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第14章 権威の完全逆転
しおりを挟む──「青の雫」が各地で命を救い続けてから、数ヶ月。
王都の空気は明らかに変わっていた。
街角の噂話に、私の名前が出ることも珍しくなくなった。
「救世主様に診てもらった」
「おかげで母が助かった」
「青の雫は神の恵みだ」
……救世主呼ばわりは慣れないけど。
でも、人々の笑顔を見るたび、悪くないと思えるようになっていた。
---
ある日。王立医学会から正式な招集状が届いた。
そこには──
『公爵令嬢エリアナ・フォン・アルトハイム殿。青の雫に関する貢献を鑑み、王立医学会議において特別顧問としてお迎えしたく……』
「……は?」
私は思わず読み上げて固まった。
「お嬢様、すごいじゃないですか!」とマリアは大喜び。
「いやいや! 何この展開!? ついこの前まで“悪魔の業”とか言ってたくせに!」
でも結局、父に背中を押され、私は出席することになった。
---
会議の場。
そこにいたのは、かつて私を「狂気の令嬢」と嘲った宮廷医師長ガブリエルだった。
彼は人々の前で立ち上がり──
「……公爵令嬢エリアナ殿。先日の無礼、心よりお詫び申し上げる」
そう言って、深々と頭を下げた。
会場がざわめきに包まれる。
ガブリエルほどの権威が、若い令嬢に謝罪するなんて。
「そ、それは……顔を上げてください! 私なんかに!」
慌てて立ち上がった私を見て、彼は苦笑いを浮かべた。
「“私なんか”ではない。貴女は数多の命を救った。もはや王国医学に不可欠なお方だ」
「……そんな、大げさですよ。私なんてラノベ知識からの聞きかじりで……」
会場が一瞬静まり返る。
「ら、ラノ……?」
「何の秘伝書だ……?」
不思議そうな囁きに、私は慌てて咳払いした。
「えっと、とにかく! 私は医者じゃありません。生兵法は怪我のもとです。だから大役なんて無理です!」
本心だった。私はただ必死にオタク知識を引っ張り出しただけ。神格化なんて荷が重すぎる。
---
だが、ガブリエルは静かに言った。
「それでも……お願いせざるを得ない。我々は古い知識に縛られ過ぎていた。貴女のような柔軟な発想こそが、未来を救うのだ」
そして壇上に立った学会長までもが言った。
「我らが誇るべきは、己の権威ではない。民を救う知恵を持つ者を認めることだ。──エリアナ殿、どうか力を貸してほしい」
その場にいた全員が立ち上がり、一斉に頭を垂れる。
私は圧倒され、言葉を失った。
---
その光景を見ながら、ルカスが小さく囁いた。
「君がやってきたことは、確かに人を救った。それ以上の証明はない」
隣でアレクサンダーも微笑む。
「君の知識は、もう一人の頭の中に閉じ込めておくには惜しすぎる」
そして遠くから見守っていたディミトリが口を開いた。
「君は世界に必要な存在だ。王国だけでなく、他国にとっても」
……やめて、そんな真顔で言わないで! 心臓に悪い!
---
私は深呼吸をし、壇上に立った。
「……私は、特別な存在ではありません。ただ、たまたま知っていただけです」
ざわめきが広がる。
「でも、もしこの知識で救える命があるのなら──私にできる限り、お手伝いさせていただきます」
そう告げると、会場は大きな拍手に包まれた。
涙ぐむ人、笑顔で頷く人。
私は胸に手を当て、小さく呟いた。
(……これでいい。私は“救世主”なんかじゃない。ただ、知識を活かせる一人の人間なんだ)
---
会議のあと。
夜空を見上げながら、私は深いため息をついた。
「……権威が逆転するって、こういうことなんだ」
かつては“狂気の令嬢”。今は“王国医学の顧問”。
人の評価なんて、こんなにも変わる。
「だったら……その評価を、正しく未来に繋げたい」
月の光を受け、私は静かに拳を握った。
──革命は、まだ始まったばかり。
---
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