婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ

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15話 試される覚悟

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15話 試される覚悟

 王宮に広がった“試行”は、想像以上に重かった。
 権限を一本化し、判断の速度を上げる――それ自体は成功している。数字は改善し、滞りは減り、決裁は早まった。だが、その成果と引き換えに、これまで見えなかったものが、はっきりと姿を現し始めていた。

「この判断で損失が出た場合、責任はどこに?」

 会合で投げられたその問いに、部局長は一瞬だけ言葉に詰まった。

「……私が引き受けます」

 その答えに、室内の空気が張りつめる。
 責任を“誰かが引き受ける”という行為が、久しくなかったからだ。

 これまでは、失敗の芽が表に出る前に、誰かが整えていた。
 判断の角を削り、反発を抑え、責任の輪郭を曖昧にする――その役目が、当たり前のように存在していた。

 今は、いない。

 レオンハルトは、沈黙の中でその様子を見ていた。
 速度が上がった分、決断の重さがそのまま残る。
 そして、その重さに耐えきれない者の表情が、次々に露わになる。

(……覚悟が、問われている)

 誰に、ではない。
 組織全体に、だ。

 会合後、側近が慎重に切り出した。

「殿下、成果は出ています。ただ……反発も強まっています」

「分かっている」

「責任を引き受けることを、皆が恐れています」

 レオンハルトは机に視線を落とした。
 恐れがあるのは当然だ。失敗すれば、立場も信用も失う。
 だが――

(彼女は、最初からそれを引き受けていた)

 タリタ・フォーマルハウト。
 名を出さず、前に出ず、それでも判断し続け、結果を背負ってきた。

 静かだったのは、弱かったからではない。
 騒ぐ必要がなかっただけだ。

 一方、フォーマルハウト領。
 私は工事現場を巡り、進捗を確認していた。職人たちの動きは安定しており、計画に無理はない。

「前倒しも可能ですが……」

「急がなくていいです。続けられる速度で」

 その一言で、現場は落ち着く。
 速さより、継続。
 それが、私の基準だった。

 屋敷に戻ると、執事が一通の書簡を差し出した。
 差出人は王宮の部局長。丁寧だが、切実な文面だ。

『権限整理の試行は成果を上げています。しかし、反発も大きい。あなたなら、この状況で何を優先しますか』

 私は最後まで読み、静かに紙を置いた。
 答えは、言葉では伝わらない。

(優先するのは、続くこと)

 判断が一時的に正しくても、続かなければ意味がない。
 そのために、責任を引き受ける覚悟が要る。

 夜、王宮では追加の報告が上がる。
 試行部局は成果を維持。だが、別の部局では慎重論が強まり、足踏みが始まっていた。

「殿下、期限を延ばすべきかと」

「延ばす」

「反発は――」

「承知の上だ」

 レオンハルトは署名した。
 それは逃げではない。覚悟を試すための延長だ。

 同じ夜。
 私は日誌を閉じ、窓の外を見た。領地の灯りは揺らがない。

 覚悟は、誰かに示すものではない。
 明日も同じ選択をできるか――それだけだ。

 王宮がどこまで進めるかは、分からない。
 だが一つ、確かなことがある。

 試されているのは、制度ではない。
 人の、覚悟そのものだ。

 そして私は、
 その試練から――
 もう、一歩外に立っていた。
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