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34話 残るもの
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34話 残るもの
決別が終わった後に残るのは、人ではない。
怒りでも、悔恨でも、勝利でもない。
――何が、当たり前として残ったか。それだけだ。
王宮では、旧制度の名が完全に消えつつあった。
誰かが意図して口を閉ざしたわけではない。
必要とされなくなった。それだけのことだった。
「殿下、次期計画の確認を」
差し出された資料には、過去への注釈がほとんどない。
比較表も、旧来の参考欄も削られている。
「問題は?」
「ありません。前提条件はすべて現行基準で統一されています」
「なら、進めろ」
即答だった。
説明は不要。迷いもない。
昼の会合では、人事や制度の話題が淡々と流れていく。
誰が去ったか、どの派閥が弱まったか――
そんな話は、もはや意味を持たなかった。
「判断基準の文言、現場で完全に定着しています」 「問い合わせも、以前の三分の一以下です」
「良い傾向だ」
制度は、人に依存しなくなった瞬間、初めて制度になる。
それを誰もが理解し始めていた。
会議が終わった後、若い官僚がぽつりと呟く。
「……最近、“誰が決めたか”を気にしなくなりました」
「そうだな」
レオンハルトは頷く。
「“何に基づいて決めたか”だけでいい」
それが残ったものだ。
一方、フォーマルハウト領。
私は倉庫街を巡回し、空いた一角で足を止めた。
かつて長年取引のあった商家が使っていた場所だ。
「すぐに新しい業者を入れますか?」
執事の問いに、私は首を横に振る。
「必要になったら、です」
「空けたままで?」
「はい。急いで埋める理由がありません」
欠けたからといって、即座に補う必要はない。
それは不安からの行動でしかない。
午後、集会所で役人たちと確認を行う。
「最近、判断が早くなっています」 「迷う理由が減りましたから」
「何が減ったのです?」
「前例です」
その答えに、私は小さく頷いた。
「前例は便利ですが、判断の代わりにはなりません」
残ったのは、慣習ではない。
判断の軸だ。
同じ頃、王宮では一つの象徴的な変更が行われていた。
新人研修用の資料から、旧制度の詳細説明が削除されたのだ。
「参照されることがありません」 「なら、要らないな」
それで終わった。
議論も、懐古もなかった。
夜。
レオンハルトは執務室で帳票を閉じ、椅子に深く腰を下ろす。
(残るものは、選ばれた)
声が大きいものではない。
感情を揺さぶるものでもない。
続けられる判断だけが、ここに残った。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を開き、いつもより少し長く筆を取る。
――残るものは、静かだ。
――だが、迷わせない。
去ったものは、話題になる。
だが、残ったものは語られない。
それでも確かに、日常を支えている。
距離は、変わらない。
だが、その距離の上で、王宮と領地はそれぞれに――
同じ答えに辿り着いていた。
何が残ったのか。
その問いに即答できるようになった時、
改革は、ようやく過去になったのだ。
そして今日もまた、
誰も気づかないまま、
“残るべきもの”が、静かに更新されていく。
決別が終わった後に残るのは、人ではない。
怒りでも、悔恨でも、勝利でもない。
――何が、当たり前として残ったか。それだけだ。
王宮では、旧制度の名が完全に消えつつあった。
誰かが意図して口を閉ざしたわけではない。
必要とされなくなった。それだけのことだった。
「殿下、次期計画の確認を」
差し出された資料には、過去への注釈がほとんどない。
比較表も、旧来の参考欄も削られている。
「問題は?」
「ありません。前提条件はすべて現行基準で統一されています」
「なら、進めろ」
即答だった。
説明は不要。迷いもない。
昼の会合では、人事や制度の話題が淡々と流れていく。
誰が去ったか、どの派閥が弱まったか――
そんな話は、もはや意味を持たなかった。
「判断基準の文言、現場で完全に定着しています」 「問い合わせも、以前の三分の一以下です」
「良い傾向だ」
制度は、人に依存しなくなった瞬間、初めて制度になる。
それを誰もが理解し始めていた。
会議が終わった後、若い官僚がぽつりと呟く。
「……最近、“誰が決めたか”を気にしなくなりました」
「そうだな」
レオンハルトは頷く。
「“何に基づいて決めたか”だけでいい」
それが残ったものだ。
一方、フォーマルハウト領。
私は倉庫街を巡回し、空いた一角で足を止めた。
かつて長年取引のあった商家が使っていた場所だ。
「すぐに新しい業者を入れますか?」
執事の問いに、私は首を横に振る。
「必要になったら、です」
「空けたままで?」
「はい。急いで埋める理由がありません」
欠けたからといって、即座に補う必要はない。
それは不安からの行動でしかない。
午後、集会所で役人たちと確認を行う。
「最近、判断が早くなっています」 「迷う理由が減りましたから」
「何が減ったのです?」
「前例です」
その答えに、私は小さく頷いた。
「前例は便利ですが、判断の代わりにはなりません」
残ったのは、慣習ではない。
判断の軸だ。
同じ頃、王宮では一つの象徴的な変更が行われていた。
新人研修用の資料から、旧制度の詳細説明が削除されたのだ。
「参照されることがありません」 「なら、要らないな」
それで終わった。
議論も、懐古もなかった。
夜。
レオンハルトは執務室で帳票を閉じ、椅子に深く腰を下ろす。
(残るものは、選ばれた)
声が大きいものではない。
感情を揺さぶるものでもない。
続けられる判断だけが、ここに残った。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を開き、いつもより少し長く筆を取る。
――残るものは、静かだ。
――だが、迷わせない。
去ったものは、話題になる。
だが、残ったものは語られない。
それでも確かに、日常を支えている。
距離は、変わらない。
だが、その距離の上で、王宮と領地はそれぞれに――
同じ答えに辿り着いていた。
何が残ったのか。
その問いに即答できるようになった時、
改革は、ようやく過去になったのだ。
そして今日もまた、
誰も気づかないまま、
“残るべきもの”が、静かに更新されていく。
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