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38話 守られる日常
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38話 守られる日常
変えない選択を続けていると、やがてそれは評価されなくなる。
賞賛も、批判も、期待すらも薄れ――残るのは、当たり前の一日だけだ。
王宮の朝は、相変わらず整っていた。
報告は簡潔で、資料は薄く、誰も声を荒げない。
「殿下、本日の進行予定です」
「問題は?」
「ありません。全て予定通りです」
その言葉に、誰も特別な反応を示さない。
“予定通り”が、最も難しい成果だということを、ここにいる者は全員知っていた。
昼の会合では、珍しく外部視察団の話題が出た。
「最近、他国からの視察が増えています」 「理由は?」
「“何も起きていない理由”を知りたいそうです」
レオンハルトは、わずかに口角を上げた。
「派手な改革を見たいわけではないんだな」
「はい。むしろ逆です」
崩れていない理由。
炎上しない理由。
それは、説明が最も難しい。
「基準を守っている。それだけだと伝えろ」
それ以上は語らない。
日常は、演説では伝わらない。
一方、フォーマルハウト領。
私は朝の巡回で、子どもたちが道端で遊んでいるのを見た。
以前より、道に荷が溢れていない。
「最近、事故が減りました」
執事の報告に、私は頷く。
「流れが安定していますから」
流れが整うと、危険は減る。
それは、誰かが声高に守った結果ではない。
午後、集会所で役人たちと短い確認を行う。
「問題は?」
「ありません」
即答だった。
以前のような遠慮も、探りもない。
同じ頃、王宮では外部視察団が廊下を歩いていた。
彼らは驚いた様子で、こう呟く。
「……静かですね」
「はい」
案内役は、それ以上説明しなかった。
夜。
レオンハルトは執務室で帳票を閉じ、ふと考える。
(守られているのは、制度じゃない)
人の生活だ。
制度は、手段に過ぎない。
守るべきは、毎日同じ時間に眠り、同じ時間に起きられる日常。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を開き、短く書き留める。
――日常は、守られている。
誰かが盾になったからではない。
誰かが目立ったからでもない。
線を越えさせず、
線を広げず、
線の内側を、丁寧に保っただけだ。
距離は、変わらない。
だが、その距離の中で、王宮と領地はそれぞれに――
同じものを守っていた。
それは、富でも、名誉でもない。
明日も、今日と同じであるという確信。
守られる日常は、静かだ。
だからこそ、人は気づかない。
だが気づかれないまま、
日常は今日も、確かに守られていた。
変えない選択を続けていると、やがてそれは評価されなくなる。
賞賛も、批判も、期待すらも薄れ――残るのは、当たり前の一日だけだ。
王宮の朝は、相変わらず整っていた。
報告は簡潔で、資料は薄く、誰も声を荒げない。
「殿下、本日の進行予定です」
「問題は?」
「ありません。全て予定通りです」
その言葉に、誰も特別な反応を示さない。
“予定通り”が、最も難しい成果だということを、ここにいる者は全員知っていた。
昼の会合では、珍しく外部視察団の話題が出た。
「最近、他国からの視察が増えています」 「理由は?」
「“何も起きていない理由”を知りたいそうです」
レオンハルトは、わずかに口角を上げた。
「派手な改革を見たいわけではないんだな」
「はい。むしろ逆です」
崩れていない理由。
炎上しない理由。
それは、説明が最も難しい。
「基準を守っている。それだけだと伝えろ」
それ以上は語らない。
日常は、演説では伝わらない。
一方、フォーマルハウト領。
私は朝の巡回で、子どもたちが道端で遊んでいるのを見た。
以前より、道に荷が溢れていない。
「最近、事故が減りました」
執事の報告に、私は頷く。
「流れが安定していますから」
流れが整うと、危険は減る。
それは、誰かが声高に守った結果ではない。
午後、集会所で役人たちと短い確認を行う。
「問題は?」
「ありません」
即答だった。
以前のような遠慮も、探りもない。
同じ頃、王宮では外部視察団が廊下を歩いていた。
彼らは驚いた様子で、こう呟く。
「……静かですね」
「はい」
案内役は、それ以上説明しなかった。
夜。
レオンハルトは執務室で帳票を閉じ、ふと考える。
(守られているのは、制度じゃない)
人の生活だ。
制度は、手段に過ぎない。
守るべきは、毎日同じ時間に眠り、同じ時間に起きられる日常。
一方、フォーマルハウト領の夜。
私は日誌を開き、短く書き留める。
――日常は、守られている。
誰かが盾になったからではない。
誰かが目立ったからでもない。
線を越えさせず、
線を広げず、
線の内側を、丁寧に保っただけだ。
距離は、変わらない。
だが、その距離の中で、王宮と領地はそれぞれに――
同じものを守っていた。
それは、富でも、名誉でもない。
明日も、今日と同じであるという確信。
守られる日常は、静かだ。
だからこそ、人は気づかない。
だが気づかれないまま、
日常は今日も、確かに守られていた。
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