婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ

文字の大きさ
37 / 40

37話 変えない選択

しおりを挟む
37話 変えない選択

 続ける覚悟が問われたあと、人は必ず次の問いに辿り着く。
 ――本当に、何も変えなくていいのか。

 王宮では、その問いが水面下で広がり始めていた。
 表立った反対はない。提案書も減った。
 だが、静かな不安が、確かに漂っている。

「殿下、最近“停滞しているのでは”という声が、外部で出ています」

 側近の報告に、レオンハルトは眉を動かさなかった。

「停滞の定義は?」

「変化が見えない、とのことです」

「……それは、機能している証拠だ」

 変化がないのは、止まっているからではない。
 壊れていないからだ。

 昼の会合でも、同じ話題が上がった。

「数字は安定していますが、目新しさがありません」 「改革の次を、そろそろ示すべきでは?」

 その言葉に、レオンハルトは静かに首を横に振る。

「次を示す必要はない」

「ですが……」

「“変えない”という判断を、示している」

 会議室が静まる。

「変えるべき時は、基準が機能しなくなった時だ。
 今は違う。なら、動く理由がない」

 変えないことは、怠慢ではない。
 選択だ。

 一方、フォーマルハウト領。
 私は午後、役人たちと小さな茶会を開いていた。
 形式ばらない場で、本音を聞くためだ。

「正直に言ってください。何か、変えたいことは?」

 しばらく沈黙が続いた後、若い一人が口を開く。

「……特に、ありません」

「不満は?」

「ありません。困っている点も……今は」

 その答えに、私は頷いた。

「それなら、変えません」

「え?」

「問題がないのに変えると、必ず歪みが出ます」

 彼らは戸惑いながらも、次第に理解したようだった。

「変える勇気も必要ですが、
 変えない勇気は、もっと必要です」

 夕刻、領内を巡回する。
 道は整い、流れは滑らかだ。
 派手な発展はないが、破綻もない。

(これを、守る)

 それだけでいい。

 同じ頃、王宮では外部向けの簡潔な声明が出されていた。

「現行基準は有効であり、変更の予定はありません」

 短く、明確な文面。
 説明も、飾りもない。

「強気では?」 「いいえ。事実です」

 夜。
 レオンハルトは執務室で一人、灯りを落とす前に立ち止まった。

(変えない選択)

 それは、何もしないことではない。
 誘惑に抗い続ける、終わりのない判断だ。

 一方、フォーマルハウト領の夜。
 私は日誌を開き、今日の結論を書き留める。

――今日は、何も変えなかった。

 それでいい。
 明日も、同じでいい。

 距離は、変わらない。
 だが、その距離の中で、王宮と領地はそれぞれに――
 同じ選択を、同じ重さで下していた。

 変えない選択は、目立たない。
 評価もされにくい。

 だが、それを続けられる限り、
 日常は――静かに、強く、生き続ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済み】私達はあなたを決して許しません

asami
恋愛
婚約破棄された令嬢たちがそれぞれに彼女らなりの復讐していくオムニバスストーリーです

【完結】婚約者を奪われましたが、彼が愛していたのは私でした

珊瑚
恋愛
全てが完璧なアイリーン。だが、転落して頭を強く打ってしまったことが原因で意識を失ってしまう。その間に婚約者は妹に奪われてしまっていたが彼の様子は少し変で……? 基本的には、0.6.12.18時の何れかに更新します。どうぞ宜しくお願いいたします。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

処理中です...