異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ

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衛生革命編第2章 古代ローマ式下水道の提案

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衛生革命編第2章 古代ローマ式下水道の提案

 王立宮殿の会議室には、緊張した空気が漂っていた。
 医師長ガブリエル、財務大臣ヴィクター、土木技師団の親方マルクス、そして数名の貴族たち。全員が一様に腕を組み、冷ややかな視線を公爵令嬢に注いでいた。

 その中央に立つのは、まだ十代半ばの少女──エリアナ・フォン・アルトハイム。
 しかしその瞳には、少女らしいあどけなさではなく、強い使命感が宿っていた。

「結論から申し上げます。度重なる疫病の原因は、王都の“汚水”にあります。そして、これを根本から解決するには……下水道の建設が不可欠です」

 堂々と放たれた言葉に、会議室はざわめいた。

「下水道……?」「地下に水路を作るなど、馬鹿げている!」
「公爵令嬢ともあろう方が、そんな下賤な話をなさるとは」

 貴族たちが眉をひそめ、土木親方マルクスは呆れたように頭を振った。


---

 だがエリアナは一歩も引かない。
 彼女は懐から自作の図面を広げ、机の上に広げてみせた。そこには緻密な線と数字で描かれた地下水路の設計が記されていた。

「これは……?」

「古代ローマに実在した『クロアカ・マキシマ』という大下水道を参考にしました。都市全体に暗渠を巡らせ、汚物を川へと導くのです」

 貴族の一人が鼻で笑った。

「馬鹿な。汚物を川に流せば、結局下流が汚れるではないか」

「その通りです。ですから、処理場を設けて沈殿・ろ過を行います。すべてを一度にとはいきませんが、順次改良すれば……王都全体を清浄な都市へと変えられます」

 さらりと言い切るエリアナに、場の空気が一瞬止まった。


---

「しかし……どうやって水を流すのだ?」とマルクスが問う。

 エリアナは指先で図面の斜線を示した。

「水は高いところから低いところへ流れる。ですから地形の標高差を利用します。理想的な勾配は千分の二から五……つまり、一キロで二メートルから五メートルの落差があれば自然に流れます」

「そ、そんな細かい計算……どうやって導き出した?」

「基本的な理屈ですわ。水の流れは物理法則に従うのですもの」

 彼女の明瞭な答えに、マルクスの表情がわずかに揺らいだ。


---

 だが、反発は根強かった。

「女性が土木工事など……」
「そのような大事業に国家予算を割けるはずがない」
「汚物処理に金をかけるなど、下品きわまりない!」

 罵声に近い反対意見が飛び交う中、エリアナは机を強く叩いた。

「いい加減にしてください!」

 少女の鋭い叱責に、場が静まり返る。

「皆さまは病を“神の怒り”や“運命”と呼んでいますが……違います。病の多くは“汚染された水”によって広がっているのです!」

 彼女は視線を一人ひとりに投げかけ、きっぱりと告げた。

「汚水を飲んで腹を壊し、命を落とす。赤痢もコレラもチフスも、すべて水が媒介している。だからこそ、上水と下水を分離するのです」

「そ、そんな……」
「馬鹿げた理屈だ……」

 しかし、否定の声には次第に迷いが混じり始めていた。


---

 エリアナは深呼吸し、少しだけ声を落とした。

「私は医者ではありません。土木技師でもありません。……ただの“オタク”です」

 場の空気が一瞬ざわめく。

「けれど、知っているのです。このままでは王都は、何度でも疫病に蹂躙される。ペニシリンを作っても、ワクチンを開発しても、根本を変えなければ……」

 彼女は拳を握りしめた。

「病気との戦いは永遠に終わらない!」

 その声は若くとも力強く、会議室の石壁に響き渡った。


---

 しばしの沈黙の後、財務大臣ヴィクターが低く唸った。

「……しかし、これほどの大工事、費用は天文学的数字になるぞ」

「その通りです。ですが、疫病による経済損失を考えてください。労働力の喪失、生産力の低下、医療費の増大……それらを合算すれば、下水道建設の費用など必ず取り返せます」

 ヴィクターは眉間に皺を寄せ、何かを計算するように黙り込んだ。

 一方、マルクスは図面に目を落とし、指で線をなぞる。

「……本当にこの通りに勾配を取れば、水は流れるのか?」

「ええ、必ず」

 エリアナは迷いなく頷いた。


---

 会議の後、エリアナは一人きりで窓辺に立った。
 石畳の街を眺めながら、小さく呟く。

「私は土木技師じゃない。でも……シムシティで何百時間も都市を作り続けてきたんだから、多少の見通しはあるわ」

 唇に苦笑を浮かべ、しかしその瞳は真剣な輝きを放っていた。

「勾配は千分の二から五……。まずは測量から始めましょう」

 少女の新たな挑戦が、静かに始まろうとしていた。



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