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16話 交差する視線
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16話 交差する視線
王宮の回廊では、視線が交差し始めていた。
それは偶然ではない。試行部局の成果が数字となって現れ、権限整理の延長が公然と語られるようになった結果、誰もが“誰を見るべきか”を意識し始めたからだ。
「判断が早いのは、確かだ」 「だが、失敗した場合の責任は?」 「……殿下が引き受ける、と」
小声のやり取りが、壁を伝って広がる。
視線の先に立つのは、王太子レオンハルト。彼は気づいていた。評価の矛先が、いずれ自分に向かうことを。
(選ぶか、退くか)
選ばなければ、秤は止まらない。
だが選べば、誰かを敵に回す。
中庸に逃げる余地は、もう残っていなかった。
臨時の評議が開かれた。
議題は一つ。「責任の最終所在」。
「段階的に進めるべきです。反発を抑えながら」 「だが、段階はいつ終わる?」 「期限を切れば、反発が――」
言葉は尽きない。
だが、どれもが“決めないための理由”に聞こえた。
レオンハルトは立ち上がった。
室内の空気が、一段と張りつめる。
「段階的に進める。だが、最終判断は私が引き受ける」
ざわめきが走る。
彼は続けた。
「成果は部局の功だ。失敗は、私の責任とする」
言葉は短い。
だが、そこに逃げ道はなかった。
沈黙の後、誰かが口を開く。
「……殿下、それは危険です」 「承知している」
それだけで、議は終わった。
秤の針が、明確に傾いた瞬間だった。
一方、フォーマルハウト領。
私は朝の会合を終え、役人たちに短く指示を出していた。議題は三つ。期限、予算、責任。どれも具体的で、曖昧さは残さない。
「遅延が出た場合は?」
「私が判断します。報告はその後で」
誰も異議を唱えない。
基準が共有されているからだ。
会合後、執事が封書を差し出した。
封蝋は王宮。差出人は、王太子の側近。
『殿下は、最終判断を引き受けると宣言されました。混乱は避けられません。備えを』
私は目を通し、静かに畳んだ。
(備えは、いつもしている)
それは迎撃の備えではない。
日常を崩さないための備えだ。
午後、私は市場を歩いた。
商人たちの声、値の交渉、笑い声。生活は回っている。
「最近は、判断が早くて助かります」 「待たされないのが、一番です」
私は頷くだけで、余計な言葉は添えない。
評価は、結果が語る。
同じ時刻、王宮では反発が表に出始めていた。
新しい決定に従わない取引先、異議を唱える派閥、匿名の批判文書。
「殿下、批判が増えています」 「把握している」
レオンハルトは机に指を組む。
恐れはある。だが、退く理由にはならない。
(彼女は、これを一人で引き受けていた)
タリタ・フォーマルハウト。
名を出さず、称賛を求めず、それでも判断し続けた存在。
夜。
フォーマルハウト領の屋敷で、私は灯りを落とし、日誌を閉じた。王宮の動きは噂として届くだろうが、追わない。
交差する視線は、いずれ交わる。
だが、その時、私は同じ場所に立っている必要はない。
窓の外、星が瞬く。
――選択は、孤独だ。
だが孤独は、責任と並び立つ。
王宮がどこまで進むのか。
私は結果だけを見届ければいい。
交差した視線は、やがて道を分ける。
私は、私の道を歩き続ける。
王宮の回廊では、視線が交差し始めていた。
それは偶然ではない。試行部局の成果が数字となって現れ、権限整理の延長が公然と語られるようになった結果、誰もが“誰を見るべきか”を意識し始めたからだ。
「判断が早いのは、確かだ」 「だが、失敗した場合の責任は?」 「……殿下が引き受ける、と」
小声のやり取りが、壁を伝って広がる。
視線の先に立つのは、王太子レオンハルト。彼は気づいていた。評価の矛先が、いずれ自分に向かうことを。
(選ぶか、退くか)
選ばなければ、秤は止まらない。
だが選べば、誰かを敵に回す。
中庸に逃げる余地は、もう残っていなかった。
臨時の評議が開かれた。
議題は一つ。「責任の最終所在」。
「段階的に進めるべきです。反発を抑えながら」 「だが、段階はいつ終わる?」 「期限を切れば、反発が――」
言葉は尽きない。
だが、どれもが“決めないための理由”に聞こえた。
レオンハルトは立ち上がった。
室内の空気が、一段と張りつめる。
「段階的に進める。だが、最終判断は私が引き受ける」
ざわめきが走る。
彼は続けた。
「成果は部局の功だ。失敗は、私の責任とする」
言葉は短い。
だが、そこに逃げ道はなかった。
沈黙の後、誰かが口を開く。
「……殿下、それは危険です」 「承知している」
それだけで、議は終わった。
秤の針が、明確に傾いた瞬間だった。
一方、フォーマルハウト領。
私は朝の会合を終え、役人たちに短く指示を出していた。議題は三つ。期限、予算、責任。どれも具体的で、曖昧さは残さない。
「遅延が出た場合は?」
「私が判断します。報告はその後で」
誰も異議を唱えない。
基準が共有されているからだ。
会合後、執事が封書を差し出した。
封蝋は王宮。差出人は、王太子の側近。
『殿下は、最終判断を引き受けると宣言されました。混乱は避けられません。備えを』
私は目を通し、静かに畳んだ。
(備えは、いつもしている)
それは迎撃の備えではない。
日常を崩さないための備えだ。
午後、私は市場を歩いた。
商人たちの声、値の交渉、笑い声。生活は回っている。
「最近は、判断が早くて助かります」 「待たされないのが、一番です」
私は頷くだけで、余計な言葉は添えない。
評価は、結果が語る。
同じ時刻、王宮では反発が表に出始めていた。
新しい決定に従わない取引先、異議を唱える派閥、匿名の批判文書。
「殿下、批判が増えています」 「把握している」
レオンハルトは机に指を組む。
恐れはある。だが、退く理由にはならない。
(彼女は、これを一人で引き受けていた)
タリタ・フォーマルハウト。
名を出さず、称賛を求めず、それでも判断し続けた存在。
夜。
フォーマルハウト領の屋敷で、私は灯りを落とし、日誌を閉じた。王宮の動きは噂として届くだろうが、追わない。
交差する視線は、いずれ交わる。
だが、その時、私は同じ場所に立っている必要はない。
窓の外、星が瞬く。
――選択は、孤独だ。
だが孤独は、責任と並び立つ。
王宮がどこまで進むのか。
私は結果だけを見届ければいい。
交差した視線は、やがて道を分ける。
私は、私の道を歩き続ける。
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