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37話 変えない選択
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37話 変えない選択
続ける覚悟が問われたあと、人は必ず次の問いに辿り着く。
――本当に、何も変えなくていいのか。
王宮では、その問いが水面下で広がり始めていた。
表立った反対はない。提案書も減った。
だが、静かな不安が、確かに漂っている。
「殿下、最近“停滞しているのでは”という声が、外部で出ています」
側近の報告に、レオンハルトは眉を動かさなかった。
「停滞の定義は?」
「変化が見えない、とのことです」
「……それは、機能している証拠だ」
変化がないのは、止まっているからではない。
壊れていないからだ。
昼の会合でも、同じ話題が上がった。
「数字は安定していますが、目新しさがありません」 「改革の次を、そろそろ示すべきでは?」
その言葉に、レオンハルトは静かに首を横に振る。
「次を示す必要はない」
「ですが……」
「“変えない”という判断を、示している」
会議室が静まる。
「変えるべき時は、基準が機能しなくなった時だ。
今は違う。なら、動く理由がない」
変えないことは、怠慢ではない。
選択だ。
一方、フォーマルハウト領。
私は午後、役人たちと小さな茶会を開いていた。
形式ばらない場で、本音を聞くためだ。
「正直に言ってください。何か、変えたいことは?」
しばらく沈黙が続いた後、若い一人が口を開く。
「……特に、ありません」
「不満は?」
「ありません。困っている点も……今は」
その答えに、私は頷いた。
「それなら、変えません」
「え?」
「問題がないのに変えると、必ず歪みが出ます」
彼らは戸惑いながらも、次第に理解したようだった。
「変える勇気も必要ですが、
変えない勇気は、もっと必要です」
夕刻、領内を巡回する。
道は整い、流れは滑らかだ。
派手な発展はないが、破綻もない。
(これを、守る)
それだけでいい。
同じ頃、王宮では外部向けの簡潔な声明が出されていた。
「現行基準は有効であり、変更の予定はありません」
短く、明確な文面。
説明も、飾りもない。
「強気では?」 「いいえ。事実です」
夜。
レオンハルトは執務室で一人、灯りを落とす前に立ち止まった。
(変えない選択)
それは、何もしないことではない。
誘惑に抗い続ける、終わりのない判断だ。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を開き、今日の結論を書き留める。
――今日は、何も変えなかった。
それでいい。
明日も、同じでいい。
距離は、変わらない。
だが、その距離の中で、王宮と領地はそれぞれに――
同じ選択を、同じ重さで下していた。
変えない選択は、目立たない。
評価もされにくい。
だが、それを続けられる限り、
日常は――静かに、強く、生き続ける。
続ける覚悟が問われたあと、人は必ず次の問いに辿り着く。
――本当に、何も変えなくていいのか。
王宮では、その問いが水面下で広がり始めていた。
表立った反対はない。提案書も減った。
だが、静かな不安が、確かに漂っている。
「殿下、最近“停滞しているのでは”という声が、外部で出ています」
側近の報告に、レオンハルトは眉を動かさなかった。
「停滞の定義は?」
「変化が見えない、とのことです」
「……それは、機能している証拠だ」
変化がないのは、止まっているからではない。
壊れていないからだ。
昼の会合でも、同じ話題が上がった。
「数字は安定していますが、目新しさがありません」 「改革の次を、そろそろ示すべきでは?」
その言葉に、レオンハルトは静かに首を横に振る。
「次を示す必要はない」
「ですが……」
「“変えない”という判断を、示している」
会議室が静まる。
「変えるべき時は、基準が機能しなくなった時だ。
今は違う。なら、動く理由がない」
変えないことは、怠慢ではない。
選択だ。
一方、フォーマルハウト領。
私は午後、役人たちと小さな茶会を開いていた。
形式ばらない場で、本音を聞くためだ。
「正直に言ってください。何か、変えたいことは?」
しばらく沈黙が続いた後、若い一人が口を開く。
「……特に、ありません」
「不満は?」
「ありません。困っている点も……今は」
その答えに、私は頷いた。
「それなら、変えません」
「え?」
「問題がないのに変えると、必ず歪みが出ます」
彼らは戸惑いながらも、次第に理解したようだった。
「変える勇気も必要ですが、
変えない勇気は、もっと必要です」
夕刻、領内を巡回する。
道は整い、流れは滑らかだ。
派手な発展はないが、破綻もない。
(これを、守る)
それだけでいい。
同じ頃、王宮では外部向けの簡潔な声明が出されていた。
「現行基準は有効であり、変更の予定はありません」
短く、明確な文面。
説明も、飾りもない。
「強気では?」 「いいえ。事実です」
夜。
レオンハルトは執務室で一人、灯りを落とす前に立ち止まった。
(変えない選択)
それは、何もしないことではない。
誘惑に抗い続ける、終わりのない判断だ。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を開き、今日の結論を書き留める。
――今日は、何も変えなかった。
それでいい。
明日も、同じでいい。
距離は、変わらない。
だが、その距離の中で、王宮と領地はそれぞれに――
同じ選択を、同じ重さで下していた。
変えない選択は、目立たない。
評価もされにくい。
だが、それを続けられる限り、
日常は――静かに、強く、生き続ける。
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