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第25話 即位前夜
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第25話 即位前夜
王宮の回廊に、
夜の静けさが満ちていた。
灯されたランプの光が、
磨き上げられた床に
淡く映る。
その中心を、
マリー・アウストラリスは
一人で歩いていた。
護衛はいる。
だが、
あえて距離を取らせている。
(……不思議なものですわね)
女王即位の準備は、
驚くほど滞りなく進んでいる。
反対は出ない。
反乱の兆しもない。
混乱すら、
ほとんど見られない。
それが、
何よりも雄弁だった。
「本当に……
時代が、
変わろうとしているのですね」
小さく呟き、
足を止める。
窓の向こうには、
王都の灯り。
民は、
何も知らない。
だが――
何も起きていないからこそ、
明日を迎えられる。
それでいい。
マリーは、
一つ深呼吸をしてから、
方向を変えた。
向かう先は、
アルファルド公爵邸。
この夜、
どうしても会っておきたい
相手がいた。
---
サロンには、
いつもと変わらぬ
紅茶の香りがあった。
「……まあ」
シャウラ・アルファルドは、
突然の来訪に
少しだけ目を丸くする。
「マリー様。
こんな時間に
どうなさいました?」
「少し、
お話ししたくて」
マリーは、
向かいの席に腰を下ろす。
「お忙しいところ、
申し訳ありません」
「いいえ?」
シャウラは、
穏やかに微笑む。
「今日は、
予定もありませんし」
それが、
今の彼女の“通常運転”だった。
マリーは、
紅茶に口をつけてから、
静かに言った。
「……明日、
わたくしは
即位いたします」
シャウラは、
一瞬だけ瞬きをした。
それから、
ごく自然に頷く。
「そうでしたの」
驚きも、
動揺もない。
その反応に、
マリーは
思わず笑ってしまった。
「普通は、
もう少し
反応があるものですわ」
「そうでしょうか?」
シャウラは、
首を傾げる。
「決まったことなら、
そうなるのでしょう?」
「……ええ」
マリーは、
小さく息を吐く。
「決まりました。
静かに。
誰も、
逆らわずに」
「それは、
良いことですわ」
シャウラは、
心からそう思っているようだった。
「混乱は、
少ない方が
皆さま、
安心できますもの」
マリーは、
しばらく沈黙したあと、
真剣な声で言った。
「シャウラ様」
「はい」
「わたくしは、
あなたに
何も求めません」
「王妃になってほしいとも、
政治に関わってほしいとも、
一切思っていません」
「……それで?」
シャウラは、
穏やかに続きを促す。
「ただ」
マリーは、
真っ直ぐに彼女を見る。
「これまで通り、
ここにいてください」
「それだけで、
この国は
揺らぎません」
シャウラは、
少しだけ考え――
それから微笑んだ。
「……それなら、
簡単ですわ」
「わたくし、
どこにも
行く予定は
ありませんもの」
その答えに、
マリーは
深く安堵した。
「ありがとうございます」
「女王陛下」
そう呼びかけると、
シャウラは
くすりと笑う。
「まだ、
少し早いですわ」
「明日になれば、
そう呼ばれるのでしょう?」
「……ええ」
二人は、
しばらく言葉を交わさず、
紅茶を飲み続けた。
夜は、
静かに更けていく。
王太子のいない国。
聖女に振り回されない王権。
そして――
女王と、その友人。
この夜、
派手な出来事は
何一つ起きなかった。
だが、
確実に一つの時代が
終わりを告げ、
新しい時代が
息をひそめて待っている。
明日、
王国は――
女王を戴く国となる。
王宮の回廊に、
夜の静けさが満ちていた。
灯されたランプの光が、
磨き上げられた床に
淡く映る。
その中心を、
マリー・アウストラリスは
一人で歩いていた。
護衛はいる。
だが、
あえて距離を取らせている。
(……不思議なものですわね)
女王即位の準備は、
驚くほど滞りなく進んでいる。
反対は出ない。
反乱の兆しもない。
混乱すら、
ほとんど見られない。
それが、
何よりも雄弁だった。
「本当に……
時代が、
変わろうとしているのですね」
小さく呟き、
足を止める。
窓の向こうには、
王都の灯り。
民は、
何も知らない。
だが――
何も起きていないからこそ、
明日を迎えられる。
それでいい。
マリーは、
一つ深呼吸をしてから、
方向を変えた。
向かう先は、
アルファルド公爵邸。
この夜、
どうしても会っておきたい
相手がいた。
---
サロンには、
いつもと変わらぬ
紅茶の香りがあった。
「……まあ」
シャウラ・アルファルドは、
突然の来訪に
少しだけ目を丸くする。
「マリー様。
こんな時間に
どうなさいました?」
「少し、
お話ししたくて」
マリーは、
向かいの席に腰を下ろす。
「お忙しいところ、
申し訳ありません」
「いいえ?」
シャウラは、
穏やかに微笑む。
「今日は、
予定もありませんし」
それが、
今の彼女の“通常運転”だった。
マリーは、
紅茶に口をつけてから、
静かに言った。
「……明日、
わたくしは
即位いたします」
シャウラは、
一瞬だけ瞬きをした。
それから、
ごく自然に頷く。
「そうでしたの」
驚きも、
動揺もない。
その反応に、
マリーは
思わず笑ってしまった。
「普通は、
もう少し
反応があるものですわ」
「そうでしょうか?」
シャウラは、
首を傾げる。
「決まったことなら、
そうなるのでしょう?」
「……ええ」
マリーは、
小さく息を吐く。
「決まりました。
静かに。
誰も、
逆らわずに」
「それは、
良いことですわ」
シャウラは、
心からそう思っているようだった。
「混乱は、
少ない方が
皆さま、
安心できますもの」
マリーは、
しばらく沈黙したあと、
真剣な声で言った。
「シャウラ様」
「はい」
「わたくしは、
あなたに
何も求めません」
「王妃になってほしいとも、
政治に関わってほしいとも、
一切思っていません」
「……それで?」
シャウラは、
穏やかに続きを促す。
「ただ」
マリーは、
真っ直ぐに彼女を見る。
「これまで通り、
ここにいてください」
「それだけで、
この国は
揺らぎません」
シャウラは、
少しだけ考え――
それから微笑んだ。
「……それなら、
簡単ですわ」
「わたくし、
どこにも
行く予定は
ありませんもの」
その答えに、
マリーは
深く安堵した。
「ありがとうございます」
「女王陛下」
そう呼びかけると、
シャウラは
くすりと笑う。
「まだ、
少し早いですわ」
「明日になれば、
そう呼ばれるのでしょう?」
「……ええ」
二人は、
しばらく言葉を交わさず、
紅茶を飲み続けた。
夜は、
静かに更けていく。
王太子のいない国。
聖女に振り回されない王権。
そして――
女王と、その友人。
この夜、
派手な出来事は
何一つ起きなかった。
だが、
確実に一つの時代が
終わりを告げ、
新しい時代が
息をひそめて待っている。
明日、
王国は――
女王を戴く国となる。
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