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第6章 医学界の猛反発
しおりを挟む──治療薬は完成した。
EDTA、重金属を体外に排出する奇跡の薬。
次は医学界に認めさせる番だ。そう思った私は、王立医学会の会議に乗り込んだ。
---
王城の一室。威厳ある机の並ぶ中、医師たちがずらりと並んでいる。
中央には、宮廷医師長ガブリエル。白髭を揺らし、まるで「私が医学だ」とでも言いたげな顔だ。
「──それでは、アルトハイム公爵令嬢。新しい治療法とやらを説明していただこう」
「はい」
私は深呼吸し、持参した小瓶を掲げた。
「この薬は、重金属を体から取り除く作用を持ちます。症状の原因は感染症ではなく、“月光の雫”に含まれる毒素です。これを投与すれば──」
そこまで言ったとき。
「ば、ばかな!」
ガブリエルが机を叩いて立ち上がった。
「薬草でも祈りでもない“毒を取り除く薬”だと!? そんなもの悪魔の業に決まっておる!」
「そうです! 医学に仇なす異端思想です!」
「人の体に“毒を抜く”など神への冒涜!」
医師たちと神官たちが口々に叫ぶ。会場はたちまち大混乱。
(うわぁ……やっぱりこうなるか)
予想はしていた。していたけど……あまりの拒絶っぷりに心が折れそうになる。
---
「皆さま、落ち着いてください!」
私は声を張った。
「患者の症状を見れば明らかです! 皮膚の変色、脱毛、神経障害……これは感染症の症状ではありません!」
「戯言を!」
ガブリエルが冷たく言い放つ。
「お前は医師でもなければ学識ある者でもない! ただの公爵令嬢にすぎん!」
その言葉に、会場の視線が一斉に突き刺さった。
──そうだ。私は医者じゃない。ただの社畜SE上がり。
ここで「専門知識がない」と言われれば、反論できる材料は少ない。
それでも。
「……患者が助かるなら、身分や肩書きなんて関係ありません!」
私の声が会場に響いた。
「わたしは……ただ、救いたいだけです!」
一瞬の沈黙。しかしすぐに嘲笑が広がった。
「理想論だ!」
「狂気に取り憑かれた娘め!」
「“狂気の令嬢”と呼んでやろう!」
──ああ、来た。“狂気の令嬢”レッテル。
社交界ではきっと噂が広まるだろう。「婚約破棄された挙げ句、奇怪な薬で騒いでいる」と。
---
会議が終わると、私は廊下に出て壁にもたれかかった。
心臓がドクドク鳴り、膝が震える。
「はぁぁぁ……やっぱり無理ゲーじゃん」
声に出した瞬間、涙がにじんだ。
けれど、横から声がかかった。
「エリアナ」
振り向けば、アレクサンダーが立っていた。
「君は正しい。少なくとも、私にはそう思える」
「でも……誰も信じてくれません」
「最初はそうだ。新しい知識は、いつも拒絶される」
彼の瞳は真剣そのものだった。
「だが、君の言う通りなら──患者が治れば、それが証明だ」
「……患者が、治れば」
その言葉が胸に落ちる。
そうだ、議論なんて必要ない。結果を見せればいい。
---
私は決意した。
「治験を始めます」
「危険だぞ。失敗すれば君の責任になる」
「ええ。全部、背負います」
声が震えていた。でも、迷いはなかった。
──重金属中毒の症状に苦しむ少女たちを救うために。
そして、この世界に科学の力を証明するために。
---
その夜。屋敷の自室でひとりになった私は、窓の外を見上げた。
王都の夜空は静かで、星々がきらめいている。
「私、医者じゃないし。知識だってラノベの聞きかじり」
呟きながら、自嘲気味に笑う。
「でも……生兵法だろうが何だろうが、誰かを救えるなら、やるしかないんだ」
胸の奥に、ふつふつと熱いものが広がっていた。
“狂気の令嬢”で結構。
だって、狂気でも命が救えるなら、それが本物の奇跡になる。
そう信じて、私は明日を迎える準備をした。
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