婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

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第30話 王妃にならなかった勝利

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第30話 王妃にならなかった勝利

女王即位から、
一月が過ぎた。

王都は、
すっかり“新しい日常”に
馴染んでいた。

税制は変わらず。
法も変わらず。
外交方針も、
昨日の延長線上にある。

それでも――
確かに、
何かが違っていた。


---

王宮の執務室で、
女王マリー・アウストラリスは
書類に目を通しながら、
小さく頷いた。

「……問題ありませんね」

「はい。
 各地からの報告も
 安定しております」

宰相の声には、
余計な緊張がなかった。

「王妃を立てないことについても、
 不満は?」

「ほとんどありません」

宰相は、
わずかに微笑む。

「“誰の妻になるか”より、
 “誰が国を動かすか”が
 はっきりした、と」

マリーは、
ペンを置いた。

「ええ。
 それでいいのです」

王妃という座は、
しばしば
政治の火種になる。

派閥の象徴となり、
血筋の道具となり、
時に
聖女と同じ役割を
押し付けられる。

それを、
最初から
置かなかった。

それだけで、
どれほどの争いを
未然に防いだか。


---

同じ頃。
アルファルド公爵邸では、
シャウラ・アルファルドが
いつも通りの午後を過ごしていた。

「……王妃を
 立てない、ですか?」

来客の侯爵夫人が、
少し驚いた様子で言う。

「ええ。
 女王陛下は
 そのおつもりのようですわ」

シャウラは、
紅茶を注ぎながら答える。

「……シャウラ様は、
 どう思われます?」

その問いに、
彼女は少しだけ考えた。

「とても、
 合理的だと思います」

「合理的?」

「ええ」

シャウラは、
穏やかに微笑む。

「誰かの人生を、
 “国の安定”のために
 縛らなくて済みますもの」

その言葉に、
夫人は息を呑んだ。

それは、
誰よりも
王妃に近かったはずの人物から
出た言葉だったからだ。


---

夕刻。
マリーは、
アルファルド公爵邸から届いた
短い返書を読んでいた。

> 変わらぬ日々を
過ごしております。

お忙しいことと思いますが、
お体を大切に。



それだけ。

助言も、
意見も、
忠告もない。

だが――
その“変わらなさ”が、
どれほど心強いかを、
マリーは知っていた。

(……勝ったのですね)

誰かを
踏み台にしてではない。
誰かの人生を
奪ってでもない。

「王妃にならなかった」
という選択で。

マリーは、
窓の外を見た。

王都は、
穏やかに息づいている。

(この国は、
 強い)

権力を
欲しがらない者が
中心にいる国。

それを支える女王。


---

夜。
シャウラは、
寝室で
今日一日を振り返る。

お茶会。
会話。
いつもの一日。

「……明日も、
 同じですわね」

それを、
心から良いと思えた。

王妃にならなかった。
政治に縛られなかった。
誰かの象徴にも
ならなかった。

それでも――
すべては
うまく回っている。

この日、
誰も声高に言わなかった。

だが、
物語としての結論は
すでに出ていた。

――最大の勝利者は、
 何も望まなかった者だった。

王妃にならなかったこと。
それこそが、
シャウラ・アルファルドの
完全な勝利だった。
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