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第32話 女王の国のかたち
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第32話 女王の国のかたち
王都に、
小さな変化が積み重なり始めていた。
派手な改革ではない。
新しい法が公布されたわけでも、
税が大きく変わったわけでもない。
だが――
確かに、空気が違う。
---
王宮の評議室。
女王マリー・アウストラリスは、
長机の先に座り、
各地から集まった報告を
静かに聞いていた。
「南部街道の整備が進み、
物流が一割ほど改善しております」
「北の鉱山都市では、
商会主導で
雇用が増えました」
「地方領主からの要望も、
以前より具体的になっています」
どの報告にも、
共通点があった。
――“不満”ではなく、
“提案”であること。
「……なるほど」
マリーは、
ゆっくりと頷く。
「皆、
この国が
急に変わらないと
理解しているのですね」
宰相が、
静かに答えた。
「はい。
だからこそ、
安心して
先の話ができるのです」
安心。
それは、
数字には現れにくいが、
国にとって
最も重要な要素だった。
---
評議の後、
マリーは一人、
書庫へ足を運んだ。
王家の歴史書が並ぶ棚。
そこには、
過去の王たちの記録が
静かに眠っている。
改革王。
征服王。
粛清王。
多くは、
“何かを壊した者”として
名を残していた。
(……わたくしは、
何者として
記されるのでしょう)
ふと、
そんな疑問が浮かぶ。
だが、
すぐに答えを探すのを
やめた。
記録は、
後からついてくるものだ。
---
アルファルド公爵邸。
シャウラ・アルファルドは、
いつもより静かな午後を
過ごしていた。
来客は少ない。
だが、
それを寂しいとは感じない。
「……皆さま、
それぞれの場所に
戻られたのですね」
侍女の言葉に、
シャウラは頷く。
「良いことですわ」
ここに集う必要が
なくなったのなら、
それは、
不安が消えた証拠だ。
彼女は、
本を閉じ、
窓の外を見る。
(……何も起きていない)
それが、
どれほど尊いかを、
無意識に理解していた。
---
数日後。
地方都市の役人が、
王宮を訪れた。
「女王陛下」
「はい」
「……前の政権でしたら、
この要望は
却下されていたと思います」
「ですが、
今回は
“検討する”と
言っていただけた」
マリーは、
穏やかに答える。
「検討とは、
約束ではありません」
「ですが、
聞く価値は
あるでしょう?」
役人は、
深く頭を下げた。
それだけで、
十分だった。
---
夜。
マリーは、
一日の終わりに
日誌をつけていた。
「……国を動かしているのは、
命令ではない」
「安心と、
予測可能性」
そう書き留め、
ペンを置く。
(シャウラ様が
守ってくださったものですわね)
直接、
口にしたことはない。
だが、
自分が立っている
この場所は、
あの人の“変わらなさ”の
上にある。
---
同じ夜。
シャウラは、
明日の予定を確認しながら、
小さく微笑んだ。
「……特別なことは、
何もありませんわね」
それを、
心から
良いことだと思えた。
この日、
誰も声高には言わない。
だが、
王国の内側で
静かに共有され始めていた。
――女王の国とは、
“安心して
明日を考えられる国”
なのだと。
それが、
マリー・アウストラリスの
治める国のかたちだった。
王都に、
小さな変化が積み重なり始めていた。
派手な改革ではない。
新しい法が公布されたわけでも、
税が大きく変わったわけでもない。
だが――
確かに、空気が違う。
---
王宮の評議室。
女王マリー・アウストラリスは、
長机の先に座り、
各地から集まった報告を
静かに聞いていた。
「南部街道の整備が進み、
物流が一割ほど改善しております」
「北の鉱山都市では、
商会主導で
雇用が増えました」
「地方領主からの要望も、
以前より具体的になっています」
どの報告にも、
共通点があった。
――“不満”ではなく、
“提案”であること。
「……なるほど」
マリーは、
ゆっくりと頷く。
「皆、
この国が
急に変わらないと
理解しているのですね」
宰相が、
静かに答えた。
「はい。
だからこそ、
安心して
先の話ができるのです」
安心。
それは、
数字には現れにくいが、
国にとって
最も重要な要素だった。
---
評議の後、
マリーは一人、
書庫へ足を運んだ。
王家の歴史書が並ぶ棚。
そこには、
過去の王たちの記録が
静かに眠っている。
改革王。
征服王。
粛清王。
多くは、
“何かを壊した者”として
名を残していた。
(……わたくしは、
何者として
記されるのでしょう)
ふと、
そんな疑問が浮かぶ。
だが、
すぐに答えを探すのを
やめた。
記録は、
後からついてくるものだ。
---
アルファルド公爵邸。
シャウラ・アルファルドは、
いつもより静かな午後を
過ごしていた。
来客は少ない。
だが、
それを寂しいとは感じない。
「……皆さま、
それぞれの場所に
戻られたのですね」
侍女の言葉に、
シャウラは頷く。
「良いことですわ」
ここに集う必要が
なくなったのなら、
それは、
不安が消えた証拠だ。
彼女は、
本を閉じ、
窓の外を見る。
(……何も起きていない)
それが、
どれほど尊いかを、
無意識に理解していた。
---
数日後。
地方都市の役人が、
王宮を訪れた。
「女王陛下」
「はい」
「……前の政権でしたら、
この要望は
却下されていたと思います」
「ですが、
今回は
“検討する”と
言っていただけた」
マリーは、
穏やかに答える。
「検討とは、
約束ではありません」
「ですが、
聞く価値は
あるでしょう?」
役人は、
深く頭を下げた。
それだけで、
十分だった。
---
夜。
マリーは、
一日の終わりに
日誌をつけていた。
「……国を動かしているのは、
命令ではない」
「安心と、
予測可能性」
そう書き留め、
ペンを置く。
(シャウラ様が
守ってくださったものですわね)
直接、
口にしたことはない。
だが、
自分が立っている
この場所は、
あの人の“変わらなさ”の
上にある。
---
同じ夜。
シャウラは、
明日の予定を確認しながら、
小さく微笑んだ。
「……特別なことは、
何もありませんわね」
それを、
心から
良いことだと思えた。
この日、
誰も声高には言わない。
だが、
王国の内側で
静かに共有され始めていた。
――女王の国とは、
“安心して
明日を考えられる国”
なのだと。
それが、
マリー・アウストラリスの
治める国のかたちだった。
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