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第28話 残された者たちの行方
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第28話 残された者たちの行方
女王即位から、
さらに数日が過ぎた。
王都は相変わらず、
静かだった。
静かすぎて、
人々はようやく気づき始める。
――ああ、
本当に終わったのだ、と。
終わったのは、
政争だけではない。
「第一王子の時代」そのものだった。
---
王宮の一角。
かつてアセルス・アウストラリスの名を掲げて
集っていた者たちが、
最後の顔合わせをしていた。
といっても、
大仰な会合ではない。
三人。
多くても、五人。
誰も声を張り上げない。
怒りも、悲嘆もない。
あるのは、
所在なさだけだった。
「……もう、
呼び出しは来ないな」
一人がそう呟くと、
誰も否定しなかった。
「女王陛下は、
何もなさらない」
「だから、
何もできない」
その言葉は、
皮肉でも批判でもない。
ただの事実だった。
敵視されなければ、
戦う理由がない。
排除されなければ、
結束する理由もない。
「……潮時、か」
誰かがそう言い、
その場は自然に解散した。
それきり、
彼らが集まることはなかった。
---
一方、
リベルタス・アウストラリスは、
静かに新しい役目を受け入れていた。
「女王陛下は、
私を“王太子候補”とは
呼ばれません」
執務補佐としての席で、
彼は淡々と言う。
「代わりに、
“調整役”として
使ってくださっています」
側近が、
慎重に尋ねた。
「……不満は?」
リベルタスは、
少し考え、
首を振る。
「ありません」
「立場が明確ですから」
王太子候補という
曖昧な肩書きより、
今の方が
よほど動きやすい。
(……姉上らしい)
そう思い、
小さく笑う。
兄とは違う。
権力を餌にせず、
役割を与える。
それが、
この新しい王権の
やり方だった。
---
神殿では、
聖女ジャネットが
祈りを捧げていた。
以前のような
緊張はない。
視線を浴びることも、
期待を押し付けられることもない。
「……静かですね」
付き添いの神官が言う。
「ええ」
ジャネットは、
穏やかに微笑む。
「でも、
これで良いのです」
「聖女が
注目されすぎる国は、
健全とは言えません」
かつて、
自分が選ばれたときの
あの違和感。
――誰かの失策を
覆い隠すための
存在になりかけた感覚。
それが、
今はない。
「女王陛下には、
感謝しています」
そう呟き、
ジャネットは再び祈りに戻った。
---
アルファルド公爵邸。
シャウラ・アルファルドは、
相変わらず
お茶会の予定表を眺めていた。
「……今日は、
少なめですわね」
「皆さま、
少し落ち着かれたのかと」
侍女の言葉に、
シャウラは頷く。
「それは、
良いことですわ」
誰かが慌て、
誰かが焦り、
誰かがすがる――
そんな空気は、
もう必要ない。
ここに集っていた人々も、
それぞれの場所へ
戻っていった。
(……静かになりましたのね)
だが、
不安はなかった。
静けさは、
崩壊ではない。
整理された結果なのだと、
シャウラは
無意識のうちに理解していた。
---
夜。
女王マリーは、
一日の報告を読み終え、
ペンを置いた。
旧派閥の自然消滅。
リベルタスの安定した補佐。
神殿との健全な距離。
「……よく、
収まっています」
それは、
誇らしさではなく、
安堵だった。
「誰かを
切り捨てなくても、
国は進めるのですね」
ふと、
アルファルド公爵邸の方角を見る。
「シャウラ様……」
あの人は、
何もしていない。
だが、
“何もしていないからこそ”、
多くの者が
自分の居場所を
見つけ直せた。
この日、
王国はようやく理解した。
――追い出された者はいない。
――残された者が、
それぞれの道を
選び直しただけだ。
それができる国を、
人はこう呼ぶ。
安定している国、と。
女王即位から、
さらに数日が過ぎた。
王都は相変わらず、
静かだった。
静かすぎて、
人々はようやく気づき始める。
――ああ、
本当に終わったのだ、と。
終わったのは、
政争だけではない。
「第一王子の時代」そのものだった。
---
王宮の一角。
かつてアセルス・アウストラリスの名を掲げて
集っていた者たちが、
最後の顔合わせをしていた。
といっても、
大仰な会合ではない。
三人。
多くても、五人。
誰も声を張り上げない。
怒りも、悲嘆もない。
あるのは、
所在なさだけだった。
「……もう、
呼び出しは来ないな」
一人がそう呟くと、
誰も否定しなかった。
「女王陛下は、
何もなさらない」
「だから、
何もできない」
その言葉は、
皮肉でも批判でもない。
ただの事実だった。
敵視されなければ、
戦う理由がない。
排除されなければ、
結束する理由もない。
「……潮時、か」
誰かがそう言い、
その場は自然に解散した。
それきり、
彼らが集まることはなかった。
---
一方、
リベルタス・アウストラリスは、
静かに新しい役目を受け入れていた。
「女王陛下は、
私を“王太子候補”とは
呼ばれません」
執務補佐としての席で、
彼は淡々と言う。
「代わりに、
“調整役”として
使ってくださっています」
側近が、
慎重に尋ねた。
「……不満は?」
リベルタスは、
少し考え、
首を振る。
「ありません」
「立場が明確ですから」
王太子候補という
曖昧な肩書きより、
今の方が
よほど動きやすい。
(……姉上らしい)
そう思い、
小さく笑う。
兄とは違う。
権力を餌にせず、
役割を与える。
それが、
この新しい王権の
やり方だった。
---
神殿では、
聖女ジャネットが
祈りを捧げていた。
以前のような
緊張はない。
視線を浴びることも、
期待を押し付けられることもない。
「……静かですね」
付き添いの神官が言う。
「ええ」
ジャネットは、
穏やかに微笑む。
「でも、
これで良いのです」
「聖女が
注目されすぎる国は、
健全とは言えません」
かつて、
自分が選ばれたときの
あの違和感。
――誰かの失策を
覆い隠すための
存在になりかけた感覚。
それが、
今はない。
「女王陛下には、
感謝しています」
そう呟き、
ジャネットは再び祈りに戻った。
---
アルファルド公爵邸。
シャウラ・アルファルドは、
相変わらず
お茶会の予定表を眺めていた。
「……今日は、
少なめですわね」
「皆さま、
少し落ち着かれたのかと」
侍女の言葉に、
シャウラは頷く。
「それは、
良いことですわ」
誰かが慌て、
誰かが焦り、
誰かがすがる――
そんな空気は、
もう必要ない。
ここに集っていた人々も、
それぞれの場所へ
戻っていった。
(……静かになりましたのね)
だが、
不安はなかった。
静けさは、
崩壊ではない。
整理された結果なのだと、
シャウラは
無意識のうちに理解していた。
---
夜。
女王マリーは、
一日の報告を読み終え、
ペンを置いた。
旧派閥の自然消滅。
リベルタスの安定した補佐。
神殿との健全な距離。
「……よく、
収まっています」
それは、
誇らしさではなく、
安堵だった。
「誰かを
切り捨てなくても、
国は進めるのですね」
ふと、
アルファルド公爵邸の方角を見る。
「シャウラ様……」
あの人は、
何もしていない。
だが、
“何もしていないからこそ”、
多くの者が
自分の居場所を
見つけ直せた。
この日、
王国はようやく理解した。
――追い出された者はいない。
――残された者が、
それぞれの道を
選び直しただけだ。
それができる国を、
人はこう呼ぶ。
安定している国、と。
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