婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ

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13話 持ち帰られた現実

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13話 持ち帰られた現実

 調査団が去った翌朝、フォーマルハウト領はいつも通りに動いていた。
 市場は開き、倉庫は静かに回り、工事現場では職人たちが段取り良く手を動かす。特別な緊張も、余韻もない。私は書斎で前日の記録を整理し、必要な指示を簡潔に書き付けた。

「……これで十分」

 判断は終わっている。あとは実行だけだ。

 一方、王都へ戻る道中。
 調査団の馬車の中は、重たい沈黙に包まれていた。帳簿の写し、現場の記録、領民の証言――どれもが、言い訳を許さない現実だった。

「報告書は……どうまとめる?」

 若い書記が声を潜める。

「事実を並べるしかない」
 年嵩の官僚が短く答えた。「評価を足せば、私情が混じる」

 彼らは知っていた。
 フォーマルハウト領の仕組みは、奇抜でも革新的でもない。ただ、決める人が決め、責任を引き受ける。それだけだ。
 それができない理由を、王宮は長く積み上げてきただけ。

 王宮に戻ると、報告は即座に回覧された。
 数字は整い、進捗は安定し、遅延はない。問題点の欄には、簡潔な一文が並ぶ。

「当主の即断即決に依存」
「権限と責任が一致」
「調整工程の省略により、速度が確保」

 レオンハルトは、黙って読み進めた。
 否定する言葉は浮かばない。賞賛する言葉も、喉で止まる。

(……依存、か)

 その言葉が、胸に刺さった。
 かつて自分は、無自覚に依存していた。判断の影響を誰かが先に測り、角を丸め、摩擦を消していた。その“誰か”の名を、彼はようやく正確に思い出す。

 タリタ・フォーマルハウト。

 午後、急遽開かれた会合で、報告書が机に置かれた。
 派閥の代表たちは互いに視線を交わし、慎重に言葉を選ぶ。

「……参考になる点は多い」 「だが、王宮でそのままは難しい」 「権限の再整理が必要だ」

 議論は進む。だが、いつもより具体的だった。
 抽象論が減り、現実に即した話が増える。それは、持ち帰られた“現実”が、言い逃れを許さないからだ。

 夜。
 フォーマルハウト領の屋敷で、私は執事から簡潔な報告を受けた。

「王都では、報告が回り始めたようです」

「そう」

 それ以上、聞く必要はなかった。
 私は机に向かい、翌週の予定を整える。

 現実は、誰かが語らずとも歩く。
 持ち帰られた現実が、王宮でどんな波を立てるのかは分からない。だが、引き返せない地点を越えたことだけは、はっきりしていた。

 私は灯りを落とし、窓の外を見る。
 星は変わらず、静かに瞬いている。

 ――現実は、いつも遅れて追いつく。
 その時、選ぶのは向こうだ。
 私は、ここで、やるべきことをやるだけ。
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