婚約破棄したその場から、ざまぁは始まっていました

ふわふわ

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第31話 誰も追放されなかった国

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第31話 誰も追放されなかった国

女王マリーの治世が始まってから、
王国では一つの奇妙な事実が語られるようになっていた。

――追放された者が、ほとんどいない。

政変があれば、
誰かが罰せられ、
誰かが国境を越え、
誰かが牢に落ちる。

それが、この国の“常識”だった。

だが今回は違う。

第一王子は姿を消したが、
それは処罰でも追放でもなく、
自ら選んだ退場だった。

旧派閥の貴族たちは、
爵位を奪われることもなく、
財産を没収されることもない。

彼らはただ――
静かに、政治の中心から外れただけだ。

「……奇妙なものですな」

地方領主の一人が、
評議の後でそう呟いた。

「反乱も、
 粛清も、
 見せしめもない」

「それでいて、
 国は安定している」

隣にいた官僚が、
淡々と答える。

「“罰する理由”が
 なかったからでしょう」

「女王陛下は、
 敵を必要としていない」

その言葉は、
静かに広がっていった。


---

王宮の執務室。

マリーは、
地方からの報告書を読み終え、
ペンを置いた。

旧王太子派の動向――
影響なし。

神殿との関係――
良好。

商業組合――
活発。

どれも、
予想通りだった。

「……粛清をしないと、
 不安に思う者も
 いるでしょうか」

宰相が、
慎重に尋ねる。

「ええ」

マリーは、
否定しなかった。

「でも、それは
 “誰かが落ちること”に
 慣れすぎているだけです」

「落とさなければ
 保てない秩序なら、
 いずれ壊れます」

その考えに、
反論は出なかった。


---

アルファルド公爵邸。

シャウラ・アルファルドは、
庭で育てている花を眺めていた。

「……最近、
 随分と穏やかですわね」

「ええ。
 お客様も、
 必要以上に
 緊張されなくなりました」

侍女の言葉に、
シャウラは頷く。

「良いことですわ」

彼女の周囲から、
“探り”が消えていた。

誰が勝ったのか。
誰に付くべきか。

そうした空気が、
自然に薄れていく。

(……安心できるのは、
 良いことです)

シャウラは、
それ以上深く考えない。

だが――
彼女のその姿勢こそが、
国全体に伝播していることを、
本人だけが知らなかった。


---

酒場では、
別の話題が増えていた。

新しい道路。
物流の改善。
交易量の増加。

「政治の話、
 最近つまらなくなったな」

「いい意味で、な」

誰かが笑う。

「誰が落ちたとか、
 誰が失脚したとか……
 そういう話がない」

「それで、
 困るか?」

「……困らんな」

それが、
この国の答えだった。


---

夜。
マリーは、
ふと窓の外を見つめた。

王都の灯りは、
変わらず、
穏やかに瞬いている。

(……誰も、
 追放しなかった)

(それでも、
 国は前に進んでいる)

その事実に、
小さな誇りを覚える。

「シャウラ様の国、
 ですわね」

独り言のように呟く。

直接、
彼女が統治しているわけではない。

だが、
“排除しない空気”を
国全体に広げたのは、
間違いなく
アルファルド公爵令嬢だった。

この日、
人々はまだ
はっきりとは言葉にしない。

だが、
確かな実感が芽生えていた。

――この国は、
 誰かを犠牲にしなくても
 回る国なのだ。

それは、
過去のどの王も
成し得なかった
静かな革命だった。
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