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33話 静かな決別
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33話 静かな決別
日常が続くほど、人は無意識に境界線を引く。
何を受け入れ、何を受け入れないのか――その線は、言葉にされないまま、はっきりと存在していた。
王宮では、その線が一つの“決別”として形を取ろうとしていた。
「殿下、旧制度関係者からの最終要請です」
差し出された文書は、これまでで最も丁寧で、最も切実だった。
感情を抑え、理屈を並べ、過去の功績を忘れないでほしいと訴えている。
「……最終、か」
レオンハルトは一読し、机に置いた。
「返答は?」
「保留を望まれています」
「不要だ」
言葉は静かだが、揺らぎはない。
「すでに答えは出ている。これ以上、期待を持たせる方が残酷だ」
決別とは、拒絶ではない。
線を動かさないという意思表示だ。
昼の会合では、その方針が共有された。
反対意見は出なかった。沈黙は、同意だった。
「移行措置は予定通り実施します」 「支援は?」
「再就職支援と、引き継ぎのみです」
「それでいい」
情を挟めば、線が歪む。
歪めれば、また戻される。
一方、フォーマルハウト領。
私は午後、長年取引のあった商家と向き合っていた。
「……今回の条件では、もう続けられません」
彼の声には、諦めと悔しさが混じっている。
「そうですか」
私は否定もしなければ、引き留めもしない。
「条件は変えません」 「分かっています。だから……決断しました」
それでいい。
続けられない相手を、無理に繋ぎ止めない。
契約は、その場で終了した。
握手も、別れの言葉もない。淡々と、書面だけが残る。
夕刻、領内を巡回する。
取引先が一つ減ったことは、すぐに噂になった。
「大丈夫でしょうか」 「問題ありません」
不安を否定しない。だが、判断は変えない。
「空いた枠は、別の商家が埋めます。条件は同じです」
線が見えていれば、人は来る。
来なければ、それまでだ。
同じ頃、王宮では旧制度の完全終了が告知されていた。
掲示は簡潔で、理由も短い。
「現行基準で支障がないため」
誰も騒がない。
拍手も、抗議もない。
夜。
レオンハルトは執務室で一人、灯りの下に座っていた。
(決別は、音がしない)
怒号も、涙もない。
ただ、戻れないという事実が、静かに残るだけだ。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を閉じ、窓の外を見る。星は昨日と同じ位置にある。
(静かな決別)
それは冷酷さではない。
同じ場所に立ち続けるための選択だ。
過去を否定しない。
だが、過去と共に歩くことも、もうしない。
距離は、変わらない。
だが、その距離の上で、王宮と領地はそれぞれに――
静かに、確実に、別れを終えていた。
そして日常は、何事もなかったかのように、
また一日、更新されていく。
日常が続くほど、人は無意識に境界線を引く。
何を受け入れ、何を受け入れないのか――その線は、言葉にされないまま、はっきりと存在していた。
王宮では、その線が一つの“決別”として形を取ろうとしていた。
「殿下、旧制度関係者からの最終要請です」
差し出された文書は、これまでで最も丁寧で、最も切実だった。
感情を抑え、理屈を並べ、過去の功績を忘れないでほしいと訴えている。
「……最終、か」
レオンハルトは一読し、机に置いた。
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「保留を望まれています」
「不要だ」
言葉は静かだが、揺らぎはない。
「すでに答えは出ている。これ以上、期待を持たせる方が残酷だ」
決別とは、拒絶ではない。
線を動かさないという意思表示だ。
昼の会合では、その方針が共有された。
反対意見は出なかった。沈黙は、同意だった。
「移行措置は予定通り実施します」 「支援は?」
「再就職支援と、引き継ぎのみです」
「それでいい」
情を挟めば、線が歪む。
歪めれば、また戻される。
一方、フォーマルハウト領。
私は午後、長年取引のあった商家と向き合っていた。
「……今回の条件では、もう続けられません」
彼の声には、諦めと悔しさが混じっている。
「そうですか」
私は否定もしなければ、引き留めもしない。
「条件は変えません」 「分かっています。だから……決断しました」
それでいい。
続けられない相手を、無理に繋ぎ止めない。
契約は、その場で終了した。
握手も、別れの言葉もない。淡々と、書面だけが残る。
夕刻、領内を巡回する。
取引先が一つ減ったことは、すぐに噂になった。
「大丈夫でしょうか」 「問題ありません」
不安を否定しない。だが、判断は変えない。
「空いた枠は、別の商家が埋めます。条件は同じです」
線が見えていれば、人は来る。
来なければ、それまでだ。
同じ頃、王宮では旧制度の完全終了が告知されていた。
掲示は簡潔で、理由も短い。
「現行基準で支障がないため」
誰も騒がない。
拍手も、抗議もない。
夜。
レオンハルトは執務室で一人、灯りの下に座っていた。
(決別は、音がしない)
怒号も、涙もない。
ただ、戻れないという事実が、静かに残るだけだ。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を閉じ、窓の外を見る。星は昨日と同じ位置にある。
(静かな決別)
それは冷酷さではない。
同じ場所に立ち続けるための選択だ。
過去を否定しない。
だが、過去と共に歩くことも、もうしない。
距離は、変わらない。
だが、その距離の上で、王宮と領地はそれぞれに――
静かに、確実に、別れを終えていた。
そして日常は、何事もなかったかのように、
また一日、更新されていく。
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