

だが、
その静けさこそが、
正解なのだと分かっている。

「シャウラ様」

小さく名前を呼び、
マリーは微笑んだ。

この国は、
大きな音を立てずに
舵を切った。

それが、
どれほど難しく、
どれほど価値のあることか。

今は、
まだ誰も
声高には語らない。

だが確実に、
王国は理解し始めていた。

――波風が立たないことこそ、
 最大の変革なのだ。
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