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第6話: 隠された才能の目覚め
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第6話: 隠された才能の目覚め
追放決定から二日後。
リンデル家の屋敷は、表向きは静かに出立の準備を進めていた。
エルカミーノの私室は、普段より少し散らかっていた。
荷物をまとめるためのトランクが開き、服や本が丁寧に詰め込まれている。
しかし、彼女の目はそれらではなく、部屋の隅にある古い本棚に向いていた。
「セシル、ちょっと手伝って」
「お嬢様、何を?」
メイドのセシルが首を傾げながら近づく。
エルカミーノは本棚の奥を押し、隠し扉のような仕組みを動かした。
ガチャリ、という小さな音。
本棚が横にスライドし、狭い秘密の部屋が現れる。
「わっ……! お、お嬢様!? これって……」
セシルが目を丸くする。
部屋の中は、埃っぽいが、明らかに使われていた痕跡があった。
小さな机の上に、薬草の束、ガラス瓶、奇妙な道具が並んでいる。
棚には色とりどりの液体が入った小瓶がずらり。
エルカミーノは静かに中へ入り、机に座った。
「ここは、私の秘密の場所。幼い頃から、こっそり使っていたの」
彼女は一つの瓶を取り上げ、蓋を開ける。
中から、淡い青色の液体が光を放ち始めた。
「これは……ポーション? お嬢様が作ったんですか!?」
セシルの声が上ずる。
エルカミーノは小さく頷いた。
「ええ。実は、私……前世の記憶があるの」
「ぜ、前世……?」
「日本人だった頃の記憶よ。そこでは、似たような知識――化学や薬学の基礎があった。この世界の魔法と組み合わせたら、こんなものが作れた」
彼女は机の上の薬草を指差す。
「普通の錬金術師なら、希少な素材が必要。でも私は、ありふれた薬草だけで、高級ポーションを作れるの。癒やし、美容、魔力回復……なんでも」
セシルは呆然と口を開けたまま、瓶を覗き込む。
「すごい……すごいですわ、お嬢様! なんで今まで隠してたんですか!? これがあれば、王都でも――」
「だから隠してたのよ」
エルカミーノは苦笑した。
「目立つの嫌いでしょう? それに、こんな力があったら、もっと政略結婚に利用されるだけ。……でも、もういいわ」
彼女は立ち上がり、部屋を見回した。
「追放される辺境なら、誰にも邪魔されずに、好きなだけ作れる。薬草園を作って、のんびり暮らすの」
セシルはしばらく黙っていたが、突然目を輝かせた。
「私、ついていきます! お嬢様のポーション作り、お手伝いしますわ!」
エルカミーノは優しく笑った。
「ありがとう、セシル。……あなただけには、本当の私を知っててほしい」
二人は秘密の部屋で、残りの時間をポーション作りに費やした。
青く輝く液体が瓶に注がれ、部屋全体が柔らかな光に包まれる。
(これが、私のチート……隠された才能)
エルカミーノは心の中で呟いた。
(王都なんて、もう必要ない。私の新しい人生、辺境で始めるわ)
外では、使用人たちが同情の目で荷物を運んでいる。
誰も知らない。
この「地味令嬢」が、実は大陸でも稀な天才錬金術師だということを。
出立まで、あと一日。
秘密の部屋の光は、静かに、しかし確実に輝き続けていた。
追放決定から二日後。
リンデル家の屋敷は、表向きは静かに出立の準備を進めていた。
エルカミーノの私室は、普段より少し散らかっていた。
荷物をまとめるためのトランクが開き、服や本が丁寧に詰め込まれている。
しかし、彼女の目はそれらではなく、部屋の隅にある古い本棚に向いていた。
「セシル、ちょっと手伝って」
「お嬢様、何を?」
メイドのセシルが首を傾げながら近づく。
エルカミーノは本棚の奥を押し、隠し扉のような仕組みを動かした。
ガチャリ、という小さな音。
本棚が横にスライドし、狭い秘密の部屋が現れる。
「わっ……! お、お嬢様!? これって……」
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棚には色とりどりの液体が入った小瓶がずらり。
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彼女は一つの瓶を取り上げ、蓋を開ける。
中から、淡い青色の液体が光を放ち始めた。
「これは……ポーション? お嬢様が作ったんですか!?」
セシルの声が上ずる。
エルカミーノは小さく頷いた。
「ええ。実は、私……前世の記憶があるの」
「ぜ、前世……?」
「日本人だった頃の記憶よ。そこでは、似たような知識――化学や薬学の基礎があった。この世界の魔法と組み合わせたら、こんなものが作れた」
彼女は机の上の薬草を指差す。
「普通の錬金術師なら、希少な素材が必要。でも私は、ありふれた薬草だけで、高級ポーションを作れるの。癒やし、美容、魔力回復……なんでも」
セシルは呆然と口を開けたまま、瓶を覗き込む。
「すごい……すごいですわ、お嬢様! なんで今まで隠してたんですか!? これがあれば、王都でも――」
「だから隠してたのよ」
エルカミーノは苦笑した。
「目立つの嫌いでしょう? それに、こんな力があったら、もっと政略結婚に利用されるだけ。……でも、もういいわ」
彼女は立ち上がり、部屋を見回した。
「追放される辺境なら、誰にも邪魔されずに、好きなだけ作れる。薬草園を作って、のんびり暮らすの」
セシルはしばらく黙っていたが、突然目を輝かせた。
「私、ついていきます! お嬢様のポーション作り、お手伝いしますわ!」
エルカミーノは優しく笑った。
「ありがとう、セシル。……あなただけには、本当の私を知っててほしい」
二人は秘密の部屋で、残りの時間をポーション作りに費やした。
青く輝く液体が瓶に注がれ、部屋全体が柔らかな光に包まれる。
(これが、私のチート……隠された才能)
エルカミーノは心の中で呟いた。
(王都なんて、もう必要ない。私の新しい人生、辺境で始めるわ)
外では、使用人たちが同情の目で荷物を運んでいる。
誰も知らない。
この「地味令嬢」が、実は大陸でも稀な天才錬金術師だということを。
出立まで、あと一日。
秘密の部屋の光は、静かに、しかし確実に輝き続けていた。
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