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第29話 噂という名の結末
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第29話 噂という名の結末
王都の裏通りにある酒場で、
男たちは声を潜めて話していた。
「……聞いたか?」
「第一王子のことだろ」
杯を置く音が、
やけに大きく響く。
「消えた、って話だったが……
どうやら、
本当に“消えた”らしい」
誰も、
名前を口にしない。
だが、
誰のことかは分かっている。
「国外だとか、
商会の船に乗せられたとか……」
「いや、
もっとひどい話もある」
男は、
声をさらに落とす。
「自分で契約書に
サインしたらしい」
「……は?」
「借金を返すために、
身柄を差し出した、と」
一瞬、
沈黙。
それから、
誰かが乾いた笑いを漏らした。
「冗談だろ」
「冗談なら、
良かったんだがな」
真偽は、
誰にも分からない。
だが――
噂は、
いつも真実よりも
早く、
遠くへ広がる。
---
王宮では、
その噂を
わざわざ否定する者はいなかった。
否定すれば、
存在を認めることになる。
だから、
誰も語らない。
「……放っておけ」
宰相は、
淡々と言った。
「王国に、
第一王子は
もう存在しない」
その一言で、
すべてが終わった。
---
神殿でも、
同じ噂が
小さく流れた。
聖女ジャネットは、
それを耳にしても、
顔色を変えなかった。
「……そうですか」
それだけ。
同情も、
後悔もない。
あの時、
はっきりと拒んだ。
それが、
すべてだった。
(選ばなかったのではない)
(選べなかったのだ)
心の中で、
そう結論づける。
---
アルファルド公爵邸。
シャウラ・アルファルドは、
庭の椅子に座り、
紅茶を飲んでいた。
「……最近、
静かですわね」
「噂話も、
減りましたから」
侍女の言葉に、
シャウラは
少しだけ考える。
「噂は、
静かになるものですの?」
「新しい話題が
出れば、
自然と」
「……そう」
それ以上、
興味を示さなかった。
彼女にとって、
第一王子は
“過去の予定”でしかない。
なくなった予定を、
いつまでも
思い返す必要はなかった。
---
夜。
女王マリーは、
報告書の隅に書かれた
一行に目を留めた。
> 旧第一王子に関する噂、
王都にて散発的に流布。
影響なし。
「……影響なし、ね」
静かに息を吐く。
誰も怒らず、
誰も悲しまず、
誰も追わない。
それが、
この国の答えだった。
「ざまぁ、
というより……」
マリーは、
独り言のように呟く。
「自分で降りた、
だけですわね」
そして、
書類を閉じた。
---
翌朝。
王都は、
いつも通りに目を覚ます。
第一王子の名を
覚えている者は、
まだいる。
だが、
語る者は
もうほとんどいない。
噂は、
やがて消える。
名前も、
肩書きも、
記録の片隅へ追いやられる。
この日、
物語としての
アセルス・アウストラリスは、
完全に終わった。
彼に
断罪の舞台は与えられない。
涙の謝罪も、
劇的な最期もない。
あるのは、
噂として薄れていく結末。
それこそが――
この国が選んだ、
最も冷静で、
最も残酷な
ざまぁだった。
王都の裏通りにある酒場で、
男たちは声を潜めて話していた。
「……聞いたか?」
「第一王子のことだろ」
杯を置く音が、
やけに大きく響く。
「消えた、って話だったが……
どうやら、
本当に“消えた”らしい」
誰も、
名前を口にしない。
だが、
誰のことかは分かっている。
「国外だとか、
商会の船に乗せられたとか……」
「いや、
もっとひどい話もある」
男は、
声をさらに落とす。
「自分で契約書に
サインしたらしい」
「……は?」
「借金を返すために、
身柄を差し出した、と」
一瞬、
沈黙。
それから、
誰かが乾いた笑いを漏らした。
「冗談だろ」
「冗談なら、
良かったんだがな」
真偽は、
誰にも分からない。
だが――
噂は、
いつも真実よりも
早く、
遠くへ広がる。
---
王宮では、
その噂を
わざわざ否定する者はいなかった。
否定すれば、
存在を認めることになる。
だから、
誰も語らない。
「……放っておけ」
宰相は、
淡々と言った。
「王国に、
第一王子は
もう存在しない」
その一言で、
すべてが終わった。
---
神殿でも、
同じ噂が
小さく流れた。
聖女ジャネットは、
それを耳にしても、
顔色を変えなかった。
「……そうですか」
それだけ。
同情も、
後悔もない。
あの時、
はっきりと拒んだ。
それが、
すべてだった。
(選ばなかったのではない)
(選べなかったのだ)
心の中で、
そう結論づける。
---
アルファルド公爵邸。
シャウラ・アルファルドは、
庭の椅子に座り、
紅茶を飲んでいた。
「……最近、
静かですわね」
「噂話も、
減りましたから」
侍女の言葉に、
シャウラは
少しだけ考える。
「噂は、
静かになるものですの?」
「新しい話題が
出れば、
自然と」
「……そう」
それ以上、
興味を示さなかった。
彼女にとって、
第一王子は
“過去の予定”でしかない。
なくなった予定を、
いつまでも
思い返す必要はなかった。
---
夜。
女王マリーは、
報告書の隅に書かれた
一行に目を留めた。
> 旧第一王子に関する噂、
王都にて散発的に流布。
影響なし。
「……影響なし、ね」
静かに息を吐く。
誰も怒らず、
誰も悲しまず、
誰も追わない。
それが、
この国の答えだった。
「ざまぁ、
というより……」
マリーは、
独り言のように呟く。
「自分で降りた、
だけですわね」
そして、
書類を閉じた。
---
翌朝。
王都は、
いつも通りに目を覚ます。
第一王子の名を
覚えている者は、
まだいる。
だが、
語る者は
もうほとんどいない。
噂は、
やがて消える。
名前も、
肩書きも、
記録の片隅へ追いやられる。
この日、
物語としての
アセルス・アウストラリスは、
完全に終わった。
彼に
断罪の舞台は与えられない。
涙の謝罪も、
劇的な最期もない。
あるのは、
噂として薄れていく結末。
それこそが――
この国が選んだ、
最も冷静で、
最も残酷な
ざまぁだった。
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