婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ

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14話 揺れる秤

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14話 揺れる秤

 王宮では、目に見えない秤が揺れていた。
 それは金貨の重さでも、爵位の序列でもない。判断と責任――その二つを、誰がどれだけ引き受けるのかという秤だ。

 フォーマルハウト領の調査報告が回覧されて以降、会合の数は明らかに増えた。だが結論は、なかなか出ない。机の上には整えられた資料が積み上がり、どれもが正しく、どれもが安全だった。安全であるがゆえに、前へ進まない。

「権限を集中させれば、速度は上がる」 「だが、失敗した際の反発が大きい」 「今までは、どうして回っていた?」

 その問いが投げられるたび、室内に微妙な沈黙が落ちる。
 答えは全員が知っている。だが、口にすれば“誰に依存していたか”を認めることになる。

 レオンハルトは、発言せずに聞いていた。
 派閥の論理、保身の言葉、慎重論――どれも理解できる。だが理解できることと、選べることは違う。

(選ばなければ、何も動かない)

 会合を切り上げ、執務室に戻ると、彼はフォーマルハウト領の数字を改めて開いた。余白の少ない表。判断の根拠が現場にあり、言い訳の余地がない構成。

「……潔い、か」

 思わず零れた言葉に、彼は苦く笑った。
 潔さは、逃げ道を断つ。だからこそ、人は恐れる。

 一方、フォーマルハウト領。
 私は早朝から市場を巡回していた。露店の配置が変わり、人の流れが自然に整っている。

「通路を少し広げただけで、随分楽になりました」

「ええ。人は、流れやすい方へ動きますから」

 短い会話。だが、現場はそれで十分だった。

 昼、執事が慎重に切り出す。

「王都から、また非公式の使者が来ております。“権限整理”について、意見を伺いたいと」

 私は立ち止まり、少し考えた末、首を横に振った。

「今は不要です。整理は、向こうが決めること」

 助言は、選択の責任を薄める。
 私は、もうその役目を引き受けない。

 王宮では、その日の夕刻、小さな決定がなされた。
 試験的に一部局で権限を一本化し、期限と評価を設ける。慎重で、逃げ道の多い一歩。それでも、動いたこと自体が変化だった。

 レオンハルトは文書に目を通し、署名する。
 秤の針が、わずかに片側へ傾く。

(……足りない)

 彼は理解していた。これは模倣に過ぎない。
 本質は、最終的に誰が責任を引き受けるかだ。

 同じ夜。
 私は書斎で日誌を閉じ、灯りを落とした。王都の動きは噂として届くだろうが、追わない。

 秤が揺れるのは、選択が近い証だ。
 どちらに傾くかは、向こう次第。

 窓の外、星は静かに瞬いている。

 ――秤は、最後に真実を示す。
 その時、私はここにいる。
 戻らず、逃げず、選び続けるために。


---

次は 15話・16話も同様に2000字級へ増量改稿しますか?
それとも **14~20話を一括で“密度調整(心理・政治描写厚め)”**に入れます?
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